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いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
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 短めの小説第一弾です。恋愛成分は、それなりに入っておりますが、そんなにたいそうなものではございません。
 ちょっとだけ、魔女とか出てくるのでそういうのが苦手な人も気をつけてください。

 でも、ここに載せるととても長くなりそうなので、二回かもしくは三回ぐらいに分けようと思っています。なので、今日すぐ結末が出るということもありません。

 注意事項はこれくらいですかね……。
 では、どうぞ……。

+ + + + + + + + + +
 スッと薫る木の香り。誰も……何もいないのではないかと思うほどの静けさ。時折、忘れたように風が吹き、その時だけ木々が生命を取り戻したように揺れた。しかしそれ以外は、何も起こらない。


 その中に魔女が住む屋敷がある。一匹の猫を抱き、ゆらゆらと前後に揺れる安楽椅子に座った魔女。安楽椅子に座るには、若すぎるように見える女は日の光が当たると、嬉しそうに目を細めた。
 透けるような白い肌を持ち、その皮膚にはシワ一つ、シミ一つない。彫刻等のように白い肌とは対照的に、髪は闇より深い黒だった。
 全てを見通す瞳はよどむことなく、かといって美しく澄んでいるわけでもなかった。美しい、少女とも妙齢の女とも取れる女の顔は神秘的な雰囲気を内包していた。
 ゆうるりと細められた瞳は、魔女にはありがちな冷たさを奥に潜めていた。
「マーシュ」
 小さな声で、猫を呼ぶ。“マーシュ”と呼ばれた猫はあくびでそれに答えた。「冷たい仔ね」とたしなめる言葉も聞こえていないように振舞う。
「もうすぐ、ね」
 その言葉が意味することを分かっているのか、いないのか。マーシュは小さく身じろぎした。その時、トントンとドアがノックされる。
 魔女はゆっくりした動作で椅子から立ち上がった。まるでそれを予想していたかのように……。淡い紫のドレスがひらり、ひらりと美しく翻る。


 魔女はその美しくも冷たい顔を綻ばせ、ドアを開けた。
「あ……」
 まさか人が出てくるとは思っていなかったのか、ノックした本人は驚いたような顔で魔女を見つめる。ノックしたのは一五歳ほどの少女だった。 長く、亜麻色の髪は一つの大きなみつあみにしていて、服も魔女とは違う簡素で動きやすそうなドレスだ。
「あの、あたし、森で迷っちゃって……。雨も降ってきたから、それで」
 おどおどと自分の置かれている状況を説明する。その話を本当に聞いているのか、魔女はドアを大きく開けた。
「お入りなさい。温かいお茶を入れましょう」
 魔女は目を一層細め、優しく微笑んだ。そして、自分が先程座っていた安楽椅子の隣にあるソファーを指し示す。少女は遠慮がちにそれへ腰掛けると、魔女が出した紅茶のカップを手に取った。
 ふわりと薫る、甘い香り。そして、紅茶の名の通りの深い緋色をもつ液体を見つめた。その美しい色合いに誘われて少女はカップを口に付ける。
「おいしい」
 呟くような感想を言うと、魔女はニッコリと笑う。マーシュはふぁと口を開けた。
「どうしてこんなところへ来たのです?」
 さらさらと川のせせらぎにも似ている言葉の羅列。優しい響きの中にどこか混じる、寂し気な色合い。その声に少女はほっと息をついた。
「あ、あたし、ルーナって言います。綺麗な花を探してたら、いきなり雨が降ってきて。どこか休むところはないか探していたら、いつの間にかこの家があったから」
 ゆっくりとしたその声は、カップから立ち上る湯気と共に空気へ溶けた。魔女はその言葉を聞き、小さく目を見開いた。ルーナが来て、初めてその穏やかかつ冷たい表情を変えたのだ。驚いたような表情を出し、まじまじとルーナを見つめる。
 そして何かが分かったように口を動かして、何事か囁いた。しかしそれもすぐに元の表情に戻る。
 それから優しく頷いた。魔女は横目で窓を見やり、それからルーナに向き直る。
「ならば雨が止むまでここで休めばいいでしょう。その間、独り暮らしで寂しいわたしの話し相手になってくださる?」
 首を傾げると黒髪がふわりと揺れる。サラリと髪が落ちる様子にルーナは見惚れた。いつの間にかマーシュは魔女の膝を離れ、ルーナの足に頭を摺り寄せている。グルグルと喉を鳴らし、ルーナの関心を引こうとした。
 それを見た魔女は、納得したように頷く。先程の笑顔より嬉しそうに、喜色を滲ませた。
「マーシュ」
 魔女が静かに猫の名を呼ぶ。すると、マーシュは大人しくルーナから離れ、魔女の膝に飛び乗った。黒のように見える毛色は深い紺色で艶のある毛並みだった。そして、黄金の鋭い瞳と澄んだ碧眼を持っていた。どこかしら神秘的な雰囲気を持つマーシュの表情は魔女に似ていた。
 魔女は触り心地のよさそうな毛を撫で付けると、ルーナの薄く透明感のある黒い瞳を見つめた。魔女にはない、強い光を持つ瞳を魔女はじっと見つめる。


