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いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
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 九日に更新したばかりなので、更新はどうしようかと思ったんですけど、やっぱり更新します。
 毎週土曜日は更新しようと思っているので。(ストックがあるうちは、の話ですが)
 
 九日のは先週、先々週分ということで、今日のが今週分です。山場、あたりですかね。ここらへんが。
 山場に入ると、大抵私は執筆速度が極端に遅くなります。もう、一ヶ月で一ページとか当たり前になってきます。
 とくにシリアスモノ。(私が書くと、ラブコメの山場でもシリアスだけど)

 なので、『勿忘草』の山場も随分苦労して書いた記憶が……。もう半分、自暴自棄になりながら書いた記憶が。
 山場は物語の見せ場だと思うので、ついつい色々余計なことを考えてしまうのが悪いところだとは思うんですが、中々直せずにいます。
 でもテンションは結構高めで書きます。ま、山場ですから。
 見所なので、楽しんで書くこともあります。一番面白いのは最後です。とくに恋愛モノの最後とかは面白いです。
 客観的に見ると、とっても恥ずかしい感じなのですが、そこはもう、高みの見物気取りで。
『こいつらなにしてんだろ』
 みたいな心境で書いてたりします。時々、会話の恥ずかしさに負けて、消してしまうこともありますが。

 あと絶対に言わなさそうな人に甘い台詞を言わせるのも好き。載せないけど、(載せれないけど)そういうものを書いては一人で楽しんでます。
 『勿忘草』では紫苑さんあたりがターゲットです。(笑)

 ではでは、続きからどーぞ。

+ + + + + + + + + +
 後ろからいきなり引き寄せられ、弥絃は瞑っていた目を開けた。目の前にいた男は木々の向こうへ転がり、痛みに体を丸めている。
 それが草ではないことに気が付き、現実だと思い知らされた。

「し……」

 紫苑、と呼ぼうとしたのに、それは真名ではないと思い出し、口を閉じた。その名を呼んでも、紫苑には意味がないのだと、悲しくなる。
 それでも、それでも紫苑と呼ぼうとした。それでもいいから、と。
 なのに、なのにその前に嗚咽が溢れた。温かいぬくもりは、優しい気配は、間違いなく紫苑のものなのに。
 名を呼ぶこともできず、ただ涙を流すだけだった。それだけしか、できなかった。
 自分の腹に回された手にそっと触れる。ひんやりと冷たい腕を掌で包み込む。そして震える声で伝えた。これだけは、伝えたかったから。

「桃様は、櫻様のお姉様は……、自殺ではありませんでした」

 それだけ伝えて、また一筋、涙を流した。刺された夢を見た時より、痛くて苦しかった。
 自分が刺された前の夢より体の痛みはないのに、今の方がずっとずっと痛かった。

「村の、男の人に刺されて、その男の人も、自分を刺して」

 そこまでが限界で、言葉を詰まらせた。すると腹に回る腕の力が強まった。ぎゅっと力を入れて抱きしめられ、より体が密着する。
 仄かなぬくもりを、より近くに感じられるようになる。それと同時に、回された左手とは違う手で弥絃は目を塞がれる。

「お前が、見る必要はない」

 静かな声に、確かに含まれる怒気。それは初めて感じる、殺意だった。

『お前は俺の領域を穢した。清いこの地の気を、お前は土足で踏み荒らしたのだ。その命で贖ってもらうぞ』

 ぴしりと耳元で風が鳴る。空気が鋭くなる。それだけで、こんなにもこの人の雰囲気は変わるものなのか。

「や……めて」

 殺さないで。

「お、ねがい」

 傷付けないで。その人も大切な村人だから。私が命を差し出してまで守ろうとした、村の人間の一人だから。
 その声は小さすぎて、弱すぎて、紫苑には届かない。届かぬまま、紫苑は続ける。

「殺すのは、お前だけではない」

 ――あの巫女にも贖ってもらう。二度目はないと、言ったはずだ。

 何も見えていないのに、暗闇の世界が白に染まった気がした。

「ほぅ。どうやって、わらわを殺してみるかえ?」

 心が、体が、震える。膝から崩れ落ちそうになった弥絃を支えつつ、紫苑は櫻を睨みつけた。

「出来損ないの巫女が、今更何故人を連れてくる」

「見通しておったか。何、わらわはその男が入りたがっておったから、入
れてやったまで」

 恐ろしい、低い声に櫻は笑って答えた。さくさくと、草を踏みしめる音が聞こえ、弥絃は体を硬くした。
 それでも立っていられるのは、しっかりと体を支えられているからだ。

「お前の姉は村の男に殺されたらしい……。その男の侵入を許したのは俺の過ちなのだから、責められても何も言えぬ」

 だが、何故この娘を殺そうとした? 

