いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
ドラマとは関係ありませんから。……ただ、『声』が主題というだけです。
甘々注意報。糖分過多のため、苦手な方は逃げてください。現在私に甘さが足りないんです。
糖分が足りてないんですよ!!
ちなみにヒーローの声のイメージは……やめておきます。想像がつくかたは、その声でぜひどうぞ。石田さんじゃありませんよ、ちなみに。
甘々注意報。糖分過多のため、苦手な方は逃げてください。現在私に甘さが足りないんです。
糖分が足りてないんですよ!!
ちなみにヒーローの声のイメージは……やめておきます。想像がつくかたは、その声でぜひどうぞ。石田さんじゃありませんよ、ちなみに。
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『本日の放送は、2-1 浅野 恭がお送りしました』
BGMと共に流れる声。深くて、澄んでいて、それでいて……少しだけ甘い声。
決して幼い声じゃない。むしろ大人びた声だ。私は目を瞑って、その声を聞いていた。
「おい……」
そうそう、こういう少し呆れたような声も色っぽくて好きなのよね、あたし。
「おい!!」
えっ、話しかけられてるのって……。
「御園!!」
「はい」
名前を呼ばれて、ようやく彼が話しかけていたのがあたしだと知った。
「何でしょうか。浅野先輩」
彼、浅野 恭先輩はあたしより一つ上の学年の放送部員。そしてあたしも、この放送部の一員です。
まだまだ一人で、なんてさせてもらえないけれど、それでも何だかんだ言いつつ楽しい部活動を送っています。
「おっ前、寝てたのか……」
怒りを押し殺したような先輩の声を聞き、慌てて弁明する。
「そ、そんなことないです! 先輩のすばらしい美声に耳を傾けていただけですよ。
耳だけに神経を集中させるために、目を閉じてただけです。先輩がしゃべってるのに寝るなんて、もったいない」
そう一気に言うと、先輩は虚を突かれたような顔をした。何でそんな顔をするんだろう。
「分かったから、そういうことを言うな。恥ずかしいから」
「えぇ~。事実なのに」
そもそもあたしが放送部に入ったのも、この先輩の声に惚れたからだ。もう、初めて聞いた瞬間、しばらくの間何も手につかなかった。
そのくらい衝撃を受ける声だった。そして、そんな声を出す人に会ってみたいと思った。
「この声の、どこがいいんだか」
「深くて、凛と澄んでいて、でも決して高い声じゃないんですよね。むしろ、低くて落ち着いてて高校生にはない声です。
それでも、若々しいハリのある声で、それで……時々甘くなる声なんです!!
もう、本当に素敵なんですって!! この声で告白とか、先輩!! 断られたことないでしょう?! この声に惚れない人がいたら見てみたい。
もう、大好きです。愛してます……!!」
長々とそう言うあたしを、先輩は呆れたように見つめた後、また話し出そうと口を開いたあたしの口をふさいだ。
色っぽい展開を期待した方々、残念ながらあたしの口をふさいでくれたのは、今はまってるハチミツメロンパンなのです。
このとろりとした食感が何とも言えず……。
「それ食って、黙ってろ」
返事の代わりに一つ、頷き返した。
「あのな、一つ言っとくけど、これはアイツに頼まれたからなんだからな」
「ひってまふよぉ」(知ってますよ)
「だから、ここの正式な部員じゃないんだ」
「わかっけまふ」(分かってます)
パンを咥えたままだけれど、何とか会話が成立していた。
いつもあたしが発音練習しているその賜物か、それともただ単に先輩がよく聞いているだけなのか、分からないけれど。
「それでも、時々でも先輩が放送するんなら聞きたいじゃないですか。
それに、先輩の声を毎日聞いてたら、あたしの身体が持ちませんよ。興奮しすぎて。
だから、時々でいいんですよ。ありがたみが上がるじゃないですか」
そう言うと、『食うの早いな』という声が返ってきた。『咥えたままの会話ってやりにくいし、行儀悪いでしょ』そう返す。
「行儀、ねぇ。それなら、安易に人のどこが好きとか言っちゃいけないとか習わなかったか? 社交辞令にも程がある」
「いえ、全く。どっちかって言うと、積極的に伝えちゃいなさい、というのが我が家の方針ですよ」
そう言い返す。すると、先輩はもう何も言わず、だけど怒らせちゃったのかな? と思っているあたしの方を向いて笑った。
「もう昼休み終わるぞ。戻んなくていいのか?」
小さくあたしのことを気にかけるその声も、あたしにとっては甘い。
「先輩って、そのうちその声で、あたしを殺す気ですよね……」
そう言って、あたしは放送室の扉を開いた。
「でね、でね。今日の先輩の声は、とっても素敵だったの」
「ハイハイ。ただ、浅野先輩がよくそんな言葉貰って我慢してたのね?
