いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
ついに20話目です。記念すべき。これなら、終わりは25話ぐらいできりのいい数字で終わりたいです。でもそんなにお話ない気がします。
また見直してみると、いろいろ直すところがあったので、また長くはなりましたが。
アレクはよく考えると腹黒いです。いろいろ思いをめぐらしたら、ですが。でもティアの前ではそんなこと見せないので、少々押しの弱い、肝心なときにいまいち踏ん切りがつかない男に映りますが。
でも裏で何を思ってるから分かんないんですよね。正直。ティア手に入れるために、いろいろしてそうですよね、というのが私の考えです。
いつかは二人のラブラブも書ければいいな、と思いつつ。(多分、攻めるのはティアさんです)
あと数話ですが、どうぞお付き合いください。
また見直してみると、いろいろ直すところがあったので、また長くはなりましたが。
アレクはよく考えると腹黒いです。いろいろ思いをめぐらしたら、ですが。でもティアの前ではそんなこと見せないので、少々押しの弱い、肝心なときにいまいち踏ん切りがつかない男に映りますが。
でも裏で何を思ってるから分かんないんですよね。正直。ティア手に入れるために、いろいろしてそうですよね、というのが私の考えです。
いつかは二人のラブラブも書ければいいな、と思いつつ。(多分、攻めるのはティアさんです)
あと数話ですが、どうぞお付き合いください。
+ + + + + + + + + +
初めて俺が彼女と出会ったのは……。俺が八歳で、まだまだ何にも分からなくて、ただ父に付いて行った王宮で父とはぐれた時だった。
すこし暖かさのある、春の初めだった。
美しいブロンドを邪魔にならないように結い、男の子用の稽古着を来て一身に剣を振っている女の子。
時折剣の重さに耐え切れず、危なっかしくこける女の子。蒼……とでも言うのだろうか少し暗めの青い瞳は、キラキラと楽しそうに光り柔らかな春の光を受けると翠に変わる。
今思えば、その時もう俺の心は捕らわれていたのかもしれない……。それともあの時からじわじわと惹きつけられていたのかもしれない。
とにかくその子と話してみたいと思った。
数日後、父が姫の相手をしろと言った。八歳といってもれっきとしたボールウィン家の次男。
兄に負けないくらいの勉強の才をすでに見せていた俺は、父の思惑をはっきりと分かった……つもりでいた。兄はボールウィン家を継ぐので婿にはなれない。
しかし次男なら問題ない、つまりはそう言うことだと思っていた。
父がそう思うように仕向けたとも思わず、生意気にも父の考えていることが分かったような気でいた。
彼女と会った時、一瞬であの時の子だと気付いた。しかし何かが違うとも思った。女の子らしく美しいドレスを着て、礼儀作法を欠くこともない。
だけど……顔が……作り物のような表情しか映さなかった。あのキラキラとした瞳は嬉しそうに細められているが、ちっとも笑っているようには見えず虚ろだった。その顔を、あの時の顔に戻したくて、話しかけた。
「剣……好き?」
それが初めての言葉。礼儀知らずにも名前を名乗らず、しかも敬語を使っていない。後で父にすごく叱られた。しかし彼女はそれを聞くとパァっと顔を綻ばせた。
「あなたは剣がお好きなの? わたくし、大好きなの。同じお年頃の子もいらっしゃらないし、お師匠様にも勝てないからお仲間が欲しいと、ボールウィンのおじ様にお願いしていたのよ? さすがはおじ様!! ご自分のご子息様を連れて来られるなんて!! ねぇ、相手して欲しいのだけれど」
矢継ぎ早にそれだけしゃべって、彼女ははっとしたように口元を押さえた。
貴婦人はそんなに早くしゃべっていけない、というのがこの国のマナーだ。かろうじで丁寧な言葉遣いだが、口調がはしゃいでいるのでそんなに肩苦しくはなかった。
「わたくしの名は、リシティア・オーティス。ルラ・リッシスク。長い名前でしょう? 今年、五歳になったの。ユリアス王の唯一の妃、クラリスの一人娘よ。あなたは……ボールウィン家のご子息、アレク・ボールウィン殿ね。わたくしのことは『ティア』と呼んでちょうだい。お母様もお父様もそう呼んでおられるから」
先程までの作り笑顔はどこへやら、すっかり剣を一心不乱に振っている時の笑顔で話す女の子は敬語を話すのが少し苦手な子だった。