「昔話を、しましょう」
 声が深みを帯び、さらに心地よくなる。美しい響きの言葉たちはまるで、詩のように魔女の口から紡がれた。それはまるで、美しくも切れやすい――儚い糸のよう。
 魔女はマーシュを膝に乗せたまま、規則的に毛を撫でる手もそのまま話し始めた。物語とも、史実ともとれるそのお話は、ゆっくりと始まった。


 この国にね、数十年も昔の話だけれど、一人の魔女がいたの。誰にも認められる程の力を持ちながら、その魔女は愚かだった。
 その魔女はね――。恋をしたのよ。この国の王子に、恋をした。愚かでしょう? 身分違いも甚だしい。まして、魔女には恋なんて、愛なんて必要ないのに。


 その願いは叶わないと知りながらも、その心は報われないと知りながらも、その思いは許されないと知りながらも、その魔女は恋をした。優しくも、絶対に魔女には振り向かない王子に。
 その王子も、身分違いの恋をしていた。侍女に、恋をしてしまったの。そして、その侍女も王子を好いていた。当然のように二人の関係は誰も知らなかった。王子に相談を受けた、魔女以外はね。
 彼女は王子と、その侍女の為に色々なことをしたわ。逢瀬を邪魔されないように結界を張り、二人の真実を知ってしまった者たちの記憶を消した。報われないと知りつつ、それでも王子のために何かしたいというその一心で……。
 そしてある時、王子たちは城から出る決心をしたの。このままでは幸せになれないと、二人は悟ったから。でも魔女は戸惑ったわ。今までなら王子の傍に入れたのに、と。でも城から出て行かれたら、もう一生会えないのは目に見えていたから。
 それにね、彼女は国に雇われていたの。王子個人ではなく、国に――ね。だから、国に不利益なことはできない。国に不利益なことをする、それはそのまま国に雇われた魔女の禁忌だから。
 破ることを許されない、破ったが最期自分の身さえ滅ぼしかねない、契約だから。


 そこまで話して、魔女はふぅと大きく息をついた。どこか疲れたような表情でルーナを見つめる。
 何か言おうと口を開き、しかしその口から言葉が出ることなく、また閉じられた。眉を少しだけ下げ、それでも笑って見せた。
「その魔女は結局、どうしたんですか……?」
 先が気になって、ルーナは口を開いた。想像がつかなかった。どうなっても、物語としては納得できるから。


 どんな決断をしても、後悔することが分かりきっているのに、彼女は一体どちらをとった? 
 思い人の恋を手伝っているところからもう間違いなのだ、そう思ったが、彼女にはどうすることもできなかったんだろう。
 思いを告げることも、思いを殺すことも、どちらもできずただ、ただ迷って悩んでいるだけだった。それは何て、悲しいことなんだろう。恋をした時点で、間違いだったなんて、それは何て苦しいことなんだろう。
 王子の幸せをとり、自らの心を殺して禁忌を破るか――、そしてもう二度と会えなくなるか。
 国への忠誠を取り、王子を裏切って一生城へ閉じ込めるか――、そしてもう二度と顔を合わせなくなるか。


 ルーナの問いに、魔女は再び笑顔を浮かべた。淡く、儚い……、触れれば消えてしまいそうな雪のような笑み。
「あなたなら、どうします?」
 もし、あなたがその魔女なら、どちらを選びますか?
 魔女の問いに、ルーナは目を伏せた。何かを掴もうとするように目を彷徨わせる。長い間、そうしていた。
 魔女はそれを咎めることもせず、ただルーナを見ている。柔らかな眼差しの中に、観察する色を映し出した。
 いく時そうしていただろう、やがてルーナは静かに魔女へ向き直った。その瞳は揺れていて、いまだに自分の答えへ自信が持てないようだった。




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