絶対すぐに立ち去ると思ったのに……」
そう言うのは同じ放送部員である由香だ。ただし彼女は、中学生時代から放送部員をやっており、大会などにも出たことのあるベテランさんだ。
目下あたしの師匠として、毎日練習に付き合ってくれている。
「大体、先輩の声ってそんなにいいの? 確かに落ち着いた印象はあるけど、あんたが絶賛するようには聞こえないけど?」
こいつは何にも分かってないな。あの声の良さが分からないなんて、声で勝負する放送部員としてどうなんだろう。
「いいよ。あの声大好き。もうそのうちあの声で殺されるかも」
「何で?」
何で、ですと? そんなこと、はっきりとは分からないけれど。
「え? 興奮のしすぎ……? 呼吸困難。心臓の爆発。えっと、頓死」
「何。それ」
「と、とにかくすっごく心臓に悪い声だよ」
もちろん、いい意味でだけど。
「何か、心臓鷲掴みされた感じかな。バクバクして、心臓が痛いくらいに鳴るの。肺とかを圧迫して、息が、できなくなる」
そう言うと彼女はにやりと笑った。
「恋だねぇ」
「ち、違うよ!! 声に恋してるの!! そんな、にやけられるような意味の声じゃないよ」
「ほぉ、『声』に、恋してる、ねぇ?」
突然背中から声が聞こえた。普段聞きたくてたまらなくなる声の持ち主が、後ろにいる。
「せ、先ぱ……」
くるりと振り向き、にこっと笑った。笑うようには努めたつもりだが、内心冷や冷やしている。
だって、ほら……。気持ちいいもんじゃないでしょ? 声、に恋してるとか。
「こんにちは。呼んでくれたらよかったのに。ちょっと、びっくりしちゃいました」
きちんと笑えているだろうか? ちゃんと、笑顔になっているだろうか。顔は……引きつってないだろうか。声は――。
「お前は、声、声、声。声しか、興味ないんだな。人を、見てないんじゃないか?」
少しだけ怒った声。あたしは、声だけにしか興味がない?
「ううん。そうじゃないんですよ。先輩。ただ他のところより、重きを置いているだけです。
顔よりも、頭の出来よりも、運動神経よりも……って感じ」
でも、でもね?
