いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
そろそろ一週間に一回、『勿忘草』の更新が板についてきました。最近まったく筆が進まず、『これが噂のスランプか!!』と疑っています。
が、スランプになるほどまだ小説を書いていないので、ただ単に案が浮かばないだけな気がします。
うう、書きたいんだよ? 三姉妹もトリップもお話の構造はできてるのにーー。
トリップは……、うん、この山場を突破すれば進むと思います。というか、そう信じています。そう信じなきゃ、書き終えられない。
宿題が終わり次第手をつけたいです。
が、スランプになるほどまだ小説を書いていないので、ただ単に案が浮かばないだけな気がします。
うう、書きたいんだよ? 三姉妹もトリップもお話の構造はできてるのにーー。
トリップは……、うん、この山場を突破すれば進むと思います。というか、そう信じています。そう信じなきゃ、書き終えられない。
宿題が終わり次第手をつけたいです。
+ + + + + + + + + +
独り。
誰の気配も感じない。絶対の、孤独。昼間だから、社の中も外も明るいはずなのに、自分の周りがひどく暗いように感じた。
光が、差し込んでこない感じがした。まるで何かに遮られているような感じ。
紫苑がいないことなど、珍しいことでも何でもないのに。何故かとても不安で、怖くて、仕方がない。どうしてだろうと、問うこともなかった。
沈黙が耳に痛くて、その静けさに自分自身が呑み込まれそうになる。
部屋の片隅に身を寄せ、両腕で肩を抱いた。孤独が恐怖に変わり、暗闇に変わっていく。
「…………!!」
声を出して、『誰か』の名前を呼んだのに、呼んだはずなのに、出たのは吐息のみだった。呼びたかったのに、何も出ては来なかった。
その時だった――。その時を最後に弥絃の意識は定かでなくなった。
しゃん、しゃぁん、しゃん。
軽い、小さな声が弥絃に聞こえた。うっすらと、まるでまどろみの中で聞いているような淡く、儚い音だった。
"あ、この音、知ってる"
ぼんやりと、そんなことを考えている。今自分が立っているのかいないのかそれさえも分からない。全てがあやふやで、確かなものは何もない。全てが淡い中、一瞬だけ光ったのは
二つの紅だった。
弥絃がゆっくりと立ち上がり、戸へ向かう。どこか危なかしげな足取りで、しかし戸へ真っ直ぐに向かっていた。
その瞳に光は一切なく、虚ろなだけ。神秘的な印象を与える瞳が、ひどく濁って見えた。
かたり、と戸が弥絃の手によって開けられる。ぶわり、と風が鳴り、弥絃の髪が翻った。しかし弥絃はそれを直そうともせず、その風に目を細めただけ。そしてゆっくり、足を踏み出す。
しゃぁぁん、その音が聞こえ、弥絃は虚ろに笑った。笑顔と判断するのも難しいくらい、小さく、そっと、口角を上げた。
さくりと一人の女が木々の間に立っていた。背は曲がり、昔は黒かったであろう髪は真っ白だ。
しかしそれをきっちりと結い上げ、威厳のある佇まいをしていた。右手には神楽鈴を持っていて、女が動くたびにしゃん、と涼しげな音を響かせている。
老婆と呼ぶのを憚られるぐらい凛とした雰囲気を持ち、神々しかった。
「ここからは聖域だ。帰ってもらおう」
彼女一人しかいないはずなのに、深みのある男の声が聞こえた。低く、落ち着いたそれは、まるで木々の声のように女を取り囲んだ。
どこから聞こえてくるのかさえ分からない。しかし女は迷うことなく後ろへ振り返った。
その瞬間、女の背筋は伸び、白髪は艶やかな黒髪に変わる。紫苑の目に映ったのは紅唇が目を引く、美しい女だった。
