いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
一日遅れたのですが、更新です。
トリップものは一ページ進みました。山場超えた感じ? ちょっと苦しいところは脱出しましたよ!!(と、報告してみる)
えっと、書けば書くほどシリアスになっていく私の小説。最初から最後まで明るい話って書けないのかな……。
いや、短編連作とかだったらイケる気がする。そのうち、拍手とかも実験してみたいので、その機会にやってみようかな。新婚さん……。
甘々デロデロ……、Kちゃんにいやな顔されそうだ。(笑)
Mちゃんには笑われそうだ。ちなみにいつも冷静な友人には『いつきって、まだこんなの書いてたんだ』って言われました。
お前が私のノートを勝手に見てんだろうが!! と突っ込みたかったんですけどね。
明日はお菓子作りです。でもゼリーなので学校に持ってけないかな??(ごめんね(笑)) おいしいのが作れるように頑張ります。
ついでにクッキーでも作ろうかな、と思ってます。うまくできたら写真を撮って載せます。
ついに『勿忘草』も八話目ですか……。長いですね。十話ぐらいで終わると思ってました。
十五話まであと少し(?)頑張ります。
トリップものは一ページ進みました。山場超えた感じ? ちょっと苦しいところは脱出しましたよ!!(と、報告してみる)
えっと、書けば書くほどシリアスになっていく私の小説。最初から最後まで明るい話って書けないのかな……。
いや、短編連作とかだったらイケる気がする。そのうち、拍手とかも実験してみたいので、その機会にやってみようかな。新婚さん……。
甘々デロデロ……、Kちゃんにいやな顔されそうだ。(笑)
Mちゃんには笑われそうだ。ちなみにいつも冷静な友人には『いつきって、まだこんなの書いてたんだ』って言われました。
お前が私のノートを勝手に見てんだろうが!! と突っ込みたかったんですけどね。
明日はお菓子作りです。でもゼリーなので学校に持ってけないかな??(ごめんね(笑)) おいしいのが作れるように頑張ります。
ついでにクッキーでも作ろうかな、と思ってます。うまくできたら写真を撮って載せます。
ついに『勿忘草』も八話目ですか……。長いですね。十話ぐらいで終わると思ってました。
十五話まであと少し(?)頑張ります。
+ + + + + + + + + +
「わらわと、姉の怨みを晴らしておくれ。弥絃よ」
それが弓を引く呪文のように、弥絃を誘(いざな)うように纏わりつく。弥絃はゆっくりと弓を引き絞っていった。
その先は、真っ直ぐに紫苑へ向いている。
両手は震えることなく、その細腕には強すぎる力に振り回されることなく。しっかりと、弓と弦を持っていた。
「射れ」
短い言霊(めいれい)が響いた瞬間、弥絃の指から弦が離れた。そのときを待っていたかのように、その指は弓を射る。
"いぃぃぃぃん"
その音がそのまま矢となり、紫苑の体へと突き刺さった。静かで、神々しいまでの空気が震える。その音が遠くのほうへと消えて行くのが見えそうなくらい大きく震えた。
紫苑は声一つ漏らすことはなかった。櫻は訝しがりながらも、その着流した濃紺の着物が緋色に染まっていくのを見て美しい顔を綻ばせた。
そしてかろうじで立っていた紫苑の胸をそっと押した。紫苑はゆっくりと仰向けに倒れていく。それを櫻は無機質な表情で見つめていた。
「弥絃、よい」
紫苑の近くまで歩き、続けて打とうと弦を引き絞っていた弥絃はゆっくりと弦から手を離した。
「ほぉ。鬼でも血を流すのかえ? それも、紅い血を……。人ならざる化け物めが」
