いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
ふっふっふ。本編あと数話です。三話から四話かな。でもオマケが長々と何話かあります。
本編では求められなかった甘さを詰め込んでみたりしてますので、どうぞよろしければ読んでやって下さい。
いますっごく眠いんですけど、緊張の糸が切れた?? なら、あとはインフルエンザにかかるだけですね。(笑)
あー、無性に読書がしたいです。なのに、最近読む本がないんですよね。好きな作家さんが少ないとも言う。
有川さんの新刊が楽しみです。
本編では求められなかった甘さを詰め込んでみたりしてますので、どうぞよろしければ読んでやって下さい。
いますっごく眠いんですけど、緊張の糸が切れた?? なら、あとはインフルエンザにかかるだけですね。(笑)
あー、無性に読書がしたいです。なのに、最近読む本がないんですよね。好きな作家さんが少ないとも言う。
有川さんの新刊が楽しみです。
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『手向けの花を言葉に代えて』
「エリス、泣くな」
部屋の中で、声になるのはその音だけ。
あとは小さな啜り泣きが聞こえるだけだ。それだけの音が静かな部屋に反響し続けた。壁に染み込むことなく、消えることなく響き続ける。
「エリス、頼むから」
いつもの厳しい声ではない、愛しむ声で呼びかける。
「どうせ死ぬなら」
泣き声の合間に、声が零れる。
子供が我侭を通そうとしているかのようだった。冷静で、滅多なことでは表情を表に出さない少女がぼろぼろと涙を流している。
「刺されたときに死ねばよかったのよ」
いつあなたが死ぬのかビクビクしないで済む。
明日だろうか、明後日だろうか――もしかしたら次の瞬間かもしれない、といつ来るかもしれない『そのとき』に恐れなくて済む。
いつ、そのときが来るのかと、まだ訪れていない瞬間を感じ安堵しつつも怯えなくてよい。
「毒が中和できなかった私は」
あなたがまだ生きているのに、まだこうして傍にいるのに。
こんなに、温かく私を抱きしめているのに、『助けられなかった』と自分自身を責めなきゃいけない。
生きているのに、あなたが死ぬことを確信していなきゃいけない。覚悟しなくちゃいけない。
「お前のせいではないだろう」
エリスの頬を包み、親指で涙を拭い去るが、エリスは泣き止まなかった。泣くことが贖罪になるとでも言うように、絶えず涙を流し続ける。
ベッドのシーツの白が淡く湿った。
「ジルに話すだけの時間を与えてくれたし、痛みもない。医者ではないお前にしては上等だ」
だから泣くな。最後に見る顔が、泣き顔だと逝きにくいだろう?
わしゃわしゃと、艶やかな長い髪を遠慮なくかき乱した。エリスは泣きながら、しかしその手をぎゅっと握り締める。
まだ暖かく、力強かった。これから死ぬなんて、考えたくなかった。
「術……っ。術、解いてよ」
エリスはダンテに掴みかかった。
弱々しい力で、それでも決してその手を離すことなく。絶対に離さないと、強く握り締める。それでもダンテは笑った。
「約束を忘れたのか?」
「あなただって、約束を破ったじゃない」
あと数百年は一緒にいてくれると言ったのに。
泣かさないと、言ったのに。愛してると、そう言ったのに。
泣き続けるエリスを抱きしめて、ダンテは少しだけ眉を顰めた。何かを後悔するような、そこにある心残りに気付いたような、そんな顔だった。
「素直に泣くようになったお前を、残して逝くのは不安だな」
小さな声で、ほんの少し零れたダンテの本音だった。
本当のことを言えば、置いて逝きたくなかった。いつまでも、一緒にいたかった。我儘だと、自分勝手だと知っていた。
「俺がいなくなったら、お前は誰の前で泣く?」
心配なら、逝かなければいいのに。心配なら、連れて逝けばいいのに。
「なぁ、エリス。前にも言ったが、俺は置いて逝かれることを恐れていた」
大切な人間がいなくなることが、何よりも怖くて、恐ろしかった。
「その『恐怖』を、お前に押し付けた俺を、お前はどうする?」
「恨むわ」
間髪いれず、言葉の余韻さえ断ち切るように、響かぬうちにエリスは言った。
ダンテの胸に抱かれても、瞳の光が消えてしまいそうだった。
「愛した分だけ、信じた分だけ、あなたを恨む」
それが最後の会話だった。
別れ間際の口付けはとても甘く、今迄で一番苦く感じた。ただ幸せだった口付けとも、欲望のままに交わした口付けとも違う。