「でも、あたし……」
言葉を続けることなく、たんっと、机に手を突いて席を立った。
「それでも、先輩がそう言うんなら……。あたしは何より声が大切と言うことですよね? まぁ、でも、それでいいか」
「お前っ」
怒鳴る直前の声も素敵。あ~。怒られてんのに何考えてんだろう。あたし。
「だって、先輩の『声』、本当に素敵ですもん」
それだけ言い残して、部屋を出た。怒られるの覚悟で、嫌われるの覚悟で。
自分がなぜ、あんなことを言ったのか分からなかった。
「浅野先輩」
隣の後輩がニヤニヤとこちらに笑いかけてくる。
「随分、『声』が好かれていることを怒ってるみたいですね?」
嬉しそうに、顔を近づける。先輩をからかうなんていい性格をしてる。それだから小さく仕返しをしてみた。
「まぁ、放送部の部長に恋をして、この高校まで追いかけてきたお前には負けるけどな」
その途端、後輩の顔が赤く染まった。
大会に出る常連とか、一年目にして放送部のエースとか言われている彼女が放送部に懸けている情熱は、そのまま恋の情熱だったりするのはここだけの話。
「べ、別に、あの人のためだけにここに来たんじゃないですもん。
ここの放送部がレベル高かったから……。
だから、別に、部長は関係ないですもん」
ふん、と横を向いた。この部の部長である友人も、満更ではなさそうなので、面白いところではあるが。
「どーして、好きな子に好きって言われて怒るんですか? 『声』だけだからですか?」
う、と黙ると『図星だぁ』と面白そうに言ってきた。こいつ、分かって言ってるから余計たちが悪い。
「いいじゃないですか。私なんて、部長に『お前の声は低すぎる』って一刀両断ですよ」
「好きなやつに『低すぎる』って言われるよりましだって?」
『好きなやつ』を強調すると自分の失態に気がついたようだ。あ、と口を押さえてこちらを見た。
「別に、一般論を語ったまでです。褒められるほうがいいですよ。絶対」
そう言って、後輩は笑った。
「どうしよう」
嫌われたかもしれない。いや、めんどくさがられているのは分かっていたんだけど、嫌われてはいないようだから安心しすぎていた。
一人、教室で反省中。一年生の教室は、とても静か。
「え、どうしよう。口利いてもらえないとか?」
それはさすがに、嫌だ。一日でも耐えられない。いい声は、やっぱり毎日聞きたいし、放送じゃなくって、面と向かってしゃべりたい。
「放送だけじゃ足らないのに……」
「何が?」
「先輩の声」
そこまで答えて気がつく。どーして一人でいるのに、あたしは他人と会話してるんでしょーか。
「お前、本当にどこまでも、声なのな」
「せ……」
先輩、という声さえ出てこなかった。
「違うんです。声が一番好きなだけであって、全部好きなんです。先輩のこと。
まじめだったり、責任感強かったり、優しかったり。そんなところも全部含めて好きなんです!」
自分で、自分が何を言っているのか分からなかった。
「さっきのは、成り行きというか、先輩が意地が悪かったから拗ねてみただけというか。とにかくさっきのは間違いなんです――――!!」
先輩の言うことが、あまりにもあたしの気持ちを無視していたから。そんなふうにしか、思われていないと知ってショックだったから。
声だけしか、興味がないなんて……そんなふうに思ってほしくなかった。
「いっつも言ってたのに。……あたし、声しか褒めてないなんてこと、ありませんよ」
そうだ、いつもいつも、好きだとは口に出してきていた。でも、それは声だけじゃなかったはず。
なのに。
「なのに先輩があんなこと言うから……」
ああ、泣きそうだ。情けない。こんなことくらいで、泣くなんて。泣き落としだけは、使いたくなかったのに。
先輩、そういうのに弱そうだから、余計。
「満足したか? それだけ言って」
「言い足りませんけど、これ以上言うと、本当に嫌われそうなんでいいです」
「悪かったって。……泣かれるのは、苦手だから」
ほら見たことか。泣いた瞬間、下手にでて。
「先輩、あたし、本当に好きなんですってば。声も、何もかも」
どれだけ、声を大にしても、あなたには伝わりませんか?
