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いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
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 書くぞー。もとい、打つんですけど。
 明日の準備をし終え、準備万端(?)です。でも毎回、忘れ物した夢を見て、朝もう一回確認するんです。(笑)
 もう、バクバクですよね、毎回。
 何回も無駄に確認するので、しおりのチェックマークが役に立たなくなったりする。それで両親に爆笑されつつ、旅行します。
 しかしっ。荷物多っ! 女の子の荷物ってこれだからイヤなんだよ!
 海に入れない理由しかり、腹痛が酷いのしかり、女の子は面倒です。


 学校行事にお仕事持ち込むのはイヤですが、締め切り守ってないんで、ノート持って行きます。
 そうしないと、管理人さんと読者様の反応が怖いんです。『この日までに原稿のデータ送れって言ってるだろっ!!』並みのことを言われます。
 ……締め切り守らなくてすみません、とわけもなく謝ってみる。
 ただ書いてる内容がここより数倍恥ずかしいので、こっちにリンク載せることはないと思います。
 あっちにここのリンクは載せてますが。
 結構色々なところで、色々な話を載せてますんで、ネットで小説を読む方はもしかしたらどこかでお会いしてるかもしれませんねーー。

 よし、ちょっと続きの気になるかもしれない『鐘の音』。今回区切りどころが見つからず、少々長め。

+ + + + + + + + + +
『呼ぶ声』




「どういう、ことですか? 椿さん」

 ここへ来て文彦は初めて厳しい声になった。下げかけていた手を再び椿の肩を捕まえる。
 体を引こうとしていた椿は、驚くぐらい簡単に捕まえられる。

「来ないと、いうことです。もう二度と、あなたの邪魔をしない」
 
 ぎゅっと、椿の瞳に力が入る。笑顔より泣き顔より、ずっとその瞳は輝いていた。
 どの表情よりも椿自身の性情を表しているようだと文彦は思う。

「椿さん、あなたは」

「私は、自分の意思でここへ来なくなるんです。父や、母に……何かを言われたからではありません。私の判断です」
 
 涙をぬぐい、文彦の瞳を見据える。何かの決意を含んだ瞳を見つめ返し、文彦は椿の肩を握る手に力を込めた。
 心のどこかで信じていない自分がいる、と文彦は思う。しかしそれが消えるほど椿の瞳には強い意志があった。

「文さん、私は――確かにあなたの小説が好きですし、あなたに憧れていました。だけど、出会って、それ以上にあなたが好きになりました」
 
 一泊置いて、椿はやっと笑った。
 ここへ来てから作った自然な、しかし何かが違う笑顔ではなく、心のそこから思っていることをいい、笑っただけの表情。

「ですから本当は、ここへ来なくなるのは辛いです。悲しいし、苦しい。だけど、私には同じくらい大切な家族がいます。
父も母も、それから姉も、もうすぐ姉の夫になるはずの人も、皆大切です。だから来ません」

 椿はするりと自分の肩を掴む手から逃れる。

「だから自分が犠牲になったと思いません。……思いたくないから、今日来たんです」

 玄関の框(かまち)へ降り、靴へ足を滑り込ませた。
 丁寧に履き、袴の形を整え、最後に涙が残っていないか確認した後、椿は文彦へ向き直った。

「忘れますね。文さんのことも、文さんの小説も、この家で過ごした時間も」
 
 ……こんなこと言うなんて、未練がましくてごめんなさい。
 椿は柳眉を下げて、笑ってみせる。

「椿さんっ」

 堪らず呼ぶが、椿はその声に返事をしなかった。小さく笑い返すだけの椿不意にとても脆く見えた。
 どんなに強がったところで、彼女は十七、八の少女でしかなく、自分よりずっと弱いものなのだと文彦は改めて思った。

 自分の半分と少ししか生きていない、その少女が何を我慢する必要がある?

「あなたは一体、何を我慢してるんですか」

 そう聞いた瞬間、椿は框へ足をかけ、その勢いのまま文彦の浴衣を掴んだ。
 椿は文彦の浴衣の胸元をしっかりと握り、少しだけ背伸びする。靴の高さと背伸びのおかげで、やっと椿と文彦の視線が一致した。

 文彦の瞳に椿の微笑が移ったのはほんの一瞬で、次の瞬間には瞼を閉じた椿の顔が間近にあった。
 白い頬は赤く染まり、黒く長い睫がはっきりと見える。
 唇が酷く熱くて、だけど唇しか当たっていないこの状況が酷く可笑しく感じた。

 そしてすぐに離れた。椿がそっと瞳を伏せる。赤い頬はそのままに、それを隠すように椿は前髪を撫で付けた。

「何も、我慢してませんよ?」

 ただ、と言葉を切る。

「ただお見合いして、結婚するだけです」
 
 何でもないように、平気そうに、椿は笑った。そうでないはずなのに、それでも笑って見せた。

「文さんを忘れれば、きっとその人を大切にできると思うんです」

 そう言って椿は胸元を押さえる。框にかけていた足をどけ、手で払った。
 “汚れちゃいましたね”と小さく笑う口元がちらりと見えたが、その笑顔がどんな作りなのか確かめることはできなかった。