真っ白な肌と真っ赤な紅が引かれた唇、その美しい顔を彩る黒髪……。
三色の色が綺麗に合わさり、それはまるで一幅の絵のように美しい。
「わらわが人、だからかの? 鬼よ」
風に黒髪を躍らせ、女は喉を鳴らして笑う。どこか狂気めいていて、紫苑は目を眇めた。
その様子をそっと見て、女は三回手首をしならせた。しゃん、しゃぁん、しゃん。
独特の拍子、神楽とはまた違った拍子だった。しかし紫苑がそう思うより早く、風が鎌鼬(かまいたち)と化し向かってくる。
「人だからではない。お前が悪意を持ってここへ入ろうとしているからだ」
その言葉が発せられたと同時に紫苑へ向かっていた鎌鼬が霧散した。まるで始めから何もなかったかのように、それは消えていた。
女はそれは当然のように見つめている。
「死にたくないなら今すぐ立ち去れ。さすれば今回だけは見逃してやる」
「山の主がそこまで守りたいものが、これかえ?」
女は嫣然と微笑んだ。まるで何かを見通しているかのような笑みだった。
人を惹きつけてやまない笑みを崩すことなく、女はもう一度鈴を振った。しゃぁぁん、と長く反響する。広く、広く、その呪力は散っていく。
そして白い、鈴を持っていない左手を上げ、木々の向こうへと手招きした。
ちょうど紫苑の後ろだった。紫苑は会われて振り返る。はっと息を呑んだのを聞き、女は笑みを深くした。
「この娘が、そなたの守りたかったものであろう? 鬼よ。さぁ、弥絃。こっちへおいで」
どこか勝ち誇ったようにそう言い、弥絃に呼びかけた。弥絃はふらふらと足を進めた。
紫苑に目をくれることなく、女だけを見つめていた。その口は小さく開閉していて、吐息のような声が漏れていた。
『櫻様――。迎えに来て、下さったのですね』
と。女……櫻は笑み、鈴を振って呆然としていた紫苑の動きを止めた。一瞬の隙を、櫻は決して見逃さず、清い音で鬼を縛った。
「そうだ。一緒に、村へ帰ろう」
櫻は弥絃の髪を撫で、呼びかけた。弥絃はこくりと頷く。櫻は顔を上げ、紫苑を見た後、弥絃へ向き直った。
「さて、弥絃や。その前にわらわの願いを聞いてくれるかえ?」
櫻は弥絃へ背中にかけていたものを差し出した。とても弥絃には打てないだろう、大きな弓だった。
赤と白の布が上下に一つずつ結んである。儀礼的なものではなく、実践でも使えそうなものだった。
「それであの鬼を、殺してほしいのだ。殺すことが出来たなら、そなたを元の生活へ戻してやろう。父と母の元へ返してやる」
"殺す"という言葉に弥絃は目を見開いた。一瞬目に光が戻る。『そんなこと……』と口が動いた。
その様子に櫻は苛ついたように目を細め、しゃらんと神楽鈴を鳴らす。
途端に弥絃の目から光は消え失せ、ふらふらと足元が定まらなくなる。
「そう言えば、そなたの母……。今は病を得て、床に伏せっておるそうだ。余程お前のことが心配らしい。いいのかえ?
病床の母の元へ行けず、母の死の報せをそなたはここで待つつもりか?」
答えなんて分かりきっている問いを、櫻は弥絃にした。弥絃は無言のまま首を振り、櫻の手から弓を受け取った。
「そう暴れるでない。鬼よ。縛りが緩んでしまうではないか」
しゃん、と神楽が鳴る度に紫苑の体が跳ねた。
「弥絃。そなたなら破魔の矢は必要なかろう? 鳴弦で十分だ」
そして櫻は神楽鈴で紫苑を示す。それと同時に、もう一度しゃん、と神楽鈴を振る。
立ったまま身動きの取れない紫苑は櫻を睨んだ。しかし櫻はそんな視線ものともしなかった。
「わらわではもう、鬼を殺せん。殺す力なんぞ、残っておらん。だが、そなたなら……」
我が村に時折生まれる、選ばれし巫女なら……、殺せるだろう?