別れの儀式のようだった。
せめて今だけは幸せでいようと。せめて今だけは全て忘れてしまおうと。ただただ、優しいだけの口付けをした。
『愛してる』
そんな言葉も、言えなかった。唯一の証明だと思っていた言葉さえ、彼に手向けることはできなかった。
『大好きよ』
何も、言えなかった。心にある気持ちの欠片さえ、その一片さえ手向けの言葉にはできなかった。
「いや、よ」
死ぬなんて、いや。
そういう、泣き言しか口から出てはこなかった。
23話
「エリス、泣くな」
部屋の中で、声になるのはその音だけ。
あとは小さな啜り泣きが聞こえるだけだ。それだけの音が静かな部屋に反響し続けた。壁に染み込むことなく、消えることなく響き続ける。
「エリス、頼むから」
いつもの厳しい声ではない、愛しむ声で呼びかける。
「どうせ死ぬなら」
泣き声の合間に、声が零れる。
子供が我侭を通そうとしているかのようだった。冷静で、滅多なことでは表情を表に出さない少女がぼろぼろと涙を流している。
「刺されたときに死ねばよかったのよ」
いつあなたが死ぬのかビクビクしないで済む。
明日だろうか、明後日だろうか――もしかしたら次の瞬間かもしれない、といつ来るかもしれない『そのとき』に恐れなくて済む。
いつ、そのときが来るのかと、まだ訪れていない瞬間を感じ安堵しつつも怯えなくてよい。
「毒が中和できなかった私は」
あなたがまだ生きているのに、まだこうして傍にいるのに。
こんなに、温かく私を抱きしめているのに、『助けられなかった』と自分自身を責めなきゃいけない。
生きているのに、あなたが死ぬことを確信していなきゃいけない。覚悟しなくちゃいけない。
「お前のせいではないだろう」
エリスの頬を包み、親指で涙を拭い去るが、エリスは泣き止まなかった。泣くことが贖罪になるとでも言うように、絶えず涙を流し続ける。
ベッドのシーツの白が淡く湿った。
「ジルに話すだけの時間を与えてくれたし、痛みもない。医者ではないお前にしては上等だ」
だから泣くな。最後に見る顔が、泣き顔だと逝きにくいだろう?
わしゃわしゃと、艶やかな長い髪を遠慮なくかき乱した。エリスは泣きながら、しかしその手をぎゅっと握り締める。
まだ暖かく、力強かった。これから死ぬなんて、考えたくなかった。
「術……っ。術、解いてよ」
エリスはダンテに掴みかかった。
弱々しい力で、それでも決してその手を離すことなく。絶対に離さないと、強く握り締める。それでもダンテは笑った。
「約束を忘れたのか?」
「あなただって、約束を破ったじゃない」
あと数百年は一緒にいてくれると言ったのに。
泣かさないと、言ったのに。愛してると、そう言ったのに。
泣き続けるエリスを抱きしめて、ダンテは少しだけ眉を顰めた。何かを後悔するような、そこにある心残りに気付いたような、そんな顔だった。
「素直に泣くようになったお前を、残して逝くのは不安だな」
小さな声で、ほんの少し零れたダンテの本音だった。
本当のことを言えば、置いて逝きたくなかった。いつまでも、一緒にいたかった。我儘だと、自分勝手だと知っていた。
「俺がいなくなったら、お前は誰の前で泣く?」
心配なら、逝かなければいいのに。心配なら、連れて逝けばいいのに。
「なぁ、エリス。前にも言ったが、俺は置いて逝かれることを恐れていた」
大切な人間がいなくなることが、何よりも怖くて、恐ろしかった。
「その『恐怖』を、お前に押し付けた俺を、お前はどうする?」
「恨むわ」
間髪いれず、言葉の余韻さえ断ち切るように、響かぬうちにエリスは言った。
ダンテの胸に抱かれても、瞳の光が消えてしまいそうだった。
「愛した分だけ、信じた分だけ、あなたを恨む」
それが最後の会話だった。
別れ間際の口付けはとても甘く、今迄で一番苦く感じた。ただ幸せだった口付けとも、欲望のままに交わした口付けとも違う。
別れの儀式のようだった。
せめて今だけは幸せでいようと。せめて今だけは全て忘れてしまおうと。ただただ、優しいだけの口付けをした。
『愛してる』
そんな言葉も、言えなかった。唯一の証明だと思っていた言葉さえ、彼に手向けることはできなかった。
『大好きよ』
何も、言えなかった。心にある気持ちの欠片さえ、その一片さえ手向けの言葉にはできなかった。
「いや、よ」
死ぬなんて、いや。
そういう、泣き言しか口から出てはこなかった。
23話
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