「さようなら、文さん。すぐ忘れることはできないけど、きっと忘れることはできると思います。ごめんなさい」

 文さん、と呼ぶ声はほんの少しだけ甘く響いて消えた。

 その間、文彦は言葉を発せない。
 何を言われたのか分からず、今までずっとその場に立っているだけだった。
 それでもようやくその言葉が意味するところを理解し、再び椿の肩を掴もうとする。

 しかしそれは、“掴もうとした”だけで終わってしまった。

「これ以上、忘れにくくさせないでっ、ください。今だって、結構泣きそうなんですよ」

 こんなこと言いたいんじゃないのに、と聞こえにくい、くぐもった声が聞こえる。
 そして椿は身を翻した。追いかけようとするのに、先ほどの声が重く張り付いて、文彦は身動きが取れなくなった。
 ぼんやりと辺りを見回し、椿の言葉を反芻する。
 そしてやっと。

 彼女はもう来ないのだと悟った。

「子供では、ありませんでしたね」

 誰にともなく言った後、はっきりと自覚する。彼女は“少女”ではあるが、“子供”ではなかった。
 自分で考え答えを出し、ここを去った――立派に自分の気持ちを持っている人だ。
 どうして、今までそんなことにも気付かなかったのだろうかと、文彦は息をつく。
 あの輝くような笑顔も、意思の強そうな眼差しも、ずっと見ていたはずなのに、と。
 玄関で呆然としていると、再び扉の前に人影が現れた。
 慌てて扉に走り寄ると、『先生』と聞きなれた声がした。

「原稿を取りに伺いました」

「藤野君か」

 少し着慣れていないような洋服。ネクタイも少し曲がっていて、眼鏡が今にもずれ落ちそうだ。
 どことなく頼りない印象の彼だが、これで立派に担当を務めている。おとなしそうな顔立ちに、人懐っこそうな笑顔で文彦を見つめていた。

「原稿、確かにお預かりしました。あ、そう言えば先生」

 文彦が原稿を渡すと、藤野はぱっと顔を上げて文彦を見た。原稿の入った紙袋を鞄に仕舞い、代わりに一枚の紙を差し出した。
 ぺらりと安っぽそうな紙を手に取り、書かれている文へ目を通す。

「次回、こんな企画を予定しているんですけど、書いていただけますか?」

 藤野の声をどこか遠くで聞きつつ、文彦はその紙に見入って、それから藤野に向き直った。

「これ、来月の『青夕社』に?」

 “青夕社”とは、文彦の小説を出している社の名前だが、ここでは月一で出される雑誌のことだ。
 確か椿も毎月買っていた、と文彦は唐突に思い出した。

「ええ。短編でいいので、来週の頭までに書いてくださいませんか?」
 
 急で申し訳ないんですけど、編集長がどうしても、と。
 小さくある藤野を見つめつつ、文彦は頷いた。来月ならばまだ、と情けないことを思ってしまう。

 もしかしたら……、彼女の意志を変えられるかもしれないと。

 考えても仕方のないことだったが、考える自分を止められないし、どうしようもなくなった。

「分かった」

「ありがとうございます。怒られずに済みました。あ、それとこれ、お渡ししますね」
 
 先ほどとは違う、真っ白な封筒が差し出される。
 ぴらりと裏返すと、青夕社の社紋が押されている。毎年恒例のものだと知り、興味を失ったように文彦はその紙を渡す。

「去年も行ったけど、面白くなかったし、私はいい」

「先生ー」

 封筒を返すと、藤野が声を上げた。
 封筒には去年同様、有名なホテルで開かれる夜会の招待状が入っているはずだ、と文彦は再び差し出された封筒を見る。
 青夕社から本を出したことがある様々な分野の人間が集まり、一晩中語り明かすのだ。
 毎年時期などは変わっているが、一年に一度絶対にある夜会だった。

「先生、困ります」

「適当に言っておいてくれ。私は家にいる」

 差し出された封筒に手をかけることはしない。
 藤野は小さく頭をかく。相当困っている様子を眺めつつ、文彦の心は変わらなかった。
 色々考えなければいけないと思うのに、なかなか思考は定まらない。

「今話題の『野色 くちなし』が出ないでどうするんですか」

「どうするって……。もともと“くちなし”はあまり話さないんだよ。夜会には出ないんだ。去年のは気まぐれだよ」
 
 藤野はその言葉を聞いて肩を落とす。
 文壇の新星ともてはやされている『野色 くちなし』がこんなに若いと思っている人も少ないだろう。
 文彦の文章はとにかく洗練されている、という印象を受ける。
 落ち着いていて、穏やかで、時折激しい。そんな雰囲気を好きになる読者も多いようだ。

「何でもしますから」
 
 泣き落としのように、藤野は頼む。
 そこでふと思いついたように、文彦は顔を上げた。



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