「いや、分かったから」
声が変で、少しだけ顔を上げると目があった。真っ赤な顔をした、先輩の顔。
「照れてるんですか?」
泣きそうなことも忘れて問うと、ふいっと顔を背けられた。
「え、本当に照れてるんですか? どうして? 褒められるのに、そんなに慣れてないんですか?」
高校生にもなって、褒められてここまで赤くなるとか、逆に貴重じゃないだろうかと思ってくる。
「ねぇ、せんぱ……」
言いかけたところで、口をふさがれる。色っぽい展開を考えた方、今回は手です。……微妙な表現の仕方ですみません。
「俺、お前の声が好きなんだけど」
褒められて、ここまで恥ずかしかったことはない。……顔が赤くなって、多分、今見ることができる顔じゃない気がする。
「声を褒められるのは、初めてです……」
先輩を見つけたとき、とっさに立っていたのに、足から力が抜けた。
「それ、告白と受け取っていいですか? って、もうそういうことにしますけどね!!」
からかい半分、それから……複雑な面持ちを乗せつつ聞いてきた。
「先輩の声で告白されて、断れる女の子がいると思いますか?」
それがきっと、あたしの答え。
「声だけじゃないですからね! 全部……す、好きですからね!!」
まだ言い募ろうとする口は、今度こそ唇でふさがれた。
多分好きになった人のことは、どこだって、愛しい。
その少し意地っ張りなところも、ちょっと冷たいところまで。
それが、恋の正体。
BGMと共に流れる声。深くて、澄んでいて、それでいて……少しだけ甘い声。
決して幼い声じゃない。むしろ大人びた声だ。私は目を瞑って、その声を聞いていた。
「おい……」
そうそう、こういう少し呆れたような声も色っぽくて好きなのよね、あたし。
「おい!!」
えっ、話しかけられてるのって……。
「御園!!」
「はい」
名前を呼ばれて、ようやく彼が話しかけていたのがあたしだと知った。
「何でしょうか。浅野先輩」
彼、浅野 恭先輩はあたしより一つ上の学年の放送部員。そしてあたしも、この放送部の一員です。
まだまだ一人で、なんてさせてもらえないけれど、それでも何だかんだ言いつつ楽しい部活動を送っています。
「おっ前、寝てたのか……」
怒りを押し殺したような先輩の声を聞き、慌てて弁明する。
「そ、そんなことないです! 先輩のすばらしい美声に耳を傾けていただけですよ。
耳だけに神経を集中させるために、目を閉じてただけです。先輩がしゃべってるのに寝るなんて、もったいない」
そう一気に言うと、先輩は虚を突かれたような顔をした。何でそんな顔をするんだろう。
「分かったから、そういうことを言うな。恥ずかしいから」
「えぇ~。事実なのに」
そもそもあたしが放送部に入ったのも、この先輩の声に惚れたからだ。もう、初めて聞いた瞬間、しばらくの間何も手につかなかった。
そのくらい衝撃を受ける声だった。そして、そんな声を出す人に会ってみたいと思った。
「この声の、どこがいいんだか」
「深くて、凛と澄んでいて、でも決して高い声じゃないんですよね。むしろ、低くて落ち着いてて高校生にはない声です。
それでも、若々しいハリのある声で、それで……時々甘くなる声なんです!!
もう、本当に素敵なんですって!! この声で告白とか、先輩!! 断られたことないでしょう?! この声に惚れない人がいたら見てみたい。
もう、大好きです。愛してます……!!」
長々とそう言うあたしを、先輩は呆れたように見つめた後、また話し出そうと口を開いたあたしの口をふさいだ。
色っぽい展開を期待した方々、残念ながらあたしの口をふさいでくれたのは、今はまってるハチミツメロンパンなのです。
このとろりとした食感が何とも言えず……。
「それ食って、黙ってろ」
返事の代わりに一つ、頷き返した。
「あのな、一つ言っとくけど、これはアイツに頼まれたからなんだからな」
「ひってまふよぉ」(知ってますよ)
「だから、ここの正式な部員じゃないんだ」
「わかっけまふ」(分かってます)
パンを咥えたままだけれど、何とか会話が成立していた。
いつもあたしが発音練習しているその賜物か、それともただ単に先輩がよく聞いているだけなのか、分からないけれど。
「それでも、時々でも先輩が放送するんなら聞きたいじゃないですか。
それに、先輩の声を毎日聞いてたら、あたしの身体が持ちませんよ。興奮しすぎて。
だから、時々でいいんですよ。ありがたみが上がるじゃないですか」
そう言うと、『食うの早いな』という声が返ってきた。『咥えたままの会話ってやりにくいし、行儀悪いでしょ』そう返す。
「行儀、ねぇ。それなら、安易に人のどこが好きとか言っちゃいけないとか習わなかったか? 社交辞令にも程がある」
「いえ、全く。どっちかって言うと、積極的に伝えちゃいなさい、というのが我が家の方針ですよ」
そう言い返す。すると、先輩はもう何も言わず、だけど怒らせちゃったのかな? と思っているあたしの方を向いて笑った。
「もう昼休み終わるぞ。戻んなくていいのか?」
小さくあたしのことを気にかけるその声も、あたしにとっては甘い。
「先輩って、そのうちその声で、あたしを殺す気ですよね……」
そう言って、あたしは放送室の扉を開いた。
「でね、でね。今日の先輩の声は、とっても素敵だったの」
「ハイハイ。ただ、浅野先輩がよくそんな言葉貰って我慢してたのね?
