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いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
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 『姫と騎士』の第二弾です。結構長くなるような気がします。もっと短くするつもりで書いたんだけどな。
 進展もないのに、長々とだらだらと書いていきます。

 中々核心に迫れない出だしですね。

+ + + + + + + + + +
「光国独立へと導いた女性の名はレイティア。レイティア・ローゼ・カルスはこの国の女神として、全国民に崇められています……か」
 パタン、と音を立て少女は本を閉めた。面倒くさいというのが分かるようなぞんざいな扱い方。
 革表紙の重そうで厚い本は、いかにも難しそうな重々しい雰囲気を振りまいている。今年発行されたばかりの歴史書にもかかわらず、その本が黴臭く感じるのはその雰囲気の所為だろう。


 そんな本を傍らにある机に置き、少女はベッドに腰を落ち着けた。フラフラとベッドから出された足が、行儀悪くも優雅に揺れている。そして大きく息を吐いた。
「わたしにどうなって欲しいから、こんな本を読ませるのかしら? ……ただの王女のわたしに」
 皮肉気に首をかしげ、唇に笑みを刷く少女の明るいブロンドには軽いウェーブがかかっている。
 ふわりと柔らかそうなブロンドに縁取られている顔は端整で、小さな唇だけが幼さを残していた。
 澄み切った瞳は深い蒼だが光が当たると翠にも見える。丹精込めて作られた人形のように美しい――しかしその顔に浮かべる表情はひどく冷たい印象を与えた。
 そんな少女の思考は部屋に入ってきた男に止められた。
「失礼します。リシティア様」
 夜の闇よりもなお深い漆黒の髪と瞳、貴族然とした整った顔。その顔に表情と呼べる表情は無い。あるとすればそれは、無表情だ。
 少女の冷たい顔が一瞬和らいだ。しかし、すぐさま元の表所に戻っていく。そして、抑揚のない声で"リシティア"と呼ばれた少女は不快そうに眉を顰めた。
「何? アレク。女性の部屋に無断で入ってくるなんて失礼よ」
 高く凛としているものの、穏やかな声には王族に相応しい気品と威厳がある。しかしアレクは動じる事無く、ベッドへと近づいた。
「何回もノックしました。それより早く公務にお就き下さい」
 ベッドに座り、身動きをとろうとしない王女に向かい、見下ろすようにアレクは声を掛けた。


 とても王女に対するようには聞こえないような、冷たい声。その声に相応しい、鉄面皮。幼い頃に一緒に遊んだ無邪気な笑顔はどこにもなく、あるのは自分を王女としか見ていない無表情、無関心な青年騎士の顔だけ。 そう思い、大きく息を吐いた。
 最近全く『ティア』と親しく呼ばない、呼んでくれない。侍女や貴婦人たちがそっとため息をつくような顔の第一部隊(通称近衛隊)隊長はどこまでも仕事に忠実だ。
 だから時々、いや結構な割合で大変な目に遭う。公爵家の次男として、普通に生活していれば絶対に遭わないであろう目に……。


 本来騎士の身分は決して高くない。いや、この国では、騎士というのは爵位ではないから貴族でもないのだ。
 公爵家という、貴族の中で最も高い地位の子息はまず騎士にはならないだろう。親も決してそれを許しはしない。
 しかしアレクは公爵家の家に生まれながら、自分の意思で騎士見習いとなり、他の人間と変わらないように厳しい鍛錬に耐え、騎士隊の中でもエリートの集まる近衛騎士隊の隊長に若くして就任した。
 ようするに、貴族の血を持ちながら、貴族の地位にはいないのだ。いや、自ら貴族の地位を捨てたと言ってもいい。


 その考えがティアには今一分からない。何のためにアレクがわざわざ騎士になったのか。ましてや近衛中の近衛と言われる、近衛隊の中でも最も優秀なものが集まる『蒼の騎士団』の団長でもある彼が何故王ではなく、自分に仕えているのか。
 しかしティアにはそれを聞く勇気はなく、いつも口に出そうと思っては失敗した。いざ口に出そうと思うと、
「あの冷静な声で、『仕方ないからです』とか無表情で言われたらどうしよう」
 という考えが浮かんでくるのだ。
 そんなことをアレクから聞いたらきっと立ち直れないだろう。ティアはそう確信している。そんな想いを振り切るように、ティアはアレクから目をそらした。
「分かったわ。印を押して、大臣たちからの報告書に目を通す。これでいい?」
 諦めたような、どこか投げやりな声でそう言うと、ティアはひらひらと手を振り退室を促した。アレクは黙って騎士の礼をして、静かに部屋から出る。
 アレクが完全に扉を閉める音を背中で聞き、ティアは自分の背丈よりも大きい鏡台の椅子に腰をかけた。豪奢とはいえないものの繊細な彫りを施した鏡台に自分自身を移し、ティアは眉を下げる。
 そして豊かなブロンドを掻き揚げた。掻き揚げ切れなかった数本の髪がはらりと手から零れる。
 髪を上げると、幼かった顔が一気に大人っぽく、色気を放つ。首の左横に現れたのは王家の紋章だ。
「こんな紋章……」
 鏡に映る、銀色の線で彩られる紋章。指先で美しい幻獣ユニコーンがモチーフの紋章を緩やかに撫でた後、ティアは苛立ちをぶつけるようにきつく爪を立てる。白い首筋に紅い痕が四本走った。痛々しい紅い痕が白い首筋に蚯蚓腫れとして浮き上がる。
 王家の人間全員に例外なく彫られるユニコーンは彼女らを時には守り、時には縛る。死ぬまで王家から逃げられないように、裏切れないように。 ティアはきつく唇を噛んだ後、まるで自分に言い聞かせるように口を開いた。
「わたしは、いつだって王家の人間よ。こんな証が無くてもわたしは」
 光国 リッシスク現王、ユリアス王の故王妃の一人娘だ……。第一王女、リシティア・オーティス・ルラ・リッシスクの立場はいつまでも変わらない。変わることなんて許されない。それが王族の唯一無二の役割である。
 五年前のあの日決めたのだ。血溜りの中に座り、為す術もなく恐怖に震えた時。ドレスが紅く染まっていくのをただ見ているしかなかった時。心の奥底に刻んだ。
 護りたいと思う人を、大切な人を、失いたくない人を……。
 この地位、権力、人脈……。何を使ってでも護ると。
 どんなに汚い手だと、卑怯だと罵られても……。
 護ると、護ってみせると決めた。
 これだけは譲れない。小さくティアは呟いた。




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