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いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
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 何とかアレクが帰ってきそうな12話をお届けします。と、言っても出てくるのは後半ちょっと。
 ほとんどいないようなもんです。おっかしいなぁ。一番このお話の中で愛を注いでる人物なのに。
 私は誰がなんと言おうと、アレクが好きですから。(親ばかですから)へタレと言われようと、肝心なところで役立たずと言われようと。
 あの子は可愛いのです。(力説

+ + + + + + + + + +
「ティア姫、大臣からのお届け者ですよ」
「いいわ、入って。イリサ」
 イリサと呼ばれた侍女は小さい頃からティアについていて、ティアの姉的な存在だ。今年で十八歳だが、大変有能な侍女だ。イリサは紙の束を抱え、ティアの机にドンッと置いた。
 しかしティアには何なのか見当もつかず、首をかしげたまま紙を一つ取り上げた。
 さっと目を通すと、ティアの顔から表情が消え、眉間にしわがよった。プルーはピクリと肩をそびやかす。イリサもどう説明したもんかと戸惑う。そして何かを決心したように口を開いた。但し、自分の保身のために。
「わ、わたくしは止めたのですよ。ティア姫。ただ……」
 その時、一人の大臣が面会を求めてきた。イリサの表情が強張る。その顔から察するに「今はマズイ!」と思っているらしい。
「姫様、ノルセル大臣がお目見えです」
 そういいに入った侍女は、ティアとプルー、それにイリサを見回し、沈黙する。しかしティアは不機嫌な顔を一瞬のうちに笑顔へ変え、『入ってもらって』と促した。イリサは乾いた笑みを浮かべ、部屋の隅に寄った。


 ノルセス大臣とはボールウィン家に次ぐ名家の当主で、今年三十歳という若手の大臣だ。よく言えば向上心旺盛、悪く言えば野心家。
 ティアは手に持っていた紙をイリサに渡し、ゆっくりと大臣を見据える。わざとらしい位の笑顔は怖い。
「大臣、何です? この各国の写真の束と、趣味や経歴……。これではまるで……」
「お見合いですよ」
 この国では偉い人の言葉を途中で切るなど無礼この上ないことだ。それを名家の当主が知らないはずもない。知っていてやるのだから、かなり性質が悪いだろう。それを分かっているのでティアの表情も硬い。
「姫のためです。姫はもう成人した女性です。ならば結婚するのが世の常ですよ?」
 当然のことのように言う大臣にティアは意地悪そうに笑う。
「あなたはわたしが女王の地位に就くことを望んでいない。だから結婚を勧めるのでしょう? どこか遠くに嫁いでしまえばいいと思ったのね? わたしがボールウィン家の子息と親しいから。そして右も左も分からないシエルを王に据えて、あなたが操る、そういうこと?」
 下品にならない程度の含み笑いを大臣に向け、ティアは冷徹に言い放つ。
「退がりなさい。ノルセス家の当主はわたしがお嫌いのようだから」
 言い訳さえ許さぬ声に大臣は黙って部屋を出た。その浅黒い顔に、小さな笑みを浮かべたのに誰一人気付いてはいなかった。そう、ティアでさえも。


「明日帰ってくるわね」
 ノルセス大臣を部屋から追い出し、ティアは部屋から暗い夜空を見上げた。その表情が妙に寂しそうに見えるのはきっとプルーの気のせいではないだろう。
「何か……帰ってきたらしたいですね。無事に帰ってきたお祝いに」
「そうね」
 そう返事をした途端、ティアははっと顔を上げた。何かを思いついたのか、どこか企んでいるような顔になる。
「そうね! 小さなパーティーでも開きましょうか」
 そうと決まれば衣装選びね。嬉しそうにそう言うとプルーは逃げ腰になった。
「わ、わたしは制服で構いませんよね……?」
「なに言ってるの? わたしだけにひらひら、派手派手なドレス着させる気なの?」
 その目は『逃がさないから』と語っており、プルーはしばらく言い訳を考える。
「言い訳なんか許さないわよ?」
 しかしティアはプルーの思考を先回りして、次々と退路を潰していく。その顔はどこか嬉しそうだ。
「それは命令ですか?」
 プルーが聞くと、ティアは驚いたように目を見開く。そして小さく息をついた後ベッドから立ち上がってプルーを見つめた。
「わたしが誰かに命令するのは……、国のためか国民のためのみです」
 真っ直ぐすぎる視線にプルーは息を呑む。ティアははっきりと言い切ったあとに柔らかな笑顔を浮かべた。
「だから、今回はお願い、なの」
 その言葉にプルーは咄嗟に返す言葉が見つからなかったが、やがて笑顔で頷いた。


