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いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
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 ハイ、三話目です。これからどんどん続きます。どのくらいで終わるのか見当もつきません。一応、下書きのようなものは書いていますが、長くなりそうです。
 短くまとめるのは難しそうです。

+ + + + + + + + + +
 五年前の冬。年も明けてすぐのこと。そう、ちらちらと雪でも降っていたかもしれない。


 ティアは城下である新年の祭りのにぎやかな音に誘われて、城を抜け出した。服は侍女に無理矢理頼んで用意してもらった、城下の人間が着る質素なドレス。
 飾りもなく、冬なのに薄いドレス。色褪せた白色の布が頼りなげに宙を泳いだ。さすがにこれだけでは寒いので、同じ色の上着を羽織る。
 そして珍しい瞳の色を隠すため頭から紗も纏った。父王から剣術を学んだ時にもらった、護身用の小剣も懐に入れる。


 この国では一〇歳は大人になるための準備を始める年だ。光国では16歳が成人として認められる。その年になるまで、礼儀作法を叩き込まれるのだ。
 ティアも例外ではなく、先年の六月四日から、気軽に城下に出ることも、それまで習っていた剣術も禁止された。姫君にはそんなこと必要ないと、顔に傷でもついたらどうするんだと、そんな理由で止めさせられた。
今から半年以上前のことだ。
 三歳年上のアレクは一三歳になったので騎士見習いを卒業した。後三年は雑用をこなし、いろいろな部署を回る新人騎士になったのだ。一六歳の誕生日に正式に騎士として配属されるのだそうだ。なので最近は忙しいらしく顔も合わせない。
 合わせても取ってつけたような敬語で話され、何故だか遠いと思った。その事がティアに腹立たしさを加え、こんな行動に駆り立てた。


 どこへ行こう。辺りを見回し、そんなことを考えながら、ティアの足は止まらず町の中心へと向かっている。とりあえずは何か珍しくて、城では食べられないものが食べたい。
 そう思っていると、新年を祝う祭りの行われる大通りを通っていると男女の言い争う声が聞こえた。
「いいじゃないか」
「や、止めてください」
 会話を聞いても、恋人同士、親子、友人どれにも当てはまりそうにない。しかも声が聞こえてくるのは怪しい、というか人通りの極端に少ない路地裏だ。女の声は怒声に近い叫び声だった。
「放してください。お願いです」
 女の声に恐怖が宿り始める。通り過ぎようとしていたティアの足がピタリと止まり、路地に入って行った。
 いたのは地元の人間と思われる中年男と身なりの整った女。女のほうは中流階級の身分だろう。上流階級の人間は馬車もなしに移動しない。女の手首を握っている男は酒によっているのか赤ら顔だ。
 そう冷静に分析すると、ティアはツカツカと男に歩み寄り、不快感をそのままに男の腕をつかんだ。問題を起こしたら、もう町へ降りることは叶わなくなる。そう思うが女を見捨てることが出来なかった。