絶対すぐに立ち去ると思ったのに……」
そう言うのは同じ放送部員である由香だ。ただし彼女は、中学生時代から放送部員をやっており、大会などにも出たことのあるベテランさんだ。
目下あたしの師匠として、毎日練習に付き合ってくれている。
「大体、先輩の声ってそんなにいいの? 確かに落ち着いた印象はあるけど、あんたが絶賛するようには聞こえないけど?」
こいつは何にも分かってないな。あの声の良さが分からないなんて、声で勝負する放送部員としてどうなんだろう。
「いいよ。あの声大好き。もうそのうちあの声で殺されるかも」
「何で?」
何で、ですと? そんなこと、はっきりとは分からないけれど。
「え? 興奮のしすぎ……? 呼吸困難。心臓の爆発。えっと、頓死」
「何。それ」
「と、とにかくすっごく心臓に悪い声だよ」
もちろん、いい意味でだけど。
「何か、心臓鷲掴みされた感じかな。バクバクして、心臓が痛いくらいに鳴るの。肺とかを圧迫して、息が、できなくなる」
そう言うと彼女はにやりと笑った。
「恋だねぇ」
「ち、違うよ!! 声に恋してるの!! そんな、にやけられるような意味の声じゃないよ」
「ほぉ、『声』に、恋してる、ねぇ?」
突然背中から声が聞こえた。普段聞きたくてたまらなくなる声の持ち主が、後ろにいる。
「せ、先ぱ……」
くるりと振り向き、にこっと笑った。笑うようには努めたつもりだが、内心冷や冷やしている。
だって、ほら……。気持ちいいもんじゃないでしょ? 声、に恋してるとか。
「こんにちは。呼んでくれたらよかったのに。ちょっと、びっくりしちゃいました」
きちんと笑えているだろうか? ちゃんと、笑顔になっているだろうか。顔は……引きつってないだろうか。声は――。
「お前は、声、声、声。声しか、興味ないんだな。人を、見てないんじゃないか?」
少しだけ怒った声。あたしは、声だけにしか興味がない?
「ううん。そうじゃないんですよ。先輩。ただ他のところより、重きを置いているだけです。
顔よりも、頭の出来よりも、運動神経よりも……って感じ」
でも、でもね?
「でも、あたし……」
言葉を続けることなく、たんっと、机に手を突いて席を立った。
「それでも、先輩がそう言うんなら……。あたしは何より声が大切と言うことですよね? まぁ、でも、それでいいか」
「お前っ」
怒鳴る直前の声も素敵。あ~。怒られてんのに何考えてんだろう。あたし。
「だって、先輩の『声』、本当に素敵ですもん」
それだけ言い残して、部屋を出た。怒られるの覚悟で、嫌われるの覚悟で。
自分がなぜ、あんなことを言ったのか分からなかった。
「浅野先輩」
隣の後輩がニヤニヤとこちらに笑いかけてくる。
「随分、『声』が好かれていることを怒ってるみたいですね?」
嬉しそうに、顔を近づける。先輩をからかうなんていい性格をしてる。それだから小さく仕返しをしてみた。
「まぁ、放送部の部長に恋をして、この高校まで追いかけてきたお前には負けるけどな」
その途端、後輩の顔が赤く染まった。
大会に出る常連とか、一年目にして放送部のエースとか言われている彼女が放送部に懸けている情熱は、そのまま恋の情熱だったりするのはここだけの話。
「べ、別に、あの人のためだけにここに来たんじゃないですもん。
ここの放送部がレベル高かったから……。
だから、別に、部長は関係ないですもん」
ふん、と横を向いた。この部の部長である友人も、満更ではなさそうなので、面白いところではあるが。
「どーして、好きな子に好きって言われて怒るんですか? 『声』だけだからですか?」
う、と黙ると『図星だぁ』と面白そうに言ってきた。こいつ、分かって言ってるから余計たちが悪い。
「いいじゃないですか。私なんて、部長に『お前の声は低すぎる』って一刀両断ですよ」
「好きなやつに『低すぎる』って言われるよりましだって?」