少し寂しがり屋で、恥ずかしがり屋。誰よりも自分を愛して欲しくて、でも皆が大好きだから迷惑をかけることなんてできなくて、一人で何でも我慢してしまうような子。
意地っ張りで、素直になれなくて、そんな自分が嫌いで悩んでいるような子。
ティアの本当の姿はそうだった。国王と王妃が大好きで、でも近くにいない二人の愛情を確かめる方法を知らず、一人で泣いているような子だった。
だからいつだったか言った気がする。寂しい時には傍にいると。大切だから。約束したはずだった。あの時はそれができると思っていたから。
初めて話したその日に、お互いへ敬語を使うことなく、『ティア』と『アレク』で呼び合うことを約束した。これだけは父に言われても直さなかった。
ティアはとても剣が強くて、今まで人に何か負けると言うことを知らなかった俺は追いつきたくて、勝ちたくて毎日必死になって練習した。
ティアに負けないように、これだけが当時八歳だった俺の唯一の目標だった。
目標が変わったのはそれから一年後。九歳になり、やっと剣でティアに勝ち続けることができるようになった時のことだった。ティアの母である、クラリス様が亡くなられた。
明るくて、優しくい王妃はみんなの人気者で、ティアに受け継がれたブロンドがとても美しい人だった。病とは無縁で『わらわは風邪もひかぬ。何やらは風邪をひかぬと言うであろう?』とみんなを笑わせるような人だった。その独特の言葉は俺の耳に今でもはっきりと残っている。
王妃は元々旧都、今の王都よりずっと北の方の出身で、そこの言葉……特に高貴な出(元王族)でその貴族特有の言葉だと教えてもらった。
なのに……突然すぎて初めは誰一人として信じなかった。特に王妃が大好きだったティアは手がつけられなかった。
泣きはらして腫れた目に新しい涙をため、弱々しい声で何度も……ありとあらゆる言葉で医師を責めた。
「何で母様がお亡くなりにならなければいけなかったの?! あんなに昨日は元気だったのに……。なのにどうして……。藪医者!! 人でなし!! 人を助けられないのなら、医者なんて辞めてしまえ!!」
多分ティアにだって分かっていたはずだ。王妃の病気は突発性のもので、誰もが予測することができないことだったということを。いくら優秀な医師がいたとしても助けられなかったということを。
それでも……。ティアは責めずに入られなかったのだろう。何かを責めていなければどうにかなってしまいそうだったのだろう。
医師たちもそれが分かっていたので、言葉を発することなく、許しを請うこともなく平伏した。
その時俺に何かする力はなかったし、ましてや慰めようなんて思いもつかなかった。ティアと同じくらいまた俺もショックを受けていて、泣かない為だけに頭を使っていた。
その日を最後に……ティアの涙を見ていない。何人たりとも……。お付きの侍女のイリサでさえ。
"今"のティアになった。いい意味でも、悪い意味でも。威厳があり、前のように無邪気に甘えてこなくなった。王女としての自覚を強く持ち始めた。プライドが高く、王女と呼ぶに相応しい――。
そんなティアを見て、張り詰めたような糸を見て、いつかは切れてしまうんじゃないかと思った。
壊れてしまうんじゃ……と。壊れる前に、何かしたいと思った。守りたいと……、思った。
その日から『ティア』と呼ぶのを止めた。気安く話しかけることを止めた。ティアを守るために騎士になると決めた時……。父は笑って、こう言った。
『お前にはなれない。リシティア姫をまだティアだと思っているお前には私情が入りすぎている。傷付けはしても、守れはしない』
聞き分けのない小さな子どもに諭すような口調で……自分の気持ちが、私情でティアを守りたいと思っている気持ちが見透かされた気がした。
でもあのまま過ごしていたら、父は間違いなく俺をティアの婿にと王に勧めただろう……。それは嫌だ。
ティアが嫌いなわけじゃない。むしろ好きで、大切にしたい。でもだからこそ……。父たちの命令でなんか一緒になりたくなかった。
そんなことをしたら、ティアはもう一生俺に心を開いてくれないと言うことが、嫌というほど分かっていたから。
だから意地になって、私情を捨てたふりをした。形だけは捨てた。めったに話さず、言葉をかけることもなく。
