いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
気が付いたらあっという間に数週間経っているという事実。
時の流れって速いんですね。
ところで、今日は面接がありました。先生と志望校とか、学力について話しましたが。
その前に、面接室の前で今はもう担任ではなくなった某K林先生と遭遇。
K林)『池本。お前どうした。魂抜けたような顔をしてるぞ』
い) 『え……』
…………魂抜けたような顔、どんな顔だよ、と突っ込みたかった心情は汲んでください。
そして面接でショックなことを言われました。
今度は担任のK先生です。
K(某K林じゃない) 『池本。お前、『意外に』勉強できるんだな』
い) 『えっと??』(でもめちゃくちゃ悪い模試だった)
K) 『お前実は勉強に自信ないだろう』
い) 『実はというか、全くです』
意外に、ってどこまで人がバカだと思ってたんですか!! 先生。
私これでも提出物は毎回出す、『仮面』優等生なんですよっ!
たとえ授業を真面目に出ていなくともっ。
と、言いたかったが、成績があまりよくないのも、勉強に自信がないのも事実なので何も言えなかった。
でもさ、勉強に自信ある奴なんているのかよっ!? って思いません?
そんなこんなで、元気がなかったので、LaLaDXを買ってきました。
堂上好きな方はぜひ。今回は半裸祭りでした。温泉っていいですね。水も滴る~が見たいなら、書店へどうぞ。
いや、一番今回いいところをもって行ったのは、こまっきーだけどね。浴衣姿の教官方を、写メで見た友人から一言。
『脱がしたい』
……犯罪です。
時の流れって速いんですね。
ところで、今日は面接がありました。先生と志望校とか、学力について話しましたが。
その前に、面接室の前で今はもう担任ではなくなった某K林先生と遭遇。
K林)『池本。お前どうした。魂抜けたような顔をしてるぞ』
い) 『え……』
…………魂抜けたような顔、どんな顔だよ、と突っ込みたかった心情は汲んでください。
そして面接でショックなことを言われました。
今度は担任のK先生です。
K(某K林じゃない) 『池本。お前、『意外に』勉強できるんだな』
い) 『えっと??』(でもめちゃくちゃ悪い模試だった)
K) 『お前実は勉強に自信ないだろう』
い) 『実はというか、全くです』
意外に、ってどこまで人がバカだと思ってたんですか!! 先生。
私これでも提出物は毎回出す、『仮面』優等生なんですよっ!
たとえ授業を真面目に出ていなくともっ。
と、言いたかったが、成績があまりよくないのも、勉強に自信がないのも事実なので何も言えなかった。
でもさ、勉強に自信ある奴なんているのかよっ!? って思いません?
そんなこんなで、元気がなかったので、LaLaDXを買ってきました。
堂上好きな方はぜひ。今回は半裸祭りでした。温泉っていいですね。水も滴る~が見たいなら、書店へどうぞ。
いや、一番今回いいところをもって行ったのは、こまっきーだけどね。浴衣姿の教官方を、写メで見た友人から一言。
『脱がしたい』
……犯罪です。
+ + + + + + + + + +
『偽者ですよ』 とあらかじめ言われていたのに。
どんなやつかと、楽しみにして待っていた。
『賢者』と名乗ったその女は、一体どうやって黒髪黒目になったのか、本当にそうなのか、ただ単純に興味が引かれた。
しかし、見た瞬間から目が放せなくなる。
美しい黒髪は結い上げられ、照明を煌々と弾き返す。その瞳もまた闇色なのかと思いながら、顔を上げるのを待った。
ふっと、その偽者は顔を上げた。すっきりとした顔立ちで、伏せ目がちながらこちらをはっきりと見ている。
ぱちり、と目が合った。するとその女……いや、少女は慌てたように再び顔を伏せる。
まだ幼いながらこちらを見た瞳だけは、ひどく大人びた印象だった。
呼びかけると小さく驚いたように目を見開く。笑うことは無い。
しかしかといって全くの無表情というわけでもないその少女は、写真の賢者よりもずっと人間らしく、愛らしかった。
こちらを見つめる瞳はあくまで澄んでいて、こちらを騙そうとしているようには見えなかった。
ユキノと名乗った少女の顔は、何かを諦めているような顔と、何かを切に求めている顔だと思う。
「情に流されているんですか?」