その光は、生き物を慈しむためだけの力だけれど。使い方を示せば、鬼をも殺す強大な力となる。
本人は望まなくても、その瞳の輝きは、選ばれし者特有の汚れなき光。
その光は、生き物を包み、そして――焼き尽くすための光。
誰の気配も感じない。絶対の、孤独。昼間だから、社の中も外も明るいはずなのに、自分の周りがひどく暗いように感じた。
光が、差し込んでこない感じがした。まるで何かに遮られているような感じ。
紫苑がいないことなど、珍しいことでも何でもないのに。何故かとても不安で、怖くて、仕方がない。どうしてだろうと、問うこともなかった。
沈黙が耳に痛くて、その静けさに自分自身が呑み込まれそうになる。
部屋の片隅に身を寄せ、両腕で肩を抱いた。孤独が恐怖に変わり、暗闇に変わっていく。
「…………!!」
声を出して、『誰か』の名前を呼んだのに、呼んだはずなのに、出たのは吐息のみだった。呼びたかったのに、何も出ては来なかった。
その時だった――。その時を最後に弥絃の意識は定かでなくなった。
しゃん、しゃぁん、しゃん。
軽い、小さな声が弥絃に聞こえた。うっすらと、まるでまどろみの中で聞いているような淡く、儚い音だった。
"あ、この音、知ってる"
ぼんやりと、そんなことを考えている。今自分が立っているのかいないのかそれさえも分からない。全てがあやふやで、確かなものは何もない。全てが淡い中、一瞬だけ光ったのは
二つの紅だった。
弥絃がゆっくりと立ち上がり、戸へ向かう。どこか危なかしげな足取りで、しかし戸へ真っ直ぐに向かっていた。
その瞳に光は一切なく、虚ろなだけ。神秘的な印象を与える瞳が、ひどく濁って見えた。
かたり、と戸が弥絃の手によって開けられる。ぶわり、と風が鳴り、弥絃の髪が翻った。しかし弥絃はそれを直そうともせず、その風に目を細めただけ。そしてゆっくり、足を踏み出す。
しゃぁぁん、その音が聞こえ、弥絃は虚ろに笑った。笑顔と判断するのも難しいくらい、小さく、そっと、口角を上げた。
さくりと一人の女が木々の間に立っていた。背は曲がり、昔は黒かったであろう髪は真っ白だ。
しかしそれをきっちりと結い上げ、威厳のある佇まいをしていた。右手には神楽鈴を持っていて、女が動くたびにしゃん、と涼しげな音を響かせている。
老婆と呼ぶのを憚られるぐらい凛とした雰囲気を持ち、神々しかった。
「ここからは聖域だ。帰ってもらおう」
彼女一人しかいないはずなのに、深みのある男の声が聞こえた。低く、落ち着いたそれは、まるで木々の声のように女を取り囲んだ。
どこから聞こえてくるのかさえ分からない。しかし女は迷うことなく後ろへ振り返った。
その瞬間、女の背筋は伸び、白髪は艶やかな黒髪に変わる。紫苑の目に映ったのは紅唇が目を引く、美しい女だった。
真っ白な肌と真っ赤な紅が引かれた唇、その美しい顔を彩る黒髪……。
三色の色が綺麗に合わさり、それはまるで一幅の絵のように美しい。
「わらわが人、だからかの? 鬼よ」
風に黒髪を躍らせ、女は喉を鳴らして笑う。どこか狂気めいていて、紫苑は目を眇めた。
その様子をそっと見て、女は三回手首をしならせた。しゃん、しゃぁん、しゃん。
独特の拍子、神楽とはまた違った拍子だった。しかし紫苑がそう思うより早く、風が鎌鼬(かまいたち)と化し向かってくる。
「人だからではない。お前が悪意を持ってここへ入ろうとしているからだ」