だけど、それでできたことと言えば……。本当に父の言うとおり、傷付けることしかできなかった。守ることなんてできなかった。
自分が傷付くことで、もっとティアを傷付けていた。
でも。五年前の一三歳の時は。見習い騎士からやっと正式な騎士になり、ティアの護衛を任せられた時は……。自分の身を盾にしてまでティアを守ることで、ティアを守れると思っていた。
いや、あの時そこまで考えられていたかというと正直、よく分からない。
ただ心の芯が冷えた。無理無茶をするのはティアの得意なことだが、あそこまでするとは思わなかった。
ただティアが自分の見えるところからいなくなるだけでも怖いのに、もう一生会えなくなってしまうのかと思うと、ぞっとした。
剣を首筋に当てられた時のような恐怖ではない、もうどう表現すればいいのか分からないくらい、冷静さを欠いていた。
俺が怪我をして、当分療養しなければならなくなった時、ティアは自分を責めていた。『どうして』という声が目を閉じている俺の隣から何度も聞こえた。寝ているからばれないとでも思ったのだろうか。
俺と同じように、ティアも俺が死ぬのが怖いのだろうか……。そう思うのは自意識過剰だろうか……。でも、思うだけなら許される気がして、そっとその気持ちは胸にしまった。
絶対にばれてはいけない、大切な思い。彼女に伝えることもできない、そんなこと許されるわけがない思いは。騎士になっただけでは断ち切れず、膨らむだけだった。
ノルセス大臣のもつ剣が光ったとき、ティアの動きが完全に止まった。六年前の光景が俺の脳裏を駆け、背筋に冷たいものが走る。咄嗟に『逃げろ』と叫んだがそれでティアが動くことはない。
次の瞬間から自分が何をしたのか記憶がない。背中に焼きつくような痛みを感じ、そこでやっと自分が何をしたのか知った。
痛みに顔をしかめたが、唇を噛んで声をせき止める。声を出したら、腕の中にいるティアが自分を責めてしまう、今度こそ壊れてしまう。
だけどそんな努力も無駄だった。
狂ったように悲鳴を上げ、俺の衣を必死に掴む。その力が無性に愛しくなり、自分が汚してはいけないものだと悟った。
また同じ失敗をして……二回ティアを傷付けて。それでどうして俺は騎士になった?
守りたかったのに、ティアの笑顔と"アレク"と呼ぶ声と、気高く優しい心を……。彼女の全てを……。
どうすれば許される? どうすれば――傍にいられる? ここで死ぬわけにはいかない。
もし、生きてティアに会えたら……。謝ろう、何もかも話して……。
汚れているのはティアではなく、自分だと。ティアが自分を責める必要はないんだろ。自分が悪いんだと。
そして――過ちを犯しているのは自分だと。だから、泣かないで、責めたりしないで……。
守りたかっただけだった。本当に……それだけだった。
ティアが大切で、失いたくなくて、傍にいても許される存在に自分の力でなりたかった。
冷たく接したのも俺の勝手で、ティアと呼ばなくなったのも俺の都合で、だから決してティアの所為じゃない。それだけは信じて。
すこし暖かさのある、春の初めだった。
美しいブロンドを邪魔にならないように結い、男の子用の稽古着を来て一身に剣を振っている女の子。
時折剣の重さに耐え切れず、危なっかしくこける女の子。蒼……とでも言うのだろうか少し暗めの青い瞳は、キラキラと楽しそうに光り柔らかな春の光を受けると翠に変わる。
今思えば、その時もう俺の心は捕らわれていたのかもしれない……。それともあの時からじわじわと惹きつけられていたのかもしれない。
とにかくその子と話してみたいと思った。
数日後、父が姫の相手をしろと言った。八歳といってもれっきとしたボールウィン家の次男。
兄に負けないくらいの勉強の才をすでに見せていた俺は、父の思惑をはっきりと分かった……つもりでいた。兄はボールウィン家を継ぐので婿にはなれない。
しかし次男なら問題ない、つまりはそう言うことだと思っていた。
父がそう思うように仕向けたとも思わず、生意気にも父の考えていることが分かったような気でいた。
彼女と会った時、一瞬であの時の子だと気付いた。しかし何かが違うとも思った。女の子らしく美しいドレスを着て、礼儀作法を欠くこともない。
だけど……顔が……作り物のような表情しか映さなかった。あのキラキラとした瞳は嬉しそうに細められているが、ちっとも笑っているようには見えず虚ろだった。その顔を、あの時の顔に戻したくて、話しかけた。