『好きなやつ』を強調すると自分の失態に気がついたようだ。あ、と口を押さえてこちらを見た。
「別に、一般論を語ったまでです。褒められるほうがいいですよ。絶対」
そう言って、後輩は笑った。
「どうしよう」
嫌われたかもしれない。いや、めんどくさがられているのは分かっていたんだけど、嫌われてはいないようだから安心しすぎていた。
一人、教室で反省中。一年生の教室は、とても静か。
「え、どうしよう。口利いてもらえないとか?」
それはさすがに、嫌だ。一日でも耐えられない。いい声は、やっぱり毎日聞きたいし、放送じゃなくって、面と向かってしゃべりたい。
「放送だけじゃ足らないのに……」
「何が?」
「先輩の声」
そこまで答えて気がつく。どーして一人でいるのに、あたしは他人と会話してるんでしょーか。
「お前、本当にどこまでも、声なのな」
「せ……」
先輩、という声さえ出てこなかった。
「違うんです。声が一番好きなだけであって、全部好きなんです。先輩のこと。
まじめだったり、責任感強かったり、優しかったり。そんなところも全部含めて好きなんです!」
自分で、自分が何を言っているのか分からなかった。
「さっきのは、成り行きというか、先輩が意地が悪かったから拗ねてみただけというか。とにかくさっきのは間違いなんです――――!!」
先輩の言うことが、あまりにもあたしの気持ちを無視していたから。そんなふうにしか、思われていないと知ってショックだったから。
声だけしか、興味がないなんて……そんなふうに思ってほしくなかった。
「いっつも言ってたのに。……あたし、声しか褒めてないなんてこと、ありませんよ」
そうだ、いつもいつも、好きだとは口に出してきていた。でも、それは声だけじゃなかったはず。
なのに。
「なのに先輩があんなこと言うから……」
ああ、泣きそうだ。情けない。こんなことくらいで、泣くなんて。泣き落としだけは、使いたくなかったのに。
先輩、そういうのに弱そうだから、余計。
「満足したか? それだけ言って」
「言い足りませんけど、これ以上言うと、本当に嫌われそうなんでいいです」
「悪かったって。……泣かれるのは、苦手だから」
ほら見たことか。泣いた瞬間、下手にでて。
「先輩、あたし、本当に好きなんですってば。声も、何もかも」
どれだけ、声を大にしても、あなたには伝わりませんか?
「いや、分かったから」
声が変で、少しだけ顔を上げると目があった。真っ赤な顔をした、先輩の顔。
「照れてるんですか?」
泣きそうなことも忘れて問うと、ふいっと顔を背けられた。
「え、本当に照れてるんですか? どうして? 褒められるのに、そんなに慣れてないんですか?」
高校生にもなって、褒められてここまで赤くなるとか、逆に貴重じゃないだろうかと思ってくる。
「ねぇ、せんぱ……」
言いかけたところで、口をふさがれる。色っぽい展開を考えた方、今回は手です。……微妙な表現の仕方ですみません。
「俺、お前の声が好きなんだけど」
褒められて、ここまで恥ずかしかったことはない。……顔が赤くなって、多分、今見ることができる顔じゃない気がする。
「声を褒められるのは、初めてです……」
先輩を見つけたとき、とっさに立っていたのに、足から力が抜けた。
「それ、告白と受け取っていいですか? って、もうそういうことにしますけどね!!」
からかい半分、それから……複雑な面持ちを乗せつつ聞いてきた。
「先輩の声で告白されて、断れる女の子がいると思いますか?」
それがきっと、あたしの答え。
「声だけじゃないですからね! 全部……す、好きですからね!!」
まだ言い募ろうとする口は、今度こそ唇でふさがれた。
多分好きになった人のことは、どこだって、愛しい。
その少し意地っ張りなところも、ちょっと冷たいところまで。
それが、恋の正体。
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