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いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
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 短編第三弾。……近頃短編しか更新してないですね。そしてそれも一週間に一回のペース。
 いや、連載モノをしようと思えばできなくもないものが一本あるには、あるんですけど、某友人から『重いよ……』と言われたので自重。
 
 それにトリップモノを、ね。書かなければいけないし。正直言って、他のもの書いてる場合じゃないだろ! って感じなんですけど。
 学校ではトリップモノしか手をつけてないので(授業中)、家では他のものも書きたいという。
 恋愛色がないと書きにくいんだよーー、とダメっぷりを発揮しています。かっこいい男の子がいるのに、恋愛色がないというのが一番辛い。


 短編は長女です。あまり登場しない、長女です。……一番困難の少ない恋をしていると思わなくもない。
 一月一日生まれなので朔華という安易な考えのもと生まれた子です。
 興味のある方どーぞ。

+ + + + + + + + + +
『忘れてほしい過去もある』(お題はFortune Fateさまからお借りしました)





 過去は消せない。
 過去は変えれない。
 過去は忘れられない。
 過去はどうにもならない。
 過去を知ってほしくない。
 過去を隠してほしくない。

 過去は……。



 ピンポーン、と明るいチャイムがなった。そして家の中から『ハーイ』と慌てた声が聞こえてくる。

「……池平」

 しかし扉を開ける少女の声はどこまでも冷ややかさを映し出していて、その客の来訪が嫌なことを知らしめる。
 少女の顔を見て、来客、少年は眉を寄せた。

「平田、そんな嫌そうな顔しないでくれる? さすがに俺も傷つくんだけど」

「へー、そうなんだ。初めて知った」

 対応する声は棒読みで、『入るんなら入れば?』とぶっきらぼうに言った。

「いいよ。お見舞いの花、持ってきただけだし」

 ここで帰る、と言うと少女は――次女、春華(はるか)は眉を引き上げた。

「お茶ぐらい出す。それでお姉ちゃんに顔でも見せてあげて。今日、『プティ』に行けなかったこと悔しがってたから」

 『プティ』というのは来客である少年、池平智(いけひらとも)の実家である花屋の愛称だ。
 正式名称は『Le petit fleuriste』(ル プティ フルリスト)。
 フランス語で『小さな花屋』の意味だ。

 毎月一回、この家の長女である朔華(もとか)は『プティ』に顔を出す。季節折々の花を買い、家に飾るのが一ヶ月で一回の楽しみなのだ。
 今日がその日だったのだが、あいにく朔華が風邪を引いたため、いけなくなった