ヒョコリと顔を出した側近に無言で返す。ノアは眉を寄せたが、やがて少しだけ笑った。
「まあ、今のところは黒髪黒目というだけで十分ですよ」
「ノア……」
身も蓋もない言い方に渋い顔をすると、ノアは人の悪い顔をする。
人を利用するときの顔だ、とそっと思いながら中庭で話していた。
花がたくさん植えられているので、ここだと近くに寄らない限り声は漏れない。
「せいぜい惚れないでくださいよ。面倒ですからね」
「面倒って……随分な言い方だな。后を決めろといったのはお前だろ」
嫌味半分で言ってやると、ノアの顔つきが変わった。
后の名を出したのはやりすぎだったかもしれない。
ただ可愛いと思っただけで、何もそこまで考えているわけではないと言い直そうとする。
が、既に遅かった。
「陛下は、そこまで」
「い、いや、何も」
「そこまであの娘をっ!!」
こうなると、誤解は解けないような気がしてきた。
「あー。あまり苛めるなよ」
そういった瞬間、近くに見知った気配を感じる。
ちょうど今話題になっていた少女がこちらを歩いているらしい。ノアがニヤリ、と何やら怖い笑顔を作る。
「逃げてるんですかね」
「まさか」
「脅しときますか。もちろん、協力してくださいますよね。お父上との約束がかかってるんですからね。
彼女が偽者だとばれたら、一体どうなることやら」
「協力するのはいいが、あまり怖がらせるなよ」
「はい。もちろん」
正直、その笑顔は胡散臭すぎて、信用できなかった。
始めは利用するための駒だった。
父との約束をかなえるための、ただの道具に過ぎなかった。それでも純粋に、可愛らしい子だと思った。
あれから数日後。
廊下でしゃがみこんでいるユキノがいた。
夕焼けに照らされた黒髪はほのかに赤く染まっている。一瞬泣いているのかと、どきりとした。
しかし声をかければびくりと肩をそびやかしつつ、気丈にも返事をしてきた。
「こんなところで何をしているんだ?」
「どうやって……あなたを魔王様らしくするか考えていました」
そんな会話をする。
しかし、明らかにそれが嘘であると分かってしまう。
聞き出そうと一瞬思うが、彼女がそれを望んでいないことを知り、やめた。代わりに隣へと座る。
ふわりと、柔らかい何かが香る。
不意に、ユキノならこの甘えは許されるだろうかと思う。
人間も魔族も友好関係を結ぶことはできないのだろうかと、ずっと思っていたことを口に出した。
口に出しても、一笑される提案に、ユキノはじっと耳を澄ませてくれている。
励ますでもなく、反対するでもなく、何かを考えるようにじっと聞いていた。
(甘え……だな)
小さく心の中で呟くが、隣の体温の温かさに負けて身を寄せた。
ぴくり、と小さく肩が上がる。しかしユキノは何も言わなかった。ほう、と息を吐けば、ここ最近感じることのない安心感が身に沁みた。
反対に、自分の肩に乗せた頭は小さく、真っ黒な髪が自分の肩をすべる。
とくり、となった胸に気づかぬふりをした。
「ノア、授業の変更は伝えたんだろう? ユキノはいつ来る? 図書館に行っているのか?」
「さぁ、先ほどからメイドたちが探しているはずなのですが、いませんねぇ。逃げたんでしょうか?」
冗談交じりのそれにドキリとした。それを押さえつけるように立ち上がり、ノアに向き直る。
「ちょっと見てくる」
嫌な予感がして、瞼裏に焼き付けた瞳が移る。
真っ黒な、そして澄んだ瞳。事件に巻き込まれて可能性は限りなく低いと、冷静さを欠いた自分に言い聞かせる。
それでも胸に残る不安はぬぐえなかった。
不安で不安で仕方なく、走り出した。
それが何なのか、気づく手前。そして。
「それならわたしは、そんな王いらない」
ざくり、と傷ついたのに、その瞳に囚われた。
そして他人事のように思う。自分はこの少女に惹かれているのだと。だから少女が泣きそうになれば心が痛むし、何とかしたいと思う。
事件に巻き込まれているなら、何をおいても助けたいと思う。
わずかに震えている体に手を伸ばすと、恐れるように身を引かれた。
その瞳にはっきりと恐怖が映る。自分を移す瞳が、恐怖の色を映し出す。
当然だ、彼女から見ればこちらは『バケモノ』だろう。そう思いながら、失望している自分がいる。
ユキノなら、受け入れてくれるかもしれないと、心のどこかで思っていた。ずっと願っていたのかもしれない。
この強大な力を、か弱い人間の身で受け入れてくれるかもしれないと?
