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いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
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 予定通り『勿忘草』更新です。

 終盤に近づいて、山場まっしぐらな感じがしてきました。書いてるときは「山場なんて……終わってしまえばいいのに」(でも、そうすると完結)と思いつつ……。
 今回は山場の一歩手前です。ええ、心の中のですが。私としては次回(すみません、たぶん、再来週十二月の九日に更新できるはずです)が山場なのですが、本当の山場はもう少し先のほうになるかと思います。
 

 書き終わると必ず、続編といいますか、その後が書きたいなぁ、と思うのですが、これはそんなこと思わなかったです。(笑)
 あまりに製作過程が厳しすぎて。『姫と騎士』(そういえば、これはまだ仮名……)はその後が書きたくて書きたくて仕方ないのに。
 
 『勿忘草』はわりかし、すっきりと終わるはずなので、決着はちゃんと付くはずです。
 いつきは和風が好きで好きでいけないので、着物とかが出てくるだけで興奮します。なので『勿忘草』も当初は楽しみながら書いたんですがね……。
 そのうち、あの暗い雰囲気にいつき自身が蝕まれていく感じが……。

 衣装といえばもちろん、西洋のドレスも好き。
 お話を書くときはまず、衣装を調べてから書き始めます。あとは食べ物。出てこないのに、食べ物を調べるのが大好きです。

 
 あとは絵が得意な方にお願いして、絵を書いてもらうと果然やる気が出ます。そういう意味ではKちゃんにもMちゃんにもお世話になりっぱなし。
 Kちゃんのすばらしき紫苑さんを是非出したいです。(笑)

 

+ + + + + + + + + +
 時の流れはひどく穏やかで優しいことがある。
 
 特に聖域での時の流れは、遅すぎるくらいゆったりとしていた。痛みも悲しみも全てが流されていき、何も残りそうにはなかった。

 そう、それは、人を傷付けた痛みさえ忘れ去る、優しく残酷な時の刻み。




 山から見る田は一面金色で、風に合せて揺れていた。その様子を嬉しそうに見つめ、弥絃はほうきを握り締める。
 昨年の悲惨な田が頭をよぎると同時に、自分を送り出した両親の顔が浮かんだ。
 母は、今どうしているだろうと。今下りて行っては、何故いけないのかと、いつも自分自身に問うていた。
 『今は、下りて行ってはならぬ』 その言葉が紫苑の口から出てきた時、心も体も崩れていってしまいそうだった。

 と、その時、後ろで突然木々がざわめいた。

 ――安心していたのだ。
 山(ここ)は彼自身だから。聖域でなくとも……山に悪意ある者は入ってこれないと、そう思っていたから。
 彼がそんなこと許そうはずがないと、そう信じて、疑うこともなかったから。
 音のしたほうへ弥絃は振り返る。瞬間、彼女の瞳は大きく見開かれた。

「あっ……」

 小さく、吐息のような声が漏れる。からん、とほうきが落ちて転がる音をどこか他人事のように聞いていた。
 弥絃の目の前にいるのは、一人の男だった。どこか見慣れた……、そう村に住んでいる男だった。
 弥絃は無意識に一歩下がる。がさり、と足元で草を踏みしめるがまるで実感がない。
 見たことがあるのに、男について何も思い出せない。それは男があまりにも以前と違いすぎるからだろうか。

 げっそりとこけた頬に、血走った目。死相かと思うような蒼白い肌。そして何より、自分を見つめる瞳に宿る狂気の色が恐ろしかった。
 弥絃を送り出した時よりなお細く、恐ろしくなったことを、弥絃は知らない。知らないけれど、何故か……ここにいてはいけないことだけは分かった。

 体全体が男を拒絶していた。びりびりと肌を刺すような感覚に、体中の器官が危機を発する。
 体に取り込む、その空気さえも凍っているようで肺が痛くなるだけだ。
 ゆっくりと男が弥絃に手を伸ばした。咄嗟に身をよじり、その手を逃れる。
 声が喉につまり出ず、ただ体を固くするしか出来なかった。手足が縛られたように、動かない。それが何より怖かった。
 一歩、男が前に足を進める。それを見た瞬間、弥絃の中で何かが切れる音がした。ざくりと草を踏む音、それが何かの合図のように感じられた。