 次の朝、ティアの部屋にプルーが早々と来ていた。もう少し遅くてもいいのに、と零すティアにプルーは護衛ですから、と表情を引き締める。
「そんなことより、ドレス。これが似合うと思うの」
 ティアの出したドレスは派手でない程度にしか飾りのついていないものだった。
 どちらかというと地味で、色は濃い青なので初めて見たときは喪服かと疑うぐらいだった。
 しかしリボンもフリルもちゃんとついていて、露出は少ないが上品なドレスだ。普通のドレスより露出が少ないのは着慣れていないプルーへの心遣いだろう。
 着てみて、と急かされ黒色のマントを外すとティアはそのマントを自分の体に巻きつけた。プルーより一〇センチほども小さなティアの体はすっぽりと覆われ、足元までのドレスも隠れてしまう。
「このマント、いい生地なのね」
 嬉しそうに笑いながら、マントを撫でる。その様子を見ながらプルーは恥じらいもなく制服を脱ぎ、ドレスを身に着けていく。その手馴れている様子に、ティアは何か納得したように笑うが何も言わなかった。
 と、その時だ。静かだった部屋が一斉に騒がしくなる。侍女たちの悲鳴が聞こえた。武装した男たちが五人ほど入ってくる。あきらかに騎士ではない。
「お前たちは何者ですか! ティア姫のお部屋だと知っての狼藉なの? その行い万死に値すると思いなさい!!」
 気丈にイリサは男たちの前に立ちはだかる。しかしイリサの体は震えていた。ティアがイリサ、と小さく名前を呼び嗜めた。
 しかし男たちはそんな会話に耳も貸さず、マントを羽織ったティアに目もくれない。彼らの向かった先はプルーだった。
「え……」
 そんな声が聞こえたが早いか、プルーを肩に担ぎ上げ、早々と部屋から出て行く。その間に会話が何もない。おまけに顔を布でくるみ見知った顔なのかさえも分からない。
 あまりの速さにティアは驚きを隠せず、しばし呆然とするが、すぐさま部屋を出て追いかける。後ろの方で、
「お待ちください、ティア姫。危のうございます。戻ってきてください」
とイリサが叫ぶ声が聞こえるがそんなことを気にしている場合でもなく、無視した。
 普段走りなれていない所為かすぐさま息も上がり、男たちが時折見えなくなる。懸命に追いつこうと頑張るが、ティアが履いているものは歩いたり、走ったりするのには不向きだ。


 しかし一際広い場所に出ると男たちは止まった。馬が置いてある。
「止まりなさい」
 男たちに迷いもなく言う。自分一人で助けられないのは嫌でも分かる。 たかが女の、しかも大切に育てられた姫の力だ。男たちなんかに敵うわけがない。ならばアレクたちが帰ってくるまで時間を稼ぐのは自分の役目だと勝手に結論付ける。確か朝には着くと言っていたのだからもうすぐだろう。
 しかし反応は全くない。また、プルーも慌てる事無く大人しく捕まっている。プルーは両手を後ろ手に縛られ、その首筋にぴたりと刃物がつけられている。
「何のつもりです?! 答えなさい」
 そう聞くと一人の男が布で覆われている顔でにやりと笑い、やっと口を開いた。
「姫は預かっていく」
 その時になってやっとティアはこの男たちの狙っているものが何なのか気が付いた。ティア自身だ……。プルーはドレスでティアはマントを羽織って、下のドレスがあまり見えていない。この状況下でどちらが姫かと聞かれれば、迷いもなくプルーだと答えるだろう。
 ティアは咄嗟に自分の正体を明かそうとしたが、男たちは馬にまたがり、あっという間に消えてしまう。追いかけようとするが後ろから伸びてきた手に口をふさがれ、腰を引き寄せられた。
「っ!!」
 体を捩ろうともがけば、横から『大丈夫ですから』と聞き慣れた声が聞こえる。『落ち着きました?』と言う声に頷きだけで答えると、口元を覆っていた手が離された。
「アレク」
 振り向くと思っていた通りの人物の顔があり、ほっと肩の力を抜いた。
「リシティア様。何故こんな格好を?」
 髪を振り乱し、警備隊のマントを羽織っているティアに、アレクは眉を顰めた。しかし、今のティアにそんなことは関係なかった。
「アレク! 早く警備隊を使ってプルーの居場所を。わたしと間違われて、わたしどうしたらいいのか分からなくて……」
 いつもの口調とは違う口調はそのままティアの動揺を表していた。
「リシティア様、とにかく落ちついてくだ……」
「どうやって落ち着けって言うの?!」
 アレクの言葉を遮ってティアは叫んだ。いつもは冷静な王女の豹変に一緒にいたエイルは目を丸くしつつ、アレクに助け舟を出した。
「姫様、あいつのことですからわざと捕まったんでしょう。あいつは賢い、心配がありませんよ」
 エイルの冷静さにティアはぐっと息を詰めた。
「そんなこと、そんなこと分かっています。だから心配なんです。わたしの所為で、もし……もしもプルーに何かあったら、わたし……。一体どうしたら」
 もしプルーが王女の偽者だと分かったら? 攫った人間は一体何をしようとしている? もし、この国の次期女王を殺すのが目的だったら、プルーは。そう考えてティアは自分を包むマントごと体を抱きしめて、身を震わせた。単純に想像できてしまうその後がとても怖くなった。
 誰かが、自分の身代わりに死んだら? 自分の所為で、あの明るくて、優しい笑顔を失ってしまったら。そしたら自分は一体どうしたらいい? ティアは呆然とした。
「王女の……リシティア・オーティス・ルラ・リッシスクの名において命令します」

 声も、体も震えるけれど……それでも助けたいから、泣けない。
 わたしに泣く資格なんてない。
 泣く時間があるなら、その分プルーを救うことに時間をまわしたい。
 泣くことはプルーが帰って来てからでも遅くない。
 今はその時じゃない。
 今大事なのは、どうするか、どうやって取り返すかだ。
 それが全てで、それ以外に何もない。
 ただ、助ける。何があっても。
 護りたいものは、何があっても護る。
 それが、いつだったか胸に刻んだことだ。




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