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いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
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 一章の(?)最後です。
 何か変なところで切れていますが、気にしないでください。

+ + + + + + + + + +
 知らない内に、五年も前の記憶に浸っていた意識をティアは現実に引き戻した。いつの間にかティアは微笑んでいて、自分自身でも驚いた。
「守ります、ね」


 正直、嬉しかったというのが本音だ。いつもそっけなかったのに、そう言われると冷たくされていても許してしまう自分がいる。
 それと同時に自分の所為だという後悔もぬぐえなかった。それは五年たった今でも変わらない。アレクが自分を守るように、同じようにとはいかなくても自分もアレクを守りたい。


 そう思うことはいけないことだろうか。自分の力では出来ないだろうか。
「もうすぐ、一六歳」
 そう、後数日もすれば一六歳。この国で言う成人だ。成人すれば、今よりもっと拘束されるだろう。王家という堅くて、動けば己の身さえも傷つけるような鎖に。
 自由がなくなり、もう気軽に城下に出て行くことは許されないけれど。だけど
「もっと守れるようになる」
 成人すれば、権力も少しは大きくなるだろう。自分の考えを曲げることも少なくなるかもしれない。
 護りたいと思えるものが、護れるようになるだろう。緋色に染まってしまったのはドレスでも、たおやかな手でもなく……心だと思っている。


 コンコンという扉を叩く音の所為で我に返り、慌てて髪を梳くふりをする。それと同時に扉は開かれ、いつもと変わらない顔が現れた。
 『早くしてください』と語っている瞳に答えるようにティアは立ち上がり、滑るように扉から出て歩き出す。その数歩後をアレクがついてくる。絶対に隣を歩くようなことはしない。
「ねぇ、アレク」
 あの言葉を信じていいだろうか。あの言葉に頼って許されるだろうか。
 穏やかな声。暑さを少しだけ含んだ風がそれを運ぶ。
「何でしょう、リシティア様」
 礼儀正しく、騎士らしいそっけないその言葉にティアが眉を顰めたのは言うまでもない。それでもティアは変わらず話を進めた。
「信じてるから。六年前の――あの時の言葉」
 分からないかもしれない。心配になってアレクのほうを振り向いた。もう覚えてないかもしれない。もしかしたら、煩い姫へのあしらいの言葉だったのかもしれない。それでも……。


 騎士としてでなく、ボールウィン家の人間としてでもなく。よくティアのことを知る、幼いころから一緒に遊んでいるアレク自身として。
 あの日から五年という月日が経とうとしている。たくさんのことを学び、忘れ、覚え……。得て、失った。
 その言葉にアレクは何も返さず、しかし微笑んだのを感じ、ティアは目を細めた。覚えていたんだ、そう思うと心が温かくなった。


 不満は少なからずあるけれど。間違いなく平和な日々。
 永遠に続くわけがないと知りつつ、永遠を望まずにはいられない。
 どうかこの平和が続きますように。どうかこのまま……。
 そう願うことは、いけないことですか?
 そう願うことは、許されますか?


 しかし、今、この瞬間。その日々に終止符が打たれた。
「ひ、姫様。大変にございます。王が、王が、危篤にございます!!」
 走ってきて、焦ったような侍女の言葉。息を切らし、肩を上下させたまま言葉を紡ぐ。王宮での礼儀も忘れ、侍女はティアに駆け寄った。
 この一言が全ての合図。
 ゆっくりと歯車は動き始める。小さな狂いは少しずつ、少しずつ大きくなっていく。
 歪みが歪みを呼び、どうしようもなくなってしまう。もう取り返しがつかないような歪みが生じる。誰がこの時、それを予想できただろう……。誰がこの時、その結末を想像できただろう。
 きっと神にさえ、できなかったに違いない。
「すぐに、議会を開く。準備を」
 ウソ、と叫びそうになる自分を必死に叱りつけ、ティアは俯きそうになる顔を上げた。
 ピンと張り詰めたような、しっかりとした声は紛れもなくティアのもので……。
 数日のうちに成人する若い少女の声というよりは、国政に何十年も携わってきた、何でも分かっているというような老臣のような低い声だった。
 冷静で、動揺がないティアの姿を見て我に戻った侍女は非礼を詫び、すぐさま議会の準備にと行ってしまった。
 しかしその一方で、ティアは手を握り締めていた。左手を右手で包み、何とか震える手を止めようと必死になっている。しかし決して前を見つめる瞳が揺らぐことはない。
「信じてるから……」
 自分を奮い立たせるように、もう一度だけ呟いた。




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でも本人は精一杯急いでいるつもりだったりします。
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