「術で、人を操るものが――何を、言う」
嘲笑うかのような桜の声に、紫苑は切れ目をなおも細める。櫻を睨んだまま、紫苑は言葉を続けた。
「その娘は、お前の私怨とは何の関係もないだろう」
その言葉を聞くと、櫻はその顔を怒りに染めた。
「そなたの周りにいる奴が、無関係などということはありえぬ」
そしてこれは、選ばれし巫女だ。――百年前の、姉と同じ。
「関係など、これで充分だ。他に、何があると言うのだ。鬼よ」
さくり、と櫻が紫苑に近づいた。神楽鈴を傍らに置き、紫苑の髪を掻き揚げる。そしてそのまま、頬から顎へと顔の線をなぞるように手を滑らせた。紫苑は痛みと悔しさからか眉を寄せる。
「俺と、お前の姉の間に、何の関係があると言うのだ」
睨み付け、うなるように櫻に問う。その問いを聞き、顔の輪郭をたどっていた白い手が荒々しく紫苑の頬を捉えた。
紫苑の頬へ赤い線が三つは知る。つう、と血が頬から滑り落ちた。櫻はその血に触れ、次いで胸倉を掴みあげた。
「関係ないと申すのか、そなたは。そなたが、その手で殺した我が姉を……!!」
――関係ないと、そなたは申すかっ。
「このっ、化け物め! 人の生き血を吸い、肉を貪る鬼め。我が姉を、桃を殺した、憎きものめ。
忘れたとは言わせぬ。ちょうど百年前、この娘の前に来た生贄だ。巫女装束を着た、美しい……娘だ」
櫻の瞳から涙が一筋零れ落ち、それは紫苑の頬を滑る。紫苑は驚いたように、目を見開いた。
櫻はぐっと紫苑の着物を掴む手に力を入れ、着物が肌蹴た。美しい顔が歪み、老婆の顔と被る。それでも目を引く紅唇はそのままだった。
「しかし、わらわにそなたを殺す力はない。怨みと憎しみを、晴らすことは出来ぬ。完全な……そなたならな。今のお前に、何が出来る? わらわを、殺してみるかえ?」
涙がまだ残るその顔に、それでも櫻は笑みを浮かべる。
しゃん、紫苑の体が強張るのと同時に弥絃の瞳が揺れた。とさり、と弓が落ちる。
「さ、くら……様」
細い声を漏らす弥絃の頬に櫻が手を添え、優しげに、穏やかに語りかけた。
「そなたが『鬼神』として接してきたこやつは『神』などという神聖なものではない。ただの鬼だ。
美しい顔を持ち、人を惑わせる邪悪な化け物。お前にどんな接し方をしたかは知らぬが――所詮は人ならざるものだ」
『百年前、生贄であった我が姉の桃を殺した、鬼だ』 その瞬間、弥絃ははっと息を呑んだ。声を出さないように懸命に口を閉じる。
「そなたは、この鬼を信じたのかえ? "鬼"を……?」
弥絃にはそうです、と言う力はなかった。いいえ、と嘘を付くことも出来なかった。
ただ沈黙が木々と共に辺りを包む。何か言わなければと口を開き、一体何をと口を閉じる。その様子を櫻は静かに見つめるだけだった。
「この……愚か者め。鬼の妖気に惑わされたか?!」
笑みの形を作っていた顔が大きくゆがむのを見て、弥絃は小さく眉を下げる。無意識に、掴みかかろうとした櫻から逃れようと体をひねった。
「そなたも、この鬼と変わらぬ。姉の命を奪った、血塗られた化け物と同じだ。そなたはもう、人ではない」
それでも逃げられず着物を掴まれ、無理やりに櫻へ向かされる。ぐっと弥絃は唇を噛んだ。目じりに涙を溜めながら、それを絶対に流さないように唇を噛み締めていた。
どう答えればいいのか、見当もつかなかった。櫻はさらに言い募ろうとし、口を開く。
『そこまでだ』
しかし、そこで木々が揺れる音が声に聞こえる。
『そこまでだ。出来損ないの巫女よ。よくも俺の領地を穢してくれた。その罪、どう贖う?』
