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いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
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 昨日言ってたやつですー。
 一回消えました。(笑) ちょっと調子が悪かったので、コピーしといてよかったです。
 まぁ、ここに書いてた文章自体はコピーしてなかったので、消えちゃいましたが。

 空気は大正です。でもそんなに意識して書いてはないので、空気だけだと思って気軽に読んで下されば。
 そして最後の二ページさえ読まなければ、自重作品。(最後の二ページがどうとかいう問題でもないんですが)
 ま、でもこれくらいなら小学生でも平気だと思います。(胸張って言うか) 私がただ単に、書けないというだけ。

 男性陣オジサン寄りです。ご注意ください。王道嫌いな方、回れ右をお勧めします。
 甘いのをお求めの方、二週間ほどしてから覗いてみると、案外甘いかもしれません。
 コンセプトは『少女漫画の読みきり』。すっきりを目指したんですが、微妙なできになりました。

+ + + + + + + + + +
『紅の布』



 静かで穏やかな時間の流れる一帯。その中でも一際大きくて、目立つ家がある。
 それが芹沢家の家だ。家自体もさることながら、さすがは元地主の家。庭も随分と広くて、季節の花が咲き乱れている。
 もっとも、世話をしていないので、野生化して勝手に生えているといった方が正しい。
 そんな家だったが、そこに住んでいるのは一人っきり。

 これだけ広い家には住む人間以外は、誰一人としていない。元地主の家なのに、手伝いのものさえいなかった。
 だかそういうわりに家自体は綺麗で、あるのは古い家特有の落ち着いた佇まいだけだ。
 庭にだけは手が回らないらしく、最低限しか手入れされてない。それでもなお、その家の庭は花に満ちていた。
 しんと静まり返った家には、人の気配もあまり感じられない。

「ふーみーさんっ」

 この少女が来るとき以外は。

「遊びに来ました」

 長い髪を流行の形に結い上げ、若草色の着物が目に鮮やかだ。
 女学院に通っている少女……野宮 椿(のみや つばき)の日課はここの主婦業だったりする。
 髪をまとめる布は、彼女の名前同様目にはっきりと残る紅色だった。

「椿さん」

 出てきた男は、晴れやかな椿とは対照的に苦い顔をした。成人をとっくに通り越したような男だ。
 少し長めの髪を肩のところで縛り、簡単に流している。灰色と黒が微妙な斑となっている浴衣を着崩し、面倒くさそうに玄関へ出てきた。

「私は明日が締め切りです。一昨日、そう言いましたよね」

「聞きましたよ? 確かに。でも文さん、ご飯食べないだろうと思って」

 差し入れですよ、と椿は男に笑いかけた。
 男の名前は芹沢 文彦(せりさわ ふみひこ)。名は体を表すという言葉どおり、小説を書いている。
 しかし、何を隠そう彼こそが元地主の一人息子なのだ。
 本来、華やかな世界にいてもおかしくなく、働かなくても十分生きていけるような人種だ。

「それはありがたいですが、椿さん」

「お邪魔しますねー」

 椿は文彦の脇をすり抜ける。彼の表情など、気にしてもいないらしい。文彦は一回だけため息をついたあと、玄関の扉を閉めた。
 からからという音だけが残る。

「相手はできませんよ」

「いいですよ。これ、読んでますから」
 
 すとん、と文机のそばに座り、肩から提げていた鞄から一冊の本を取り出す。
 年頃の少女が出すものにしては、少し重厚すぎる雰囲気を出していた。巷で流行っているような浪漫小説ではないらしい。
 半分より少し後に挟んであった栞を掴み、上へ引っ張り頁(ページ)を開いた。

「続きが気になって、授業中読んでしまいました。危うく先生に見つかって取り上げられるところだったんです」

「勉強してください」

 文机の上に積みあがっている厚い原稿に万年筆を走らせながら、文彦は苦笑いした。
 しかし既に返事はなく、少女は本の世界へ旅立っているようだ。
 帰って一人で読むのと何が変わるのか、と文彦は思いつつ、視線を下げる。
 白い原稿は早く埋めろと急かしているように、わずかに電灯の光を反射した。

 しばらく沈黙が降りる。
 お互いに干渉しない主義なのか、集中しているのか、気まずくない時間が流れた。
 が、突然ボーンと鈍い音が響く。
 七時を知らせる時計の音だ。ボーン、ボーンと規則正しい感覚で七回鳴り、そして止まる。
 何事もなかったかのように、時計はまた静かに動き始めた。
 その音に反応し、文彦は万年筆を置いた。椿がここに来るようになって以来、七時に鳴るように設定したのだ。
 放っておけば、いつまでもいてしまう少女を呼ぶ。

「椿さん。もう七時ですから、お帰りなさい。送っていきますから」

「えっ!! もうこんな時間なんですか。あと二十頁くらいなのに」

 ぱっと本を開いてみせる。そしてその本を大切そうに抱えた。それから本を鞄にしまい込み、立ち上がった。
 長い髪が揺れるのと同時に、紅の布も舞う。
 文彦は一瞬それに目を奪われるが、すぐに何にも関心のなさそうな顔に戻った。

「送っていきますから、家で読んでください」
 
 そう言うと、椿は眉を寄せて、残念そうな顔を作る。

「大変魅力的な申し出ではありますが、今回は遠慮します。この本の続きのために、見送りも結構です。
早く読みたいんで、文さんは机に戻ってください」

 せめて玄関口まで、と文彦は半ば押し切るように立てると、椿は振り返って笑った。初めて会ったとき同様、明るい笑顔だ。

「私、文さんの書く小説って大好きです。もちろん、文さんも好きですよ」

 女学院を卒業したら、お嫁に来たいくらいです、と若葉色の着物を翻した。

「こんな年の離れた男のところに来なくても、あなたならたくさん良縁があるでしょう。早くお帰りなさい。
ご両親が心配していらっしゃるのではないですか?」

 文彦の言葉に、一瞬だけ椿は嫌そうな顔をした。子ども扱いされたと思ったらしく、小さく唇を突き出して拗ねてみせる。
 その姿さえ幼く、三十路にあと少しで手の届く男は目を細めた。

「明日、夕方来ますね。そうしたら、原稿見せてください」

「本が出るまで待つのでは?」

 屈託のない笑顔を向ける椿に言葉を返す。文彦の返事に目を一回瞬きさせて、椿はまた笑った。

「だって、楽しみですもの。待ってられません」

 玄関の扉をからりと開けて、椿は外へ出る。
 そして急に思い出したように振り返った。いつもは相手の心情、都合など全て無視するのに、今回は窺うように文彦を見つめている。

「椿、さん?」

「あっ。えっと、ではまた明日。ごきげんよう」

 ぺこりと頭を下げて、椿は暗がりへ出る。あっという間に闇に消えて見えなくなった。
 まるで始めから少女がいなかったかのように、広い家は静まっている。

 初めて彼女に出会ったのは、桜が散りきり、葉桜がちらほら見られるようなときのことだったと、文彦は暗闇を見つめながら思い出した。




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