「え、部屋に入っていいの?」

「わたしの監視のもと、は許す」

 いまだに二人の交際を認めていないらしい春華は、小さく智を睨んだあと、リビングへ案内した。

「藍華は学校」
 
 誰もいないリビングでそう説明して、キッチンへと行く。

「藤本は?」

 春華の恋人である瑲也の名前を出すと、『いつもここにいるわけじゃない!』と春華は声を荒げた。

「バイト?」

「そう」

 そう言うと、春華はカップに入ったお茶をお盆に載せて持ってくる。

「お姉ちゃんより、お茶淹れるのは下手だから」

 そう前置きして、智の前にカップを置いた。

「藍華ちゃん、学校って、大学?」

「まさか。休みなのに。高校のほうだよ。カレシさんに会いに」

 本当に先生落としちゃうって、びっくりよね、我が妹ながら。
 呟きながら、春華はカップを持った。

「あー、理科の……」

「菊池先生」

 誰だっけ? と名前が出てこない智に、春華はすかさず言葉を出した。

「そうそう。いやー、意外だよね。藍華ちゃん、結構やり手?」

「バカ言わないでちょうだい。あんたと一緒にしないで」

 ぴしゃりと言って、春華はカップを置いた。

「それで、お姉ちゃんの顔見に行くの、行かないの?」

「行く!」

 あー、ここにも一つバカップルが。
 春華が言うと、『お前たちもだろ』とすぐに智から突っ込まれた。





 二階に上がり、真っ先に見えた部屋には『春華』と書かれている。その隣には『藍華』の文字が。

「あれ?」

 そう言うと、春華は『お姉ちゃんの部屋は一番広くて、一番遠いの』と笑う。
 『わたしも、あっちの部屋がよかった』と言いながら、廊下の突き当たりの部屋を指差した。

「ここ」

 扉にはきちんと『朔華』と書かれていた。その扉をコンコン、とノックする。すると中から返事が返ってきた。

「池平、手、出したら、本当に殴るから」

「一緒に入らないわけ?」

 そう聞くと、『いくらなんでもそこまで邪魔はしない』と春華は柳眉を上げた。

「あ、あと一つだけ忠告。あんた、今日、多分、自分の過去をうらむよ?」

 どういう意味か、よく分からなかった。

「どうしてお姉ちゃんが最初で、最後の彼女じゃないんだろうって後悔する」

 違うか、と春華は他人事のように呟いた。

「今まで節操なく女で遊んだくせに、今頃本気で恋をしたことを……後悔する」

 過去を忘れてしまいたい、って思う。

 ざまぁみろ。春華は小さく笑った。

「ねぇ、それ、本気で堪(こた)えるんだけど」

「へぇ。だから?」

 いつもは見せない、少し意地の悪い顔を覗かせて、春華は言った。

「あんたは、お姉ちゃんを傷つける?」

 答えを聞かずに、春華は廊下を滑り階段を降りていった。



「朔華さん?」

「え、智くん!?」

 ちょっと待って! そういう朔華だったが、『いいから』という智の言葉に引き下がるしかなくなった。
 ぐいっと布団を引っ張り上げ、口元まで隠す。

「来るって言ってくれたら、着替えてたのに」

「そう言うと思ったから、何もしないで来たの」

 無理するでしょ、朔華さんの場合。
 智が笑うと、朔華はぐるりと向きを変えて、壁のほうへ顔を向けた。

「あ、そうだ。リビングに花、置いてあるから」

 ここ、湿度も高いし、温度も高い。花、傷んじゃうかもしれないから。

「平田……春華ちゃんに渡した」

 そっか、朔華は静かに頷いた。

「黙ってきたこと、怒ってるの?」

 壁のほうを向いたまま振り返らない朔華。それを見て智は心配になった。

「違うの……」

 首を振って、朔華は答える。

「今から言うこと、あとで忘れてね? ほら、病人の戯言ってことで」

 くるり、と朔華が寝返りを打った。

「え、何で」

「いいから。そうしないと、お話せずに私、眠る」

 いやに我がままだった。いつもだったら、柔らかく微笑むのに、今日はいつもより瞳の光が鋭かった。

「約束」

 智が呟くと、朔華はそっと眉を寄せた。まるで、約束せず、このまま帰ってほしかったとでも言うような顔だった。
 自分で、言ったのに、それを後悔するような顔だった。

「……智くん、私、ちょっと考えたんだけどね」

 智くんは、前の彼女さんにも、こうやってお見舞いしたの?

「へ?」

 お花もって、優しい笑顔で、『大丈夫?』って聞くの?

「最低、だね、私。いますっごい嫌なこと言った」

 右腕が目を塞ぐように顔を覆った。細い腕の白さが目立つ。

「嫉妬、した。前のカノジョさんに。その前の人にも」

 うまく隠せないや……。小さく、朔華が笑う。どうして隠せないんだろう、と震える声で言う。

「一人で、色々考えて……どうして、智くんが始めて付き合う人は、私じゃないんだろうって、思っちゃった」

 考えても仕方ないのに、考えた。
 はるちゃんと、瑲くんみたいに、最初で、最後の恋がしたかった。二人にとって。私も、智くんしか知らないで、智くんも、私しか知らない。
 そんな関係がよかった。