ざわり、ざわりと木々が鳴る。櫻は『出来損ないの巫女』という言葉に唇を歪めた。
奇妙な形の笑みに変わった顔。しかしそれでも冷静さを失わないようにしながら笑ってみせる。今度は先ほどのような綺麗な笑みだった。
「ほう。もう話せるまでに回復したか。そなたは、ほんにこの山に好かれておるのう。
ならばわらわに、ここでそなたを殺す術はない。どうやらそなたに時間を与えすぎたらしい」
そう言って、置いていた神楽鈴を手に取った。
「本当は今日殺してやるつもりであったが――よいわ。そう簡単に殺しても、姉の無念は晴れぬだろう。
たっぷりと苦しめて、殺してくれと懇願するまで痛めつけて殺してやる。弥絃が操れるなら、いつでもできる」
にやり、と美しい……しかし狂気を孕んだ笑みに弥絃はびくりと震える。そしてそれ以上に、言葉の真意が取れなかった弥絃は恐る恐る話しかけた。
「櫻、様? 私、どうして……ここにいるの、です? 操れるって、何?」
「何だ。覚えておらぬのか? そうか、意識がないのだったな」
弥絃の何も知らないと言う顔に、櫻は嬉しそうに口角を上げた。
これから言う言葉に、弥絃がどんな反応を見せるのか楽しみで仕方がないというような表情を作る。それに、背筋が凍った。
「そなた、あの鬼が負った傷、わらわが付けたと思っているようだが、それは違う」
ふふふ、と目を細め、右の口角だけ器用に上げてみせる。
「そなたが、付けたのじゃ。そなたの放った矢が、鬼を穿(うが)った。そなたの指は、矢を番(つが)えた感触まで覚えているだろうに……」
細く、なお細く、目を細める。黒い、黒曜石のような瞳が見えなくなる。それと共に、真っ赤な唇が弧を描く。美しい、三日月の形を描いた。
それは、何も知らなければ見惚れてしまうほど優雅な笑みだった。しかし、それは……弱者をいたぶって遊ぶ、狩る側の笑み。
弥絃の体が大きく揺れると同時に、後方へと仰け反る。黒い髪が翻ってゆっくりと倒れていくそれを、櫻は無機質な笑みで見ていた。しかしそれを紫苑がゆっくりと抱き留める。
『殺されたいか? 俺はもう、お前の真名を知った』
俺に真名を握られているのに、まだここへいるのか? 櫻はひくり、とのどを鳴らし、唇を噛み締めた。
初めて感じる、紫苑からの殺気にたじろいで、一歩一歩踏みしめるように後ろへと下がる。
そして最後に、一度だけ柔らかく笑った。どこか、何か一つの目標を達成したかのような笑みだった。
「弥絃や。そなたが覚えておらぬようだからもう一度言う。そなたの母は今、病を得て床に伏しておる。
そなたはもう、人ではないから、そんなことも関係ないのかも知れぬがな」
『巫女め』
紫苑の声に怒りがこもる。紫苑に抱きかかえられていた弥絃は虚ろな視線を櫻に向けた。
うっすらと開かれた瞳から一筋だけ涙が零れる。それが黒髪に混ざり地面に落ちていった。
櫻は足元へ落ちていた弓をゆっくりと広い、見せ付けるように前へ出した後背中へとしまう。その光景を見た瞬間、弥絃はぱっと目を背けた。
その様子に櫻は満足そうな顔をして、自らの顔を指でなぞった。人差し指が真っ白な顔(かんばせ)に滑っていく。
その姿はもう霞んでいて、定かでなくなっていた。
ゆらゆらとまるで陽炎のように揺れている。やがてそれは、意識しないと認識できないまでになった。
「さく、ら様」
「人ならざるものが、人里に下りる――これが何を意味するか、分かるかえ?」
呼びかける弥絃に櫻は問いかけた。しかしやがて口を開く。……そこから出た言葉は、弥絃を奈落へ突き落とす。
「死――だ」
人ならざるもの……それは一体、誰のこと?