「い、いやぁぁぁ!!」

 否定の声がはじけた。そして、頭の中が真っ白に染まっていく。弥絃は何も考えることなく、走り出した。




 恐ろしいものから逃げる。本能のまま、体が動くままに。行く当てもなく、聖域に戻ろうなんて考えもつかず、山の奥へ奥へと逃れる。
 男が追ってこれないようにと、狭い道を抜けていく。
 男の足音が聞こえてこないことに安心半分、怖さ半分。いつ捕まるのかと言う恐怖が心ににじむ。
 自分が今どこにいるのか分からない。その事実に気付き恐怖が増した。

「はっ……ぁ、はぁ……」

 途切れる息が体の限界を伝え始める。しかしそれを無視して走り続けた。息も体も、自分の体を包む空気さえ熱い気がして、思考が乱れる。その中で小さな気付きが生まれた。
 夢に見たあの時の景色が浮かび上がる。それと同時に恐怖の中で納得した。

 "ああ、あれは――。正夢だったのか"と。

 "殺されるのは他でもない自分なのだ"と。

 気付いた途端、足から力が抜け、転がっていた石につまずき顔から地面にのめった。
 痛みは感じず、土がひんやりと冷たいことぐらいしか分からなかった。朝露を含み少し濡れている土が掌につく。
 じっとりとした汗が頬を滑り、顎から滴る。どくりどくりと絶え間なく、大きく響く心音を感じ、大きく息を吐いた。
 この感覚は、ここへ生贄になった時と同じだった。この恐怖とも諦めともつかぬ思いは、あの時と同じ。
 村のために生贄になった時も仕方がないと諦めていた。もう死んでいく人たちを、自分は見たくないと思っているのだから。
 だから、もうどうしようもないのだと、納得しようとしていた。
 
 生きたいと思いつつ、それが無理だということを十分すぎるほどよく分かっていた。
 それでも生きたいと思ってしまった自分を心の中で責めていた。皆のためになれるのに、自分しかその役目はできないのに。
 どうして自分なのかと思ってしまう自分がいやでたまらなかった。だから、紫苑と初めて会った時、怖くて、恐ろしくて、それでもほっとした。
 
 殺されるのだと。自分は逃げなかった、と。
 
 やっと、役に立てる、と。

「でも……」
 
 でもいつの間に私。

「生きたいって、どうしても生きたいって思っちゃったの……か、なぁ」

 どうしても生きたいと。あの時よりずっと強く、ずっと必死に思った。死ぬのが嫌でたまらない。生きたくて、生きたくて、どうしても生きたくて。

『私もまた、置いていってしまう……。独りぼっちの、孤独な鬼を』

 ごめんなさい、と口から言葉がそっと零れた。涙と一緒に、零れて、流れて、消えてゆく。手から滑り落ちるのは、生の温度と希望。

「どうして、私を殺しにきたの?」

 もう隠してもいない殺気を感じ、弥絃は訊ねた。最後に知りたかった。自分の殺される理由(わけ)を。それくらい、許されると思った。

「今年は、豊作だ」

 男が口を開いた。がらがらと耳障りな、掠れた声が美しい空気を侵食する。

「あんたの生き血を捧げれば……もっと、豊かになる」

 ――だから私は殺されてしまうの?

 あの人は私が死んでも、村を豊かにすることなんてないのに。『俺には関係ない』 そう言われてしまえば、それまでなのに?

「あんたさえ死ねば、もう誰も死ななくて済む。誰も――悲しまなくて済む
んだ」

 その言葉で、やっと弥絃は思い出した。この人が生贄の発案者であり、そして、去年の暮れに妻と子どもを亡くしたのだ。

「豊かになれば、蓄えも出来るようになる。そうすれば、凶作の年も何とかなる……」

 うなされるように、喘ぐように男は呟いた。

「あんたさえ死ねば……」

 男が懐から小刀を取り出した。細工も何もない、ただの刀。しかしそれが禍々しく感じて、弥絃は座ったまま後ろへ下がる。
 一歩、男が前に進むだけ、弥絃は後ろへ下がった。
 死にたくないのに、仕方がないと思っていながら死にたくないのに、足が動かない。
 男が大きく振り上げる。弥絃は瞳を閉じた。





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