ありえないだろうと、分かっている。
この力は、人間には大きすぎる。ユキノが置いていった荷物を持っていったときでもまだ、その恐れは残っていた。
壁越しの拒絶が痛くて、それでも揺れる声を聞き抱きしめられればどんなにいいかと思う。
ユキノはそんなことを求めていないのに。そんなこと、いらない言っているのに。
震える声で、“近づかないで”と訴えているようだった。
それでもその震えを押さえる少女がいとおしく思う。ごめんと、謝ると返事がなくなった。
彼女と自分は明らかに違うのだ。時間さえ、平等には流れない。
「先王よ」
顔も声も、薄れかけている父へ問いかける。
全てが薄れてゆく中で、しかし父との約束だけはしっかりと覚えていた。
父が愛した女性もまた人間で、父のとった行動は人間の理解の範疇を超えている。
「あなたは、何をしたかったんですか?」
そこまで愛した女性を一人残していくことに、抵抗はなかったのだろうか。
「俺にはできない」
彼女に恨まれることだけはしたくない。だけどその手を離したくもないのだ。
「俺には、何もできない」
だから一つ、帰る彼女に呪(まじな)いをかけた。
一種の賭けにも似た、祈りにも似た――あるいは、子供らしい呪い。言葉と、そして自分の瞳によく似た首飾り。
もしお前が、はっきりと『帰る』と言ったら、そのときは……好きだと言おうと決めていた。
そう言ったときの少女の顔を、自分はきっと一生涯忘れられないと思う。
諦めの悪い自分は、きっと何度でもあのときの顔を思い出し、彼女を思い続けるのだろう。
その思いに、身を焦がすのだろう。
もしかしたら、出会った瞬間から囚われていたのかもしれない。
あの瞳に、声に、顔に、心に、全てに。彼女の、全てに。
ここへ残れと、どれだけ言いたかった、彼女はきっと知らない。
知らないで、いいとも思う。
知ってしまったらきっと、彼女は気に病むから。それでも、ここへ残れと、言いたかった。
その腕を掴んで、胸の中に閉じ込めて、帰さないように抱きしめていたかった。
「そこまで、あの小娘を愛しておいでですか?」
隣から声が聞こえる。その声に、苦笑いで返す。
しようがない、愛してしまったという事実は今更変えられないのだから。変えようとも、思えないのだから。
「あぁ、無理やりにでも、連れてきたいと思うくらいにはな」
ノアがはぁ、と呆れたようにため息を吐いた。
その眉間に皺がよっている。そしてノアはその体をすっと横へずらした。
するとそこへいるはずもない少女が出てくる。
ぎゅっと胸元を握り締め、こちらを見ていた。
「少し、考えてて……。それで、答えが出そうなんだけど、でも、あの、まだ、分からなくて。
それで、あの――ね。まだ、答えは出てないから、本当なら会っちゃいけないんだろうなと思うんだけど」
一生懸命言葉を紡ぐ彼女を見た瞬間、体が勝手に動き出した。
会いたかったと思うよりも、好きだと思うよりも、まず言いたかった言葉が口をついて出てきた。
「おかえり。ユキノ」
「ただいま。ジル」
こちらが帰る場所なのだと、いつか思ってくれるだろうか、そう思いながら手を伸ばす。
ぎゅっと抱きしめれば、背中に遠慮がちに手を回された。その事実が嬉しくて、手に力がこもる。
彼女の答えはまだ知らない。
でもとりあえず『大嫌い』ではないことに安心する。安い安心だと思いつつも、ユキノの体から手を離せなかった。