 しかし櫻はその言葉を聞いていなかった。

「姉様が、村の男に殺された……?」

 余裕のあった声が崩れ始める。かろうじで保っていた虚勢が外側から剥がれ落ちる。呆然と、呟くように、その声は響いた。

「嘘、であろう? そんなはず、ない!! あってはならぬ。そのようなこと……許されるはずがない」

「嘘ではありません」

 櫻の叫びに弥絃は返した。言い聞かせるような言葉を受け、櫻は首を何度も振った。
 その言葉を否定するように、決して受け入れないように。受け入れたが最後、彼女は存在意義さえ失ってしまうのだから。

「草という人が、櫻様のお姉様を小刀で……」

「黙れ……」

 言いかけた弥絃に、櫻は冷たく返した。その顔は目に入らないのに、雰囲気ががらりと変わったのに気が付いた。
 余裕で、楽しんでいるかのように見えていた櫻が怒気を露わにした。

「でも」

 それでも食い下がろうとする弥絃に櫻は怒鳴る。

「黙れと言うに、聞こえぬか!!」

 真っ白な顔をうっすらと赤く染め、髪を振り乱す姿が見える。見えた、気がした。

「草は、姉を好いておった。その草は、姉が殺された日に、同じ日に――死んだ」

 声が低く、低くなる。柔らか味さえあった声はなりを潜め、あるのはただひたすらに恨みを雪(そそ)ごうとする鋭い声だけだった。

「帰ってきたら、己の胸を小刀で突いておった。……わらわに桃の死を告げて、果てた。
姉の傍で死にたかったろうに、わらわに知らせるためだけに、帰ってきてくれた。そして……」

 そこで、止まった。一秒、二秒、沈黙が流れ、そしてやっと声が聞こえる。

 『わらわに謝った』と。

「姉を守れなかったことを、逝かせてしまったことを、謝ったのだと思っていた。
姉を追いかけていけない、そんなこと許されないわらわを自分も置いて逝ってしまうことを、謝ったのだと思っていた」

 "桃は死んだ" そうではなかった。"桃は殺された" 誰に、とは言わなかった。だから――鬼が殺したものだと思っていた。

「わらわは――、何を憎んでいたのだ……?」

 誰も、その問いに対する答えを持っていなかった。

「全てを……」

 全てを憎んでいた? 全てを恨んでいた? 全て虚構だった?

 ――――全てが無駄だった?―――― 
 
「愚かだと、嘲笑うかえ? わらわを」

 姉の復讐のことしか考えられず、死ねなかったわらわを。

「それは……」

 口を挟もうとして、しかし腹に回る手と目を塞ぐ手の平の力が強くなるのを感じ、口を閉じる。
 ひんやりとした温かさが布越しに染込む。静かに鳴る心音が思考を揺さぶる。

「そなたの慰めなどいらぬわ。自らの幕引きは、自らでするべきこと。存在意義のない妄念は消え行くよ」

 その声に、言葉に不穏な雰囲気を感じ、弥絃は身を乗り出した。ぎゅっと紫苑の手が強くなる。
 それだけに、不穏な雰囲気は強まっていく。頭のどこかで何かが警鐘を鳴らす。嫌な予感が体中を駆け巡る。

「は、はな、してください」

「ならん」

「お願い、放して!!」

 ふっと縛めが解かれた。足がしっかりと地面を踏みしめられず、重力にそって弥絃の体は地面に落ちる。
 開けた視界の中、閉ざされていた瞳に光はとてもまぶしく映る。その中に、櫻はいなかった。

 気配さえ、残り香さえ、何もなかった。

「櫻、様?」

 白い砂が、さらさらと宙を舞い、消えていった。一掬いも残すことなく、その一片さえ留まらず、全てが風に踊った。

「桃様は……、青い、綺麗な花の中で亡くなりました」

 へたり込んだまま、弥絃は呟いた。さらさらと消えてしまった砂の欠片を求め、視線を彷徨わせながら、それはもうどこにもないと自覚しながら、呆然としていた。

「その花の名を、今思い出しました」

 "勿忘草"でした。私を忘れないでという花言葉を持つ、綺麗な花。

「桃様は草さんに……」

 そう伝えたかったのでしょうか?

 答えようのない問いが空気に溶けた。




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