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いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
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 昨日は久しぶりに母と大喧嘩しました。なので、昨日更新しようと思っていた分はブチっと切られました。
 さすがに殴り合いにはなりませんでしたが、中々すさまじかったです。(笑)
 弟とけんかしていて、それを注意した母親に私が食ってかかったのが悪かったわけですが。
 母の発言の揚げ足を取りすぎて、皿を投げられそうになりました。さすがに戦慄しましたね。殺されるかと思いました。



 それはそうと、最終話です。ついにここまできました。『姫と騎士』よりは随分と早く書き上げた作品なのですが、一番書き直したんじゃないかと思われます……。
 主に紫苑さんのせいで。早く書き上げられたのは友人の催促のおかげです。(笑)
 毎日のように催促を受けてましたから。土日明けとかは、白い視線が痛かったのを覚えています。


 今のところは野放しで、あんまり催促されないので、のんびり書いていますが。今書いているのも、大幅に改訂される雰囲気満載ですけど。

 西洋ものはもうおなかいっぱいです……。そろそろ日本の平安時代ぐらいに戻りたい。それがだめならせめて大正。
 戦国時代でもいいし、幕末でもいいです。(←篤姫の影響)

 なので短編集祭りは多分、舞台は日本です。



+ + + + + + + + + +
 閉じられていた瞼が震え、ゆっくりと弥絃は目を開いた。その瞳が紫苑を捉えた途端、大きく見開かれ震える。
 何かに怯えたように身を竦ませ、ふるりと体全体を震わせた。

「何を、したのですか?」

 自分の身に何が起きているのか、聡い彼女は気付いたのだろう。

「お前は俺と、永い時を生きる」

 ――もうお前は、逃げられぬ。放しも、しない。

 弥絃は一度、二度瞬きを繰り返し、そして紫苑を見つめた。

「私は、あなたとは違います」

「もう一緒だろう」

 きゅっと、弥絃が血の残る唇をかみ締める。

「私は、あなたのこと、何も知らないのですよ?」

「これから知ればいい」

「あなたの苦しみも、悲しみも、何も分からない」

 弥絃が少しだけ眉を顰めると、不意に顔を背けた。

「お前に俺の痛みが分からないよう……」

「止めてください!!」

 紫苑の言葉を途中で切り、弥絃は叫んだ。耳をふさぎ、首を振った。

「死なせて、くれればよかったのに……!! 私に何をしたのですか? 
何故、生贄でしかない私をそうまでして助けたのです!! 人のまま、死ぬことも私には許されないのですか?」

 紫苑は思わず、弥絃の手首を掴み引き寄せる。力任せにその細い体を抱きしめた。

「もう手放すなんて、無理だ。生きていてくれればいいとも思ったが、それでは駄目だ」

 抱きしめる腕に力を込める。それでもその体を潰してしまいそうになり、少しだけ力を緩めた。
 声の震えは弥絃に届いてほしくない。それが最後の意地だった。

「置いて逝かれると感じた時……、心が冷えた。
もう、お前が、この世のどこにもいなくなると思うと、お前が傷付くのを分かっていたのに、体が勝手に動いた。
禁忌を犯した――その罪深さは俺が一番分かっている」

 どうしてだろうな。――失いたくなかったんだ。

「傍に、いてほしい。それだけでいい」

 弥絃の顔が怖くて見れない。

「頼む」

 その名に力を込めて呼ぼう。失いたくないという、愛しいという、心を込めよう。
 何度でも、その名を呼ぼう。愛しい人の名を。この心が、ほんの少しでも届くのなら。

「弥絃」

 腕の中で大きく震え、ついで小さな泣き声が聞こえた。

「どうしてっ。どうして、そんなこんなこと言うのですか?」

 どうして、名前なんかを呼ぶのですか?

「お前を傷付けると分かって、人間であるお前を俺は殺した。それは、俺がお前を放したくないからだ。傍に、いてほしかった」

 それは、魔の力を持つ、呪。

「弥絃を、誰よりも……想ってる」

 吐息のような告白に弥絃は顔を上げた。

「し、おん……」

 何かを疑うように、確かめるように、弥絃は問いかけた。顔を紫苑の方へ向けた拍子に最後の涙がほろりと零れた。
 『もう、泣き止め』と紫苑は微苦笑し、唇を頬に寄せた。
 唇が涙の後をたどり、残った雫を舐めとる。その感覚に無意識に体を引く弥絃を、紫苑はすぐさま捕らえた。

「今までずっと独りだった。始めから、独りが当たり前だった。それがこれから死ぬまで続くと思っていた。
永い時を、一緒に生きるものなど、必要ないと思っていた。それが、俺がこの世に現れた時からの理だから」