「どうして、帰って来たんだ?」
「ノアに、連れてこられた」
じろり、とユキノの瞳が自分の肩を超えて後ろを見る。
ノアの顔はこちらからは見えないが、きっといい笑顔でこちらを見ているであろうということは長年の勘で分かった。
「ノアの給料増やさないと、だな」
「ありがとうございます」
「え、いいのっ!! そんなことで、いいのっ!? っていうか、給料制だって始めて知ったよ」
わけの分からない会話がしばらく続く、少し離れていたにもかかわらず、その空気は別れる前となんら変わりなかった。
もしかしたら、変化なんてないのかもしれない。
「ユキノ、出そうになった答え、早く出してくれないか? こちらとしては、早く答えが聞きたいんだが」
「だって!! ちゃんと考えたいから。いい加減な気持ちで出したくないから、もう少し、待って? ダメ?」
この瞳がどんな力を持っているか、彼女は知らないのだ。
すっとこちらを真摯に見つめれば、自分がどんな願いもかなえてやる、と思うと知らないのだ。
返事の代わりに、頬へ一つ、キスを落とした。
10
どんなやつかと、楽しみにして待っていた。
『賢者』と名乗ったその女は、一体どうやって黒髪黒目になったのか、本当にそうなのか、ただ単純に興味が引かれた。
しかし、見た瞬間から目が放せなくなる。
美しい黒髪は結い上げられ、照明を煌々と弾き返す。その瞳もまた闇色なのかと思いながら、顔を上げるのを待った。
ふっと、その偽者は顔を上げた。すっきりとした顔立ちで、伏せ目がちながらこちらをはっきりと見ている。
ぱちり、と目が合った。するとその女……いや、少女は慌てたように再び顔を伏せる。
まだ幼いながらこちらを見た瞳だけは、ひどく大人びた印象だった。
呼びかけると小さく驚いたように目を見開く。笑うことは無い。
しかしかといって全くの無表情というわけでもないその少女は、写真の賢者よりもずっと人間らしく、愛らしかった。
こちらを見つめる瞳はあくまで澄んでいて、こちらを騙そうとしているようには見えなかった。
ユキノと名乗った少女の顔は、何かを諦めているような顔と、何かを切に求めている顔だと思う。
「情に流されているんですか?」
ヒョコリと顔を出した側近に無言で返す。ノアは眉を寄せたが、やがて少しだけ笑った。
「まあ、今のところは黒髪黒目というだけで十分ですよ」
「ノア……」
身も蓋もない言い方に渋い顔をすると、ノアは人の悪い顔をする。
人を利用するときの顔だ、とそっと思いながら中庭で話していた。
花がたくさん植えられているので、ここだと近くに寄らない限り声は漏れない。
「せいぜい惚れないでくださいよ。面倒ですからね」
「面倒って……随分な言い方だな。后を決めろといったのはお前だろ」
嫌味半分で言ってやると、ノアの顔つきが変わった。
后の名を出したのはやりすぎだったかもしれない。
ただ可愛いと思っただけで、何もそこまで考えているわけではないと言い直そうとする。
が、既に遅かった。
「陛下は、そこまで」
「い、いや、何も」
「そこまであの娘をっ!!」
こうなると、誤解は解けないような気がしてきた。
「あー。あまり苛めるなよ」
そういった瞬間、近くに見知った気配を感じる。
