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いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
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 ということで、完結。
 

 友人から元ネタをもらって書いた小説でした~。『魔王サマ』を書きつつだったので、いい気分転換になったかな。
 おじさんばっかりでしたが。高校生くらいの男の子なんて、一人も出てきませんでした。
 あー、若い子が書きたい。(おばさん?)

+ + + + + + + + + +
『鐘の音』




 ゴーン、ゴーンともうお決まりになってしまった鐘が鳴る。ぱたぱたと忙しそうに走っていた女性が眉をひそめて、その時計を見た。
 その時計は女性の視線を気にすることなく、きっかり七階鐘を鳴らして止まった。
 女性はもう一度、鳴り終わった時計をにらみ、そしてここへ来た用事を思い出して慌てて襖を開けた。
 そこには文机に突っ伏したまま寝ている男が一人。彼女は苦笑いしたあと、その人物の傍へ行く。

「文さん。文さん、ごはんですよ」

「……ん。今、何時……??」

 小さく机の上で身じろぎし、しかし体を起こそうとはしない男――文彦ははっきりとしない口調で聞く。
 すると起こしに来た女性は小さく息を吐いて時を知らせた。
 先ほどより少しだけ、不機嫌になっている。

「七時です」

「もう、そんな時間だったんですか。起こしてくれたら、起きたのに」

 時を聞いて、文彦は不満そうな声を上げる。敬語交じりの言葉の端々に、不慣れさが目立っていた。

「あまりに気持ちよさそうに寝てましたから、妻との会話より寝るのが楽しいのだと思って放っておいてあげたんです。
原稿も出来上がっているようですし?」

 女性……椿が少しだけ頬を赤くしていった。
 化粧っけのない顔は未だに幼い上に、怒りによって染まった頬のせいでまるでまだ学生のようだった。
 しかしこの一年で随分と成人女性のそれへと近づいている。
 それを嬉しいと思いつつ、ほんの少しだけ残念に思っている文彦の気持ちなど知らないままで。

「怒らせてしまいましたか?」

「当たり前です。学校を卒業して、やっとここに住むことができるようになったのに、文さんは相手してくれないし、時計はあのままだし」

 きゅうっと両手の中で布がしわくちゃになる。文彦は何を考えているのか分からない顔で椿を見ていた。
 そしてすぐにこりと笑い、椿に向かって一度、二度、手招きした。
 椿は少しだけ戸惑ったあと、おとなしく文彦の傍へ再び近づく。その手を掴み、文彦は椿を引っ張った。
 あっけなく椿の体は倒れ、文彦の膝の上へ抱えあげられる。

「時計とは、あの鐘のことですか?」

「そうです。せっかくかえらなくてよくなったのに、まだ『もう帰れ』って言われている気がします」

 鐘が鳴らないようにしてください。
 そういう椿を見て、文彦は苦く笑ったあと、小さな口付けを落とした。未だなれないせいか、首をめぐらすのに疲れたせいか、椿はぱっと前を向く。

「あれにはあれの役割があるから、そのままにしておきますよ。そうですね、あと半年から一年くらいは」

 どうしてですか、と椿が言葉にする前に、文彦は続けた。

「巷で言う、幼妻であるあなたのために」

 後ろから回された腕が締まった。きゅっと少しだけ圧迫感がある。前より距離が近い気がして、椿はもう一度首をめぐらせた。
 優しそうな瞳とぶつかり、慌てて目をそらす。

「どういう意味か、分かりかねます」

 そう生真面目に返すと、文彦は眉を寄せる。眉間の間に珍しくしわが寄った。
 そうすると年相応に見えるので、椿は苦笑いする。年齢より幾分か若く見える顔が好きではないと、文彦が以前漏らしていたことを思い出したのだ。

「あの鐘が鳴るたびに思うんです」

 『あなたを大切にしなければ』と。

「欲に負けることなく、感情に流されることなく、ずっと大切にしなければ、と」

 本当のことを言えば、椿にもっと触れていたいと思う。
 心も体も全て欲しいと思う。
 しかしいつも文彦は考える。これが一方的なものである限り、傷つくのは椿なのだと。

「文さん?」

「あの鐘の音は、大切にしたい気持ちを思い出させてくれるものだから。……もうしばらくはあのままでいいんですよ。
今は未だ分からないでしょうけど、そのうちきっと椿さんにも分かります」

 分かっても笑わないと困るというのが本音ではあるが、文彦は口を閉じた。

「本当ですか?」

「本当ですよ。さぁ、夕食の支度ができたのでしょう。楽しみですね」

 もう一度だけ、小さく椿に口付けて、文彦は席を立つ。
 それと同時に椿も文彦の膝から下ろされた。それを少しだけ不満に思いつつ、椿は文彦に従う。

「今日のお味噌汁は自信作です」

「この前のは薄くて健康的な味でしたからね」

 むしろ水煮かと尋ねてしまいたいような味だったとは言えない。
 それさえも可愛い、と編集長に話すと、『ノロケなら担当にしろ』と怒られた。
 そして『いいねぇ、幼妻相手にしたい放題できるとか、男の浪漫だな』と羨ましがられた。我慢の連続ですよ、とはさすがの文彦も言えない。

「文さん、それは不味かったとはっきり言ってください。自覚はありますから。この前のは何と言うか、家と違って緊張したんです。
始めてこの家出、この家の住人として台所を使ったので」

 かぁ、と椿は顔を赤くして答える。その真意が分からず、文彦は首をひねった。

「緊張?」

「だって、だって結婚して初めてですよ?! 
旦那様にご飯を作るなんて、その、何と言うか、『新婚さん』みたいだなって思ったら、すごく緊張しちゃって」

 ぐらり、と文彦の理性が揺らぐ。
 顔を赤らめて、こちらを見ようとせず、目を泳がせつつも話し続ける姿がなんとも可愛らしい、と文彦は思う。誰に『嫁馬鹿』と言われても、肯定するしかない。

「一応、『みたい』ではないんですけど」

「そっ。そうですけど、私、文さんのお嫁さんなんだなって思ったら、浮かれちゃって」

 子どもみたいって笑わないでくださいね、と念を押す彼女を抱きかかえて、どこかへ……連れて行こうとして止める。
 ちらりと時計が見えたからだ。
 自分が欲しいのは彼女の笑顔なのだから、今は彼女を喜ばせることだけに専念しよう。

「当分、しまえませんね」

「え?」

「いえ、こちらの話です。お腹すいてしまって」

「今日はきっと、前みたいに上手くできているはずです」




 今日も明日も、明後日も、七時の鐘は鳴り響く。
 何かを告げるように、何かを隠すように、時を刻み、また日を刻む。『そのとき』が来るまで、鐘を鳴らす。

 密かな想いをそっと告げ、彼女が顔を赤くしつつ頷くまではずっと。

 今は未だ、きっと遠い遠い未来の話し。だけど永遠に遠いわけではなくて、いつか来る、ちょっとだけ先の話。そのときまでずっと。

「文さん」

「はいはい、何でしょう」

 それは幸せな未来のときまで。



~END~



                           あとがき、もとい言い訳
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