 いつ終わるか分からぬくらい、時にはその命さえ疎ましく思うほど永い時……そんな時を、一人で過ごすことが当たり前だった。

 それは何と悲しく、寂しい孤独。

 人と一緒にいることを知らなければ、孤独さえ感じない。自分の持つ感情が、孤独ということにさえ気が付かない。
 それは孤独を感じるよりももっと寂しいことだろう。

「寂しくは、ないの?」

 弥絃は悲しそうに問う。その考えが、どんなに悲しいことか、紫苑は気が付いているのだろうか? 
 そう思うと胸が痛む。弥絃の揺れる瞳を見つめ、紫苑は笑った。

「寂しいという、感覚がなかった。独りが普通だったからな。お前のように長い間、ここにいる人間は初めてだ。
お前のおかげで、その感覚を手に入れることができた」

 冷たくなっていく腕の中の弥絃。置いて逝ってほしくないという、焦燥感とも取れぬあの感覚が『寂しい』ということだと、初めて知った。
 知って、なんと痛い感情なのかと思った。

「ならば私は、あなたに孤独を与えてしまったのですね」

「そうだな。でも、あれは必要なものだ」

 『人』であるお前の心を知るために必要なものだ。そう言って、紫苑は笑う。
 孤独を知らなければ、人の温かみなんて分からない。人の温かみを知らなければ、孤独なんて分からない。

 孤独を知って初めて、隣にいる人の愛しさを感じる。

「お前は俺に孤独を教えたのだから、その罰として俺の傍にいろ」

 少しでも孤独を感じた時は、その腕を捕まえて――。二人いれば孤独は何に変わるのだろう。

「私は、傍にいてもいいのですか?」

 恐る恐る弥絃は聞く。抱きしめられた体を動かし、汚れのない瞳で紫苑を射抜く。

「傍にいろと、言っている」

 そう一度だけそう言うと、紫苑は弥絃を抱いたまま立ち上がった。背中と膝の裏に腕の感触を感じる。
 ふわりという浮遊感、安定している腕の中で弥絃はほんのりと微笑を浮かべた。

「紫苑。傍に、いますね。あなたが孤独を感じないように。感じても、すぐ近くにいれるように」

 紫苑はその言葉を聞くと、弥絃に笑みを返した。柔らかくて、優しくて……今までに見たことがなかった笑み。

「今年、勿忘草を見に行きましょうね。悲しい人たちの悲しい思い出を、その人たちのことを、忘れないように。
私たちだけでも、ずっと覚えていられるように」

 この心に宿るものを忘れてしまわないように。失ってしまわないように。

「ねぇ、紫苑。私ね、本当は……。あなたに『俺が怖いか』と聞かれた時、『優しい』って答えたかったわけではないの。あなたのことが……」

 そこで一度、言葉を区切り、紫苑を見つめ優しく笑った。

「あなたのことが、好きだと言いたかったの」

 互いに名を呼ぶ唇を合わせ、思いを伝えましょう。

 言葉だけでは上手く伝わらないから。言葉に出せば、ありきたりで想いがどこかへ行ってしまいそうだから。
 想いの丈を言葉で表すには、その想いは大きすぎるから。

 その想いは言葉には表せないものだから。

 代わりに、身を震わせ、心を振るわせ、言いようもない衝動を駆り立てる。どうしようもない想いが体を動かす。
 互いの名を呼ぶのは、相手を縛るため。どこへも行かせずに、自分の元へ留めておくため。
 その唇から出る吐息で声で、その唇から紡がれる言霊で身動きが取れないくらいにしてしまいたいと思うから。

 その気持ちは、とても純粋なもの。優しいもの。柔らかいもの。温かいもの。
 そして人を――鬼をも変えてしまうほどの力を持つもの。とてもとても、不思議なもの。

 さあ呼びましょう。愛しい人の名を。




 白無垢は花嫁衣裳。穢れも何も知らない、あなたの色。そして、私のものになる色。
 親に、友に、知らせたいと思った。
 私は生きてますと。幸せですと。白無垢を着て、赤い紅を唇に引いて。背筋を伸ばして歩き出そう。
 もう自分は、人でも――ましてや鬼でもないけれど、そこにもう、嫌悪感を感じない。瞼の裏に独りで泣く、悲しそうな鬼はもう浮かばない。
 その代わりに浮かぶのは魅入られそうなくらい美しい笑顔だから。
 さあ、愛しい人の手を取りましょう。ずっと傍にいたくて、いてほしい――その人の手を。
 いつか離れ離れになるその時まで。離さずに。そしてその時、囁きましょう。あなたへ。

 『私を忘れないで。ずっと忘れないで』

 いつまでも、いつまでも、記憶であなたを縛り付けましょう。それは甘く、優しい束縛……。
 決して解けぬ、解くことも願わぬぐらい優しい、温かい、鎖で。縛られているという感覚さえ忘れさせる美しい戒めで。

 幾度も幾度も繰り返し、囁きましょう。忘れないように。私も、あなたを忘れてしまわないように。
 たとえ生まれ変わって、何一つ記憶がなくても、あなたを見た時、またその思いが蘇るように。

 何一つ思い出せなくても、『紫苑』と呼べるように。


 勿忘草の……花言葉どおりに。

                      ~END~




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