ちょうど今話題になっていた少女がこちらを歩いているらしい。ノアがニヤリ、と何やら怖い笑顔を作る。
「逃げてるんですかね」
「まさか」
「脅しときますか。もちろん、協力してくださいますよね。お父上との約束がかかってるんですからね。
彼女が偽者だとばれたら、一体どうなることやら」
「協力するのはいいが、あまり怖がらせるなよ」
「はい。もちろん」
正直、その笑顔は胡散臭すぎて、信用できなかった。
始めは利用するための駒だった。
父との約束をかなえるための、ただの道具に過ぎなかった。それでも純粋に、可愛らしい子だと思った。
あれから数日後。
廊下でしゃがみこんでいるユキノがいた。
夕焼けに照らされた黒髪はほのかに赤く染まっている。一瞬泣いているのかと、どきりとした。
しかし声をかければびくりと肩をそびやかしつつ、気丈にも返事をしてきた。
「こんなところで何をしているんだ?」
「どうやって……あなたを魔王様らしくするか考えていました」
そんな会話をする。
しかし、明らかにそれが嘘であると分かってしまう。
聞き出そうと一瞬思うが、彼女がそれを望んでいないことを知り、やめた。代わりに隣へと座る。
ふわりと、柔らかい何かが香る。
不意に、ユキノならこの甘えは許されるだろうかと思う。
人間も魔族も友好関係を結ぶことはできないのだろうかと、ずっと思っていたことを口に出した。
口に出しても、一笑される提案に、ユキノはじっと耳を澄ませてくれている。
励ますでもなく、反対するでもなく、何かを考えるようにじっと聞いていた。
(甘え……だな)
小さく心の中で呟くが、隣の体温の温かさに負けて身を寄せた。
ぴくり、と小さく肩が上がる。しかしユキノは何も言わなかった。ほう、と息を吐けば、ここ最近感じることのない安心感が身に沁みた。
反対に、自分の肩に乗せた頭は小さく、真っ黒な髪が自分の肩をすべる。
とくり、となった胸に気づかぬふりをした。
「ノア、授業の変更は伝えたんだろう? ユキノはいつ来る? 図書館に行っているのか?」
「さぁ、先ほどからメイドたちが探しているはずなのですが、いませんねぇ。逃げたんでしょうか?」
冗談交じりのそれにドキリとした。それを押さえつけるように立ち上がり、ノアに向き直る。
「ちょっと見てくる」
嫌な予感がして、瞼裏に焼き付けた瞳が移る。
真っ黒な、そして澄んだ瞳。事件に巻き込まれて可能性は限りなく低いと、冷静さを欠いた自分に言い聞かせる。
それでも胸に残る不安はぬぐえなかった。
不安で不安で仕方なく、走り出した。
それが何なのか、気づく手前。そして。
「それならわたしは、そんな王いらない」
ざくり、と傷ついたのに、その瞳に囚われた。
そして他人事のように思う。自分はこの少女に惹かれているのだと。だから少女が泣きそうになれば心が痛むし、何とかしたいと思う。
事件に巻き込まれているなら、何をおいても助けたいと思う。
わずかに震えている体に手を伸ばすと、恐れるように身を引かれた。
その瞳にはっきりと恐怖が映る。自分を移す瞳が、恐怖の色を映し出す。
当然だ、彼女から見ればこちらは『バケモノ』だろう。そう思いながら、失望している自分がいる。
ユキノなら、受け入れてくれるかもしれないと、心のどこかで思っていた。ずっと願っていたのかもしれない。
この強大な力を、か弱い人間の身で受け入れてくれるかもしれないと?