それが弓を引く呪文のように、弥絃を誘(いざな)うように纏わりつく。弥絃はゆっくりと弓を引き絞っていった。
その先は、真っ直ぐに紫苑へ向いている。
両手は震えることなく、その細腕には強すぎる力に振り回されることなく。しっかりと、弓と弦を持っていた。
「射れ」
短い言霊(めいれい)が響いた瞬間、弥絃の指から弦が離れた。そのときを待っていたかのように、その指は弓を射る。
"いぃぃぃぃん"
その音がそのまま矢となり、紫苑の体へと突き刺さった。静かで、神々しいまでの空気が震える。その音が遠くのほうへと消えて行くのが見えそうなくらい大きく震えた。
紫苑は声一つ漏らすことはなかった。櫻は訝しがりながらも、その着流した濃紺の着物が緋色に染まっていくのを見て美しい顔を綻ばせた。
そしてかろうじで立っていた紫苑の胸をそっと押した。紫苑はゆっくりと仰向けに倒れていく。それを櫻は無機質な表情で見つめていた。
「弥絃、よい」
紫苑の近くまで歩き、続けて打とうと弦を引き絞っていた弥絃はゆっくりと弦から手を離した。
「ほぉ。鬼でも血を流すのかえ? それも、紅い血を……。人ならざる化け物めが」
「術で、人を操るものが――何を、言う」
嘲笑うかのような桜の声に、紫苑は切れ目をなおも細める。櫻を睨んだまま、紫苑は言葉を続けた。
「その娘は、お前の私怨とは何の関係もないだろう」
その言葉を聞くと、櫻はその顔を怒りに染めた。
「そなたの周りにいる奴が、無関係などということはありえぬ」
そしてこれは、選ばれし巫女だ。――百年前の、姉と同じ。
「関係など、これで充分だ。他に、何があると言うのだ。鬼よ」
さくり、と櫻が紫苑に近づいた。神楽鈴を傍らに置き、紫苑の髪を掻き揚げる。そしてそのまま、頬から顎へと顔の線をなぞるように手を滑らせた。紫苑は痛みと悔しさからか眉を寄せる。
「俺と、お前の姉の間に、何の関係があると言うのだ」
睨み付け、うなるように櫻に問う。その問いを聞き、顔の輪郭をたどっていた白い手が荒々しく紫苑の頬を捉えた。
紫苑の頬へ赤い線が三つは知る。つう、と血が頬から滑り落ちた。櫻はその血に触れ、次いで胸倉を掴みあげた。
「関係ないと申すのか、そなたは。そなたが、その手で殺した我が姉を……!!」
――関係ないと、そなたは申すかっ。
「このっ、化け物め! 人の生き血を吸い、肉を貪る鬼め。我が姉を、桃を殺した、憎きものめ。
忘れたとは言わせぬ。ちょうど百年前、この娘の前に来た生贄だ。巫女装束を着た、美しい……娘だ」
櫻の瞳から涙が一筋零れ落ち、それは紫苑の頬を滑る。紫苑は驚いたように、目を見開いた。
櫻はぐっと紫苑の着物を掴む手に力を入れ、着物が肌蹴た。美しい顔が歪み、老婆の顔と被る。それでも目を引く紅唇はそのままだった。
「しかし、わらわにそなたを殺す力はない。怨みと憎しみを、晴らすことは出来ぬ。完全な……そなたならな。今のお前に、何が出来る? わらわを、殺してみるかえ?」
涙がまだ残るその顔に、それでも櫻は笑みを浮かべる。
しゃん、紫苑の体が強張るのと同時に弥絃の瞳が揺れた。とさり、と弓が落ちる。
「さ、くら……様」
細い声を漏らす弥絃の頬に櫻が手を添え、優しげに、穏やかに語りかけた。
「そなたが『鬼神』として接してきたこやつは『神』などという神聖なものではない。ただの鬼だ。
美しい顔を持ち、人を惑わせる邪悪な化け物。お前にどんな接し方をしたかは知らぬが――所詮は人ならざるものだ」
『百年前、生贄であった我が姉の桃を殺した、鬼だ』 その瞬間、弥絃ははっと息を呑んだ。声を出さないように懸命に口を閉じる。
「そなたは、この鬼を信じたのかえ? "鬼"を……?」
弥絃にはそうです、と言う力はなかった。いいえ、と嘘を付くことも出来なかった。
ただ沈黙が木々と共に辺りを包む。何か言わなければと口を開き、一体何をと口を閉じる。その様子を櫻は静かに見つめるだけだった。
「この……愚か者め。鬼の妖気に惑わされたか?!」
笑みの形を作っていた顔が大きくゆがむのを見て、弥絃は小さく眉を下げる。無意識に、掴みかかろうとした櫻から逃れようと体をひねった。
「そなたも、この鬼と変わらぬ。姉の命を奪った、血塗られた化け物と同じだ。そなたはもう、人ではない」