「剣……好き?」
それが初めての言葉。礼儀知らずにも名前を名乗らず、しかも敬語を使っていない。後で父にすごく叱られた。しかし彼女はそれを聞くとパァっと顔を綻ばせた。
「あなたは剣がお好きなの? わたくし、大好きなの。同じお年頃の子もいらっしゃらないし、お師匠様にも勝てないからお仲間が欲しいと、ボールウィンのおじ様にお願いしていたのよ? さすがはおじ様!! ご自分のご子息様を連れて来られるなんて!! ねぇ、相手して欲しいのだけれど」
矢継ぎ早にそれだけしゃべって、彼女ははっとしたように口元を押さえた。
貴婦人はそんなに早くしゃべっていけない、というのがこの国のマナーだ。かろうじで丁寧な言葉遣いだが、口調がはしゃいでいるのでそんなに肩苦しくはなかった。
「わたくしの名は、リシティア・オーティス。ルラ・リッシスク。長い名前でしょう? 今年、五歳になったの。ユリアス王の唯一の妃、クラリスの一人娘よ。あなたは……ボールウィン家のご子息、アレク・ボールウィン殿ね。わたくしのことは『ティア』と呼んでちょうだい。お母様もお父様もそう呼んでおられるから」
先程までの作り笑顔はどこへやら、すっかり剣を一心不乱に振っている時の笑顔で話す女の子は敬語を話すのが少し苦手な子だった。
少し寂しがり屋で、恥ずかしがり屋。誰よりも自分を愛して欲しくて、でも皆が大好きだから迷惑をかけることなんてできなくて、一人で何でも我慢してしまうような子。
意地っ張りで、素直になれなくて、そんな自分が嫌いで悩んでいるような子。
ティアの本当の姿はそうだった。国王と王妃が大好きで、でも近くにいない二人の愛情を確かめる方法を知らず、一人で泣いているような子だった。
だからいつだったか言った気がする。寂しい時には傍にいると。大切だから。約束したはずだった。あの時はそれができると思っていたから。
初めて話したその日に、お互いへ敬語を使うことなく、『ティア』と『アレク』で呼び合うことを約束した。これだけは父に言われても直さなかった。
ティアはとても剣が強くて、今まで人に何か負けると言うことを知らなかった俺は追いつきたくて、勝ちたくて毎日必死になって練習した。
ティアに負けないように、これだけが当時八歳だった俺の唯一の目標だった。
目標が変わったのはそれから一年後。九歳になり、やっと剣でティアに勝ち続けることができるようになった時のことだった。ティアの母である、クラリス様が亡くなられた。
明るくて、優しくい王妃はみんなの人気者で、ティアに受け継がれたブロンドがとても美しい人だった。病とは無縁で『わらわは風邪もひかぬ。何やらは風邪をひかぬと言うであろう?』とみんなを笑わせるような人だった。その独特の言葉は俺の耳に今でもはっきりと残っている。
王妃は元々旧都、今の王都よりずっと北の方の出身で、そこの言葉……特に高貴な出(元王族)でその貴族特有の言葉だと教えてもらった。
なのに……突然すぎて初めは誰一人として信じなかった。特に王妃が大好きだったティアは手がつけられなかった。
泣きはらして腫れた目に新しい涙をため、弱々しい声で何度も……ありとあらゆる言葉で医師を責めた。
「何で母様がお亡くなりにならなければいけなかったの?! あんなに昨日は元気だったのに……。なのにどうして……。藪医者!! 人でなし!! 人を助けられないのなら、医者なんて辞めてしまえ!!」
多分ティアにだって分かっていたはずだ。王妃の病気は突発性のもので、誰もが予測することができないことだったということを。いくら優秀な医師がいたとしても助けられなかったということを。
それでも……。ティアは責めずに入られなかったのだろう。何かを責めていなければどうにかなってしまいそうだったのだろう。
医師たちもそれが分かっていたので、言葉を発することなく、許しを請うこともなく平伏した。
その時俺に何かする力はなかったし、ましてや慰めようなんて思いもつかなかった。ティアと同じくらいまた俺もショックを受けていて、泣かない為だけに頭を使っていた。
その日を最後に……ティアの涙を見ていない。何人たりとも……。お付きの侍女のイリサでさえ。
"今"のティアになった。いい意味でも、悪い意味でも。威厳があり、前のように無邪気に甘えてこなくなった。王女としての自覚を強く持ち始めた。プライドが高く、王女と呼ぶに相応しい――。