「この人、嫌がっているのが分からない?」
 声には最大の威厳を、男の腕をつかむ手には精一杯の力を込めた。男の顔が小さく歪む。
 痛みと驚きがない交ぜになったような顔だ。男の腕をつかむ力は華奢な腕からとは思えないほど強く、その声と表情はとても一〇歳の少女が持つそれとはかけ離れていた。
 しかし腕をつかまれた男は一瞬と惑うものの、下卑た笑みを浮かべると反対にティアの腕をつかみ返した。
「何かい? あんたが相手をしてくれっるてぇのか?」
 つかまれた腕を中心に一気に鳥肌が立ち、背中がゾクゾクとした。今まで経験したことがないような不快感だ。しかしそれを相手に悟られないように、気丈に男をにらみつけた。
 酔っ払いの目の焦点が合っていないのを見て、ティアは"この酔っ払いが"と呟いて、腕を振り払った。その拍子に男がたたらを踏む。
「一〇歳の子どもに何の相手をしろと言うの?」
 そのまま腕を組み、笑った。普通の少女ではまず出せないような艶を見せ付けて。
 そして、女の腕をつかみ大通りへと向かおうとする。チラリと横目で観察すれば、女はまだ一五、六歳の少女と呼べる風貌だった。
 真っ青な顔色と、がたがたと震える体を見て、早く連れ出さなくてはと気が逸る。
「お嬢ちゃん。これは俺とその女の問題だ。痛い目見たくなかったら、とっととその女をこっちにやって逃げるんだな」
 ティアの前に立った男の手に刃物があるのを見て、ティアは目を眇めた。そして小さく"見境をなくしたか……"と呟き、そのあとに二言、三言、とてもではないが城で口に出来ないような言葉で男を罵り、そ知らぬ顔で通り過ぎようとした。
 しかし、男はそれを馬鹿にされたと思ったらしく、刃物を持った手を思いっきり振り下ろそうとする。
 しかしティアはそれを横目で見ただけでにやりと笑い、無駄な動き一つなく横によけ男の足を払う。
 そして今度こそ女を引っ張りながら、まっしぐらに大通りに向かって走り出した。


 いつもと違う質素で軽く、動きやすいドレスのお蔭ですごく走りやすい。靴だってヒールの高くないブーツなのだ。らくらくスピードは上げられる。
 ティアだけなら男を振り切れただろう。そう、ティアだけなら。しかし手を引いている女の方は外出用の正式な服。ペチコートやコルセットのせいでスピードが上がらない。


 "早く"心の中で誰かが叫ぶ。どう考えても男のほうが早い。土地勘ではこちらは絶対に不利だ。我知らずティアは唇を噛んだ。このままだと二人とも捕まるのは目に見えている。
『少しでもいい。何とか足止めできれば』
 そうすれば女だけでも逃がせるだろう。そうしたら後は何とでもなる。もし捕まれば、何をされるか分からない。相手は酔っていて、逆上しているのだから。襲われるかもしれない。殺されるかも……。そんな不安がティアの中で広がった。
 と、その時、前方から男が現れる。ティアは女の手を引っ張り反対側に逃げようとする。
「いや!!」
 しかし女は咄嗟に持っていたバックを男に向かって投げる。それは見事な円を描き男の頭に命中し、男は後に仰け反った。
『確かに、足止めは出来たけど、これでは……』
 男がゆらりと立ち上がる。その目は怒りに燃えていて、女はそれを見ると「ひっ」と小さく息を呑み、その場に膝をついた。
「このガキが!!」
 なりふり構わず刃物を振り回す男に、ティアは慌てて小剣を懐から出し応戦する。
 鋭い金属音が路地裏に広がった。しかし後で腰を抜かしている女の所為で思うように攻撃できない。いくら剣術を習っていると言っても、腕力の差と逆上した男の読めない動きに小さな躊躇が生まれた。
「あっっ」
 ガキン、と一際大きな金属音とともにティアは押し倒され、足で踏ん張ることも出来ずに尻餅をついた。しかし男は倒れたティアに構う事無く、女の前に立つ。そして思いっ切り刃物を高く掲げた。
「殺人は重罪よ!!」
 そう叫んで、突き飛ばす。しかし男はあろうことかそこから刃物を女にめがけて投げた。


 早いはずの刃物の動きがとてもゆっくりに見える。女が何か叫んでいるにも拘らず、その声は聞こえてこない。全くの無音の世界。
 ギラリと路地裏に差し込む弱い光が反射して、その鈍い光が瞼裏に残った。
 生々しいまでの刃物と驚愕の色に染まる女の顔。
「一〇歳の体で、どれだけ彼女が守れるの? 王女の立場のわたしが何故こんなことをするの? わたしが死んだらさぞかしこの女の人は厳しく罰せられるだろう……」
 そう嘲笑する声が頭に響く。それでもティアは女に覆いかぶさった。ぎゅっと痛さに備えて目と口を瞑る。
 一瞬後に焼け付くような痛みに意識が揺らめく……はずだった。




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