それでも逃げられず着物を掴まれ、無理やりに櫻へ向かされる。ぐっと弥絃は唇を噛んだ。目じりに涙を溜めながら、それを絶対に流さないように唇を噛み締めていた。
どう答えればいいのか、見当もつかなかった。櫻はさらに言い募ろうとし、口を開く。
『そこまでだ』
しかし、そこで木々が揺れる音が声に聞こえる。
『そこまでだ。出来損ないの巫女よ。よくも俺の領地を穢してくれた。その罪、どう贖う?』
ざわり、ざわりと木々が鳴る。櫻は『出来損ないの巫女』という言葉に唇を歪めた。
奇妙な形の笑みに変わった顔。しかしそれでも冷静さを失わないようにしながら笑ってみせる。今度は先ほどのような綺麗な笑みだった。
「ほう。もう話せるまでに回復したか。そなたは、ほんにこの山に好かれておるのう。
ならばわらわに、ここでそなたを殺す術はない。どうやらそなたに時間を与えすぎたらしい」
そう言って、置いていた神楽鈴を手に取った。
「本当は今日殺してやるつもりであったが――よいわ。そう簡単に殺しても、姉の無念は晴れぬだろう。
たっぷりと苦しめて、殺してくれと懇願するまで痛めつけて殺してやる。弥絃が操れるなら、いつでもできる」
にやり、と美しい……しかし狂気を孕んだ笑みに弥絃はびくりと震える。そしてそれ以上に、言葉の真意が取れなかった弥絃は恐る恐る話しかけた。
「櫻、様? 私、どうして……ここにいるの、です? 操れるって、何?」
「何だ。覚えておらぬのか? そうか、意識がないのだったな」
弥絃の何も知らないと言う顔に、櫻は嬉しそうに口角を上げた。
これから言う言葉に、弥絃がどんな反応を見せるのか楽しみで仕方がないというような表情を作る。それに、背筋が凍った。
「そなた、あの鬼が負った傷、わらわが付けたと思っているようだが、それは違う」
ふふふ、と目を細め、右の口角だけ器用に上げてみせる。
「そなたが、付けたのじゃ。そなたの放った矢が、鬼を穿(うが)った。そなたの指は、矢を番(つが)えた感触まで覚えているだろうに……」
細く、なお細く、目を細める。黒い、黒曜石のような瞳が見えなくなる。それと共に、真っ赤な唇が弧を描く。美しい、三日月の形を描いた。
それは、何も知らなければ見惚れてしまうほど優雅な笑みだった。しかし、それは……弱者をいたぶって遊ぶ、狩る側の笑み。
弥絃の体が大きく揺れると同時に、後方へと仰け反る。黒い髪が翻ってゆっくりと倒れていくそれを、櫻は無機質な笑みで見ていた。しかしそれを紫苑がゆっくりと抱き留める。
『殺されたいか? 俺はもう、お前の真名を知った』
俺に真名を握られているのに、まだここへいるのか? 櫻はひくり、とのどを鳴らし、唇を噛み締めた。
初めて感じる、紫苑からの殺気にたじろいで、一歩一歩踏みしめるように後ろへと下がる。
そして最後に、一度だけ柔らかく笑った。どこか、何か一つの目標を達成したかのような笑みだった。
「弥絃や。そなたが覚えておらぬようだからもう一度言う。そなたの母は今、病を得て床に伏しておる。
そなたはもう、人ではないから、そんなことも関係ないのかも知れぬがな」
『巫女め』
紫苑の声に怒りがこもる。紫苑に抱きかかえられていた弥絃は虚ろな視線を櫻に向けた。
うっすらと開かれた瞳から一筋だけ涙が零れる。それが黒髪に混ざり地面に落ちていった。
櫻は足元へ落ちていた弓をゆっくりと広い、見せ付けるように前へ出した後背中へとしまう。その光景を見た瞬間、弥絃はぱっと目を背けた。
その様子に櫻は満足そうな顔をして、自らの顔を指でなぞった。人差し指が真っ白な顔(かんばせ)に滑っていく。
その姿はもう霞んでいて、定かでなくなっていた。
ゆらゆらとまるで陽炎のように揺れている。やがてそれは、意識しないと認識できないまでになった。
「さく、ら様」
「人ならざるものが、人里に下りる――これが何を意味するか、分かるかえ?」
呼びかける弥絃に櫻は問いかけた。しかしやがて口を開く。……そこから出た言葉は、弥絃を奈落へ突き落とす。
「死――だ」
人ならざるもの……それは一体、誰のこと?
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