そんなティアを見て、張り詰めたような糸を見て、いつかは切れてしまうんじゃないかと思った。
壊れてしまうんじゃ……と。壊れる前に、何かしたいと思った。守りたいと……、思った。
その日から『ティア』と呼ぶのを止めた。気安く話しかけることを止めた。ティアを守るために騎士になると決めた時……。父は笑って、こう言った。
『お前にはなれない。リシティア姫をまだティアだと思っているお前には私情が入りすぎている。傷付けはしても、守れはしない』
聞き分けのない小さな子どもに諭すような口調で……自分の気持ちが、私情でティアを守りたいと思っている気持ちが見透かされた気がした。
でもあのまま過ごしていたら、父は間違いなく俺をティアの婿にと王に勧めただろう……。それは嫌だ。
ティアが嫌いなわけじゃない。むしろ好きで、大切にしたい。でもだからこそ……。父たちの命令でなんか一緒になりたくなかった。
そんなことをしたら、ティアはもう一生俺に心を開いてくれないと言うことが、嫌というほど分かっていたから。
だから意地になって、私情を捨てたふりをした。形だけは捨てた。めったに話さず、言葉をかけることもなく。
だけど、それでできたことと言えば……。本当に父の言うとおり、傷付けることしかできなかった。守ることなんてできなかった。
自分が傷付くことで、もっとティアを傷付けていた。
でも。五年前の一三歳の時は。見習い騎士からやっと正式な騎士になり、ティアの護衛を任せられた時は……。自分の身を盾にしてまでティアを守ることで、ティアを守れると思っていた。
いや、あの時そこまで考えられていたかというと正直、よく分からない。
ただ心の芯が冷えた。無理無茶をするのはティアの得意なことだが、あそこまでするとは思わなかった。
ただティアが自分の見えるところからいなくなるだけでも怖いのに、もう一生会えなくなってしまうのかと思うと、ぞっとした。
剣を首筋に当てられた時のような恐怖ではない、もうどう表現すればいいのか分からないくらい、冷静さを欠いていた。
俺が怪我をして、当分療養しなければならなくなった時、ティアは自分を責めていた。『どうして』という声が目を閉じている俺の隣から何度も聞こえた。寝ているからばれないとでも思ったのだろうか。
俺と同じように、ティアも俺が死ぬのが怖いのだろうか……。そう思うのは自意識過剰だろうか……。でも、思うだけなら許される気がして、そっとその気持ちは胸にしまった。
絶対にばれてはいけない、大切な思い。彼女に伝えることもできない、そんなこと許されるわけがない思いは。騎士になっただけでは断ち切れず、膨らむだけだった。
ノルセス大臣のもつ剣が光ったとき、ティアの動きが完全に止まった。六年前の光景が俺の脳裏を駆け、背筋に冷たいものが走る。咄嗟に『逃げろ』と叫んだがそれでティアが動くことはない。
次の瞬間から自分が何をしたのか記憶がない。背中に焼きつくような痛みを感じ、そこでやっと自分が何をしたのか知った。
痛みに顔をしかめたが、唇を噛んで声をせき止める。声を出したら、腕の中にいるティアが自分を責めてしまう、今度こそ壊れてしまう。
だけどそんな努力も無駄だった。
狂ったように悲鳴を上げ、俺の衣を必死に掴む。その力が無性に愛しくなり、自分が汚してはいけないものだと悟った。
また同じ失敗をして……二回ティアを傷付けて。それでどうして俺は騎士になった?
守りたかったのに、ティアの笑顔と"アレク"と呼ぶ声と、気高く優しい心を……。彼女の全てを……。
どうすれば許される? どうすれば――傍にいられる? ここで死ぬわけにはいかない。
もし、生きてティアに会えたら……。謝ろう、何もかも話して……。
汚れているのはティアではなく、自分だと。ティアが自分を責める必要はないんだろ。自分が悪いんだと。
そして――過ちを犯しているのは自分だと。だから、泣かないで、責めたりしないで……。
守りたかっただけだった。本当に……それだけだった。
ティアが大切で、失いたくなくて、傍にいても許される存在に自分の力でなりたかった。
冷たく接したのも俺の勝手で、ティアと呼ばなくなったのも俺の都合で、だから決してティアの所為じゃない。それだけは信じて。
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