いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
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「王が危篤」 この知らせは瞬く間に王宮内を駆け巡った。次々と議会の間は大臣たちを始めとする官吏たちで埋められる。
その顔は王の体に対する心配と、この国の行方を案ずる不安がない交ぜになったような表情だった。
「我が父、ユリアス王が危篤であるのは皆の知っている通り。だが今の王家には成人した男性はいない。次期王に一体誰を据える?」
ゆっくりと大臣たちを見渡し、聞いた。しかしそこで一人の大臣が静かに立ち上がる。大臣たちの視線が一斉にその大臣に集まった。
しかしその大臣はその視線を悠々と受けて、動じもしなかった。
「リシティア姫。発言するのをお許しいただきたい」
朗々と、大きな声を出すのに慣れたしっかりした声が議会の間一杯に響き渡る。
「かまわない。ボールウィン大臣」
ティアはボールウィン大臣を見据えて言った。どこか挑むような視線を投げかけて。
派手ではないけれど上質な衣装に身を包み、見るからに貴族然とした立ち姿。この人が現ボールウィン家の当主であり、アレクの父である、シルド・ボールウィン。貴族の中で、最も位の高い公爵の地位を持ち、その公爵家の中でも筆頭の力を持つ。
王の信頼も厚く、今この国で宰相よりも強い発言権を持っているとも言われている。そして来年行われる宰相の選挙の有力な候補者でもある。
「リシティア姫はもうすぐ一六歳になられるはず。この国では女性が王の地位に就くことを認めています。ならば姫が王位を継ぐべきだと思いますが?」
『姫』という発音が嫌に大きい。この国を治めていたのは男だけではない。むしろ女のほうが多いのはこの国の守護女神であるレイティアの影響だ。この国では女性は尊うべき対象であり、敬って当然の存在だ。
しかしティアはその言葉を聞き、不愉快そうに眉を顰める。あからさまなその態度に大臣たちはザワリとざわめいた。
「一六歳になったばかりの人間を王位に? わたしはまだ一五歳だが? ボールウィン大臣。確かに言いたいことは分からないでもない。しかしそれで政治がままなるとはわたしには思えない。他の国が我が国を侮らないとも限らないのだから」
視線を落し、ぴしゃりとボールウィン大臣の発言を跳ね除けた。議会中、王族がここまで大臣の発言を拒否した例は他にない。間が一斉に騒がしくなった。
「騒がしい」
しかしティアの静かな一喝で、水を打ったように静まり返った。
「誰も王位を継がないと言っていない。成人男性がいない以上仕方のないことだと思っている。本来我が国は男性が正統後継者。しかし今この国にいる正統後継者はまだ十一歳だ。我が弟、シエラが成人するまでは仕方がない。シエラが成人する、その五年間なら」
そう言って口をつぐむ。シエラは現王妃の嫡子であり、ティアの腹違いの弟である。身分も三代前の王の妃を輩出したシエラの母と、旧王都の貴族のティアの母とで言えば、シエラの母ヴィーラの方が格段に上だ。比べ物にもならない。
そんな自分が王位に就けば、不満を持つ者も現れるであろう。身分の高いシエラを王位につけるべきだと反乱が起こるかもしれない。
謀叛がばれればシエラさえも無事だとはいえないだろう。
たとえ王族でも謀叛を企めば、打ち首は必須だ。ティアはそう思い、王位に就くのを拒否した。
王は一命を取りとめ、跡継ぎの問題は『シエラが一六歳になる前に王が崩御したら』という条件でティアに決まった。ティアが渋々認めたといったほうが正しいかもしれない。
ボールウィン大臣が巧みに言葉を操り、ティアを翻弄し、ついには頷かせてしまった。その力量と話術の巧みさに大臣たちは心の中で拍手をする。
会議の間から部屋に帰る途中ティアは小さく『あなたのお父様は策士で、狸よね』とアレクに聞こえよがしに呟くがアレクは反応しなかった。
その顔は王の体に対する心配と、この国の行方を案ずる不安がない交ぜになったような表情だった。
「我が父、ユリアス王が危篤であるのは皆の知っている通り。だが今の王家には成人した男性はいない。次期王に一体誰を据える?」
ゆっくりと大臣たちを見渡し、聞いた。しかしそこで一人の大臣が静かに立ち上がる。大臣たちの視線が一斉にその大臣に集まった。
しかしその大臣はその視線を悠々と受けて、動じもしなかった。
「リシティア姫。発言するのをお許しいただきたい」
朗々と、大きな声を出すのに慣れたしっかりした声が議会の間一杯に響き渡る。
「かまわない。ボールウィン大臣」
ティアはボールウィン大臣を見据えて言った。どこか挑むような視線を投げかけて。
派手ではないけれど上質な衣装に身を包み、見るからに貴族然とした立ち姿。この人が現ボールウィン家の当主であり、アレクの父である、シルド・ボールウィン。貴族の中で、最も位の高い公爵の地位を持ち、その公爵家の中でも筆頭の力を持つ。
王の信頼も厚く、今この国で宰相よりも強い発言権を持っているとも言われている。そして来年行われる宰相の選挙の有力な候補者でもある。
「リシティア姫はもうすぐ一六歳になられるはず。この国では女性が王の地位に就くことを認めています。ならば姫が王位を継ぐべきだと思いますが?」
『姫』という発音が嫌に大きい。この国を治めていたのは男だけではない。むしろ女のほうが多いのはこの国の守護女神であるレイティアの影響だ。この国では女性は尊うべき対象であり、敬って当然の存在だ。
しかしティアはその言葉を聞き、不愉快そうに眉を顰める。あからさまなその態度に大臣たちはザワリとざわめいた。
「一六歳になったばかりの人間を王位に? わたしはまだ一五歳だが? ボールウィン大臣。確かに言いたいことは分からないでもない。しかしそれで政治がままなるとはわたしには思えない。他の国が我が国を侮らないとも限らないのだから」
視線を落し、ぴしゃりとボールウィン大臣の発言を跳ね除けた。議会中、王族がここまで大臣の発言を拒否した例は他にない。間が一斉に騒がしくなった。
「騒がしい」
しかしティアの静かな一喝で、水を打ったように静まり返った。
「誰も王位を継がないと言っていない。成人男性がいない以上仕方のないことだと思っている。本来我が国は男性が正統後継者。しかし今この国にいる正統後継者はまだ十一歳だ。我が弟、シエラが成人するまでは仕方がない。シエラが成人する、その五年間なら」
そう言って口をつぐむ。シエラは現王妃の嫡子であり、ティアの腹違いの弟である。身分も三代前の王の妃を輩出したシエラの母と、旧王都の貴族のティアの母とで言えば、シエラの母ヴィーラの方が格段に上だ。比べ物にもならない。
そんな自分が王位に就けば、不満を持つ者も現れるであろう。身分の高いシエラを王位につけるべきだと反乱が起こるかもしれない。
謀叛がばれればシエラさえも無事だとはいえないだろう。
たとえ王族でも謀叛を企めば、打ち首は必須だ。ティアはそう思い、王位に就くのを拒否した。
王は一命を取りとめ、跡継ぎの問題は『シエラが一六歳になる前に王が崩御したら』という条件でティアに決まった。ティアが渋々認めたといったほうが正しいかもしれない。
ボールウィン大臣が巧みに言葉を操り、ティアを翻弄し、ついには頷かせてしまった。その力量と話術の巧みさに大臣たちは心の中で拍手をする。
会議の間から部屋に帰る途中ティアは小さく『あなたのお父様は策士で、狸よね』とアレクに聞こえよがしに呟くがアレクは反応しなかった。
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