その言葉が発せられたと同時に紫苑へ向かっていた鎌鼬が霧散した。まるで始めから何もなかったかのように、それは消えていた。
女はそれは当然のように見つめている。
「死にたくないなら今すぐ立ち去れ。さすれば今回だけは見逃してやる」
「山の主がそこまで守りたいものが、これかえ?」
女は嫣然と微笑んだ。まるで何かを見通しているかのような笑みだった。
人を惹きつけてやまない笑みを崩すことなく、女はもう一度鈴を振った。しゃぁぁん、と長く反響する。広く、広く、その呪力は散っていく。
そして白い、鈴を持っていない左手を上げ、木々の向こうへと手招きした。
ちょうど紫苑の後ろだった。紫苑は会われて振り返る。はっと息を呑んだのを聞き、女は笑みを深くした。
「この娘が、そなたの守りたかったものであろう? 鬼よ。さぁ、弥絃。こっちへおいで」
どこか勝ち誇ったようにそう言い、弥絃に呼びかけた。弥絃はふらふらと足を進めた。
紫苑に目をくれることなく、女だけを見つめていた。その口は小さく開閉していて、吐息のような声が漏れていた。
『櫻様――。迎えに来て、下さったのですね』
と。女……櫻は笑み、鈴を振って呆然としていた紫苑の動きを止めた。一瞬の隙を、櫻は決して見逃さず、清い音で鬼を縛った。
「そうだ。一緒に、村へ帰ろう」
櫻は弥絃の髪を撫で、呼びかけた。弥絃はこくりと頷く。櫻は顔を上げ、紫苑を見た後、弥絃へ向き直った。
「さて、弥絃や。その前にわらわの願いを聞いてくれるかえ?」
櫻は弥絃へ背中にかけていたものを差し出した。とても弥絃には打てないだろう、大きな弓だった。
赤と白の布が上下に一つずつ結んである。儀礼的なものではなく、実践でも使えそうなものだった。
「それであの鬼を、殺してほしいのだ。殺すことが出来たなら、そなたを元の生活へ戻してやろう。父と母の元へ返してやる」
"殺す"という言葉に弥絃は目を見開いた。一瞬目に光が戻る。『そんなこと……』と口が動いた。
その様子に櫻は苛ついたように目を細め、しゃらんと神楽鈴を鳴らす。
途端に弥絃の目から光は消え失せ、ふらふらと足元が定まらなくなる。
「そう言えば、そなたの母……。今は病を得て、床に伏せっておるそうだ。余程お前のことが心配らしい。いいのかえ?
病床の母の元へ行けず、母の死の報せをそなたはここで待つつもりか?」
答えなんて分かりきっている問いを、櫻は弥絃にした。弥絃は無言のまま首を振り、櫻の手から弓を受け取った。
「そう暴れるでない。鬼よ。縛りが緩んでしまうではないか」
しゃん、と神楽が鳴る度に紫苑の体が跳ねた。
「弥絃。そなたなら破魔の矢は必要なかろう? 鳴弦で十分だ」
そして櫻は神楽鈴で紫苑を示す。それと同時に、もう一度しゃん、と神楽鈴を振る。
立ったまま身動きの取れない紫苑は櫻を睨んだ。しかし櫻はそんな視線ものともしなかった。
「わらわではもう、鬼を殺せん。殺す力なんぞ、残っておらん。だが、そなたなら……」
我が村に時折生まれる、選ばれし巫女なら……、殺せるだろう?
その光は、生き物を慈しむためだけの力だけれど。使い方を示せば、鬼をも殺す強大な力となる。
本人は望まなくても、その瞳の輝きは、選ばれし者特有の汚れなき光。
その光は、生き物を包み、そして――焼き尽くすための光。
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