ありえないだろうと、分かっている。
この力は、人間には大きすぎる。ユキノが置いていった荷物を持っていったときでもまだ、その恐れは残っていた。
壁越しの拒絶が痛くて、それでも揺れる声を聞き抱きしめられればどんなにいいかと思う。
ユキノはそんなことを求めていないのに。そんなこと、いらない言っているのに。
震える声で、“近づかないで”と訴えているようだった。
それでもその震えを押さえる少女がいとおしく思う。ごめんと、謝ると返事がなくなった。
彼女と自分は明らかに違うのだ。時間さえ、平等には流れない。
「先王よ」
顔も声も、薄れかけている父へ問いかける。
全てが薄れてゆく中で、しかし父との約束だけはしっかりと覚えていた。
父が愛した女性もまた人間で、父のとった行動は人間の理解の範疇を超えている。
「あなたは、何をしたかったんですか?」
そこまで愛した女性を一人残していくことに、抵抗はなかったのだろうか。
「俺にはできない」
彼女に恨まれることだけはしたくない。だけどその手を離したくもないのだ。
「俺には、何もできない」
だから一つ、帰る彼女に呪(まじな)いをかけた。
一種の賭けにも似た、祈りにも似た――あるいは、子供らしい呪い。言葉と、そして自分の瞳によく似た首飾り。
もしお前が、はっきりと『帰る』と言ったら、そのときは……好きだと言おうと決めていた。
そう言ったときの少女の顔を、自分はきっと一生涯忘れられないと思う。
諦めの悪い自分は、きっと何度でもあのときの顔を思い出し、彼女を思い続けるのだろう。
その思いに、身を焦がすのだろう。
もしかしたら、出会った瞬間から囚われていたのかもしれない。
あの瞳に、声に、顔に、心に、全てに。彼女の、全てに。
ここへ残れと、どれだけ言いたかった、彼女はきっと知らない。
知らないで、いいとも思う。
知ってしまったらきっと、彼女は気に病むから。それでも、ここへ残れと、言いたかった。
その腕を掴んで、胸の中に閉じ込めて、帰さないように抱きしめていたかった。
「そこまで、あの小娘を愛しておいでですか?」
隣から声が聞こえる。その声に、苦笑いで返す。
しようがない、愛してしまったという事実は今更変えられないのだから。変えようとも、思えないのだから。
「あぁ、無理やりにでも、連れてきたいと思うくらいにはな」
ノアがはぁ、と呆れたようにため息を吐いた。
その眉間に皺がよっている。そしてノアはその体をすっと横へずらした。
するとそこへいるはずもない少女が出てくる。
ぎゅっと胸元を握り締め、こちらを見ていた。
「少し、考えてて……。それで、答えが出そうなんだけど、でも、あの、まだ、分からなくて。
それで、あの――ね。まだ、答えは出てないから、本当なら会っちゃいけないんだろうなと思うんだけど」
一生懸命言葉を紡ぐ彼女を見た瞬間、体が勝手に動き出した。
会いたかったと思うよりも、好きだと思うよりも、まず言いたかった言葉が口をついて出てきた。
「おかえり。ユキノ」
「ただいま。ジル」
こちらが帰る場所なのだと、いつか思ってくれるだろうか、そう思いながら手を伸ばす。
ぎゅっと抱きしめれば、背中に遠慮がちに手を回された。その事実が嬉しくて、手に力がこもる。
彼女の答えはまだ知らない。
でもとりあえず『大嫌い』ではないことに安心する。安い安心だと思いつつも、ユキノの体から手を離せなかった。
「どうして、帰って来たんだ?」
「ノアに、連れてこられた」
じろり、とユキノの瞳が自分の肩を超えて後ろを見る。
ノアの顔はこちらからは見えないが、きっといい笑顔でこちらを見ているであろうということは長年の勘で分かった。
「ノアの給料増やさないと、だな」
「ありがとうございます」
「え、いいのっ!! そんなことで、いいのっ!? っていうか、給料制だって始めて知ったよ」
わけの分からない会話がしばらく続く、少し離れていたにもかかわらず、その空気は別れる前となんら変わりなかった。
もしかしたら、変化なんてないのかもしれない。
「ユキノ、出そうになった答え、早く出してくれないか? こちらとしては、早く答えが聞きたいんだが」
「だって!! ちゃんと考えたいから。いい加減な気持ちで出したくないから、もう少し、待って? ダメ?」
この瞳がどんな力を持っているか、彼女は知らないのだ。
すっとこちらを真摯に見つめれば、自分がどんな願いもかなえてやる、と思うと知らないのだ。
返事の代わりに、頬へ一つ、キスを落とした。
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