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いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
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 打ちます。ハロウィンも書き上げました。でもすっごく内容薄いです。そして久々の子供ネタ。
 毎度苦しくなったら、子供の頃を妄想します。……だからアレクの子供時代を妄想するのが多いんだ。
 
 ここ数日、何をするでもなく昔の作品のノートを掘り出してました。……いえ、見たいと言うわけでもないのですが、すっかり忘れていると言うのも怖くて。
 えーっと、一言で言うと作風が……作風が――。
 前はもうちょい、ファンタジックだったり、ミステリーだったりと恋愛の入る隙間はなかったです。
 あの頃は若かった。(違う)

  
 さて、また少し、書いてきます。

+ + + + + + + + + +
『その日』



 赤いリボンで髪をまとめて鏡を見つめる。
 いつもより念入りに梳かしたのに、代わり映えはしない。そう思いながら、左右から角度を変えて最終的な点検をする。
 今日は学校帰りにあの人のところへ寄るのだ。原稿を見せてもらえるのだと思うと、わくわくする。
 一度帰る暇だって惜しいので、そのまま直行する予定だ。

「椿ちゃん?」

「んー。よしっ、今、行く」

 椿は鞄を掴んで扉を開けた。
 早く学校が終わればいいのに、と朝早くから思う。いつもより早い時間に行くと、文彦はきっと驚くだろうと、そのときを想像して笑った。

「今日、ちょっと遅くなるからってお母さんに言ってくれる?」

「また、“くちなし”さん?」

「原稿見せてもらいに行くのー」

「ハイハイ」

 今の時代、大人たちは少女が本を読むことをあまり好まない。
 しかし女性が社会へ進出しているのもまた事実で、柚は小さくため息をついた。
 自分も相当、良家のお嬢様と言う性格ではないが、妹はさらにその上を行っている、と首を振った。
 行動力がありすぎる、とも言う。

「お父様、お母様、行ってまいります」

 そう言って出て行こうとしたとき、椿は後ろから呼び止められた。
 父と母がこちらを見ている。母の目が赤くなっていた。泣いていたのだろうかと思いつつ、椿は二人を見つめる。
 これから言われようとすることが、想像もできない。

「椿、今日は学校を休みなさい。少し、話がある」

「あの、今日でなければ駄目ですか? 私、用事があるのですけど」

 不穏な空気を払拭しようと、努めて明るい声を出すが、空気が変わることはなかった。
 隣にいる姉も訳が分からないらしく、眉をひそめているのが分かる。

「椿には、来月見合いをしてもらう」

「っ。お父……」

「やめなさい。お父様も迷ってらしたのよ」

 イヤだ、と動こうとした口を母の言葉が止めた。涙で濡れた瞳で見つめられると、こちらが悪いことをしているように思える。

「結婚しろと、そうおっしゃっているのですか?」

「いや、ただ会うだけだ。まぁ、先方にもよるが」

 怒りで声が震える。
 それを抑えようとするのにできず、責めるような口調になった。椿は鞄を握り締めて、父と向き合った。
 どうしようもなく悲しくて、悔しくて、涙が浮かぶ。頭に浮かんだのは、今日会うはずだった人の笑顔だ。

「私に、好きな人がいると知って言っておられるのですか?」

 手が痛くなるほど強く、鞄を握り締めた。

「ああ。うちにはもう、お前しかいないからな」

 そこでやっと、椿は文句を言えない立場なのだと気付いた。
 これ以上駄々をこねれば、父の言葉はなお一層強くなる。――姉が、傷つく。そっと顔を上げれば、柚の顔は青かった。

「分かり、ました。お受けします」

 お見合いしろって、結婚しろと遠回しに言っているようなものだと思う。
 どうせお見合いなんて形だけで、すでにもう色々と決まった後なのだと分かっている。結納の日とかも、決まっていたりするのかな、とちらりと思った。

「椿ちゃんっ」

 後ろから柚が追いかけてくるのを感じ、椿は振り返る。できるならば泣き出したかったが、姉の顔が歪むのに気付き、自らの顔を引き締める。
 まだ、大丈夫。まだ、笑える。

「柚ちゃん、どうしたの。そんな顔して」

「どうしたのって……」

 じわり、と柚の瞳から涙がこぼれた。

「ごめっ。めんな、さいっ」

 自分にも好きな人がいると、なぜこの優しい姉に言ってしまったのだろうと、昨日の行いを悔いた。
 言わなければきっと、姉は泣いていないだろう。自分も、泣きそうな顔はしなかっただろうと思った。

「ほら、泣かない。今更言ったってしようがないでしょう。玲さんと出会った柚ちゃんが幸せになるのと同じ。
玉の輿かもよ? 意外に。すっごく格好いいのかもしれないし」

 明るく言うと、柚は涙をぬぐい、椿の襟を掴んだ。涙に濡れた瞳が、椿のそれを射止める。

「そんなのって、違うでしょっ?! 椿ちゃんは、くちなしさんが好きなんでしょ」

 そうだよ、と椿は口に出さず笑った。

「だからね、思うの。私が駄々をこねて、お父様が柚ちゃんと玲さんを引き裂こうとするとこなんて見たくない。
幸せな二人を見てると、こっちまで幸せになるから」

 それに比べるとね、私の気持ちはそうじゃなかった。

「ずっと何も起きなくて、微妙な関係が続けばいいって、そう思うだけだった」

 それを憧れとするには、相手に甘えすぎた感情だ。それを恋と呼ぶにはあまりにも身勝手すぎる感情だ。
 だから……。

「好きって言っても、覚悟できてなかったんだよ、きっと」

 椿はまだ肩にかけていた鞄に手を当てた。一番好きな本の一節を口の中で転がす。

 『気付けば、全て去った後』

 本当に、そのとおりだと思った。涙も出ず、悲しみも胸を震わせない。ただ沁み込むように、父の言葉が響いていた。

「覚悟してなくて、よかった」

 誰にともなく呟いてから、椿は小さく小さく眉を寄せて笑った。



                           8話
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