「朔華さん」

「この部屋から出たら、忘れて」

 何も言わせずに、朔華は言った。ごめんね、こんなこと言って。智くんを傷つけたいわけじゃなかったのに、ごめんね。
 何度も、何度も、朔華は謝った。

「智くんを、信じていないわけじゃないの。現に、私がいつ電話しても出てくれて、いついっても笑ってくれて、『好きだよ』って言ってくれる」

 とっても、嬉しいんだけどね。
 嬉しいなって思うたびに、こんな思いを、他の人もしたのかなって思う。

「今は、違うって分かってる。だけどね……」

 過去は、どうだったか私には分からない。
 智くんの過去を、私は知らない。

「多分コレは、智くんといる限り続くんだろうね」

 でも、こんなこと考えるのは本当に時々なんだよ。
 何もしなくて、ただベッドで寝てるときとか、ぼーっと花を見ているときとかに急に、そんなことを考えるの。

「ごめん」

 智の言葉を聞き、朔華は驚いたように目を見開いた。

「どうして、謝るの? 我がまま言ってるのは、私だよ? 智くんはぜんぜん、悪くないよ」

 智くんを、傷つけてごめんね。こんな私で、ごめんなさい。
 朔華の声を聞くたびに、智は鋭い痛みを堪えるように目を瞑った。

「過去は、消せないから……俺が何を言っても、朔華さんは納得しないよね。過去は否定しないよ。確かに俺は、色んな女性と付き合ってたし」

 だけどね、これだけは知っておいて。

「俺が、恋をしたのは朔華さんだけだよ」

 初恋も、最後の恋も朔華さんへの恋だよ。

「それを聞いて、朔華は少しだけ複雑そうに笑った。

「知ってるよ」

 知ってるけど、この痛みは簡単に引かないんだよ。
 恋すればするほど、この痛みは酷くなって泣きたくなるんだよ。

「ごめんね」

 この痛みは、いったい何の贖罪にすればいいんだろう。

 二人の痛みは、少なくなることはあるけれど、消えることはない。

 朔華が痛みを感じれば、智が傷つく。
 智が痛みを感じれば、朔華が傷つく。

 結局、二人とも傷つくのだ。
 そしてその度に、二人は相手に知られないように涙をこぼす。

「いっそ、忘れられればいいのにね」

 そうはできないと知りつつ、それを望んだ。



「平田……、俺もう帰るから」

「後悔、してる顔してる」

 春華が言った。単純に、同情している顔だった。先ほど見た、意地の悪い顔ではなくただ心配している顔だった。

「後悔、してる。消えない過去を、自分を恨んでる」

「そう……」

 春華はそれだけ言うと、階段の上を見上げた。きっと彼女は傷ついている姉を心配しているのだと智は思った。

「情けない顔してる」

 しゃんとした顔しなさいよ。

「あんたの過去がどうだろうと、わたしには関係ないから言わせてもらう。過去を悔やんだって、お姉ちゃんの傷は癒えない。あんたの後悔も消えることなんてない」

 なら、お姉ちゃんだけをずっと見てなさいよ。

「くだらないこと考える前に、お姉ちゃんだけを見て。傷つけたと思うんなら、少しでも笑って」

 あんたに、お姉ちゃんの前で傷ついた顔をする資格はない。
 お姉ちゃんの前で、泣く資格もない。

「馬鹿みたいに笑って、お姉ちゃんに恋して、後悔する暇もないくらいお姉ちゃんのこと考えてなさいよ」

 そんなことしか、あんたにはできないでしょう?

「ねぇ、平田……。さすがに、痛いよ。その言葉」

「お姉ちゃんはあんたを傷つけない。じゃあ、お姉ちゃんが傷ついた分だけ、わたしがあんたを傷つけようと思って」

 だって、一生あの痛みは付きまとうから。
 何年たったって、ふとした拍子に持ち上がる痛みだから。

「お前らだって、そうだろう?」

 一瞬だけ、春華が目を見開いて、そして笑った。

「いいの。わたしは、そのふとした拍子に持ち上がる痛みでさえ……瑲を思う気持ちだと思うから」

 その感情さえ、恋だと思うから。

「この傷も、瑲の後悔の念も、全部全部、わたしへの想いだから」

 足にある傷も、時々その傷を見たときに見る、瑲の表情も。

「全部、大切なの」

 わたしにとっては。

「羨ましいよ」

「あんたとは、恋してる年数が違いますから」

「恋だって感情に気づいたの、俺らが付き合い始めたあとじゃない?」

「まぁね」

 そう言って、春華は優しく笑った。



 過去は消えない、消せない。
 忘れることもできない。なかったことにできない。

 だけど、その痛みさえ、恋だと思うなら……。
 その痛みは、きっと少しだけ甘くなるでしょう?
 その痛みさえ、一緒に分かち合いたいと思うでしょう?

 後悔と言う感情、それもきっと、恋。





――――――――――――――――――――――――――――


 思いのほか、ダークなものに。カップルの会話より、友人同士の会話のほうが長いのも問題かと思いますけど。
 智くん、そんなに女遊びしてたんですか? と問うてしまったよ。
 
 お気づきの方、すみません。春華ちゃんの足の傷は何ぞや、と思った方がいらっしゃったら申し訳ないです。
 『あと一歩のとなりどうし』で瑲也くんが引っ越したことと関係がありますが……まぁ、いずれ書けたらいいかな。
 ご想像にお任せします。多分、三姉妹の本編(付き合うまで)で解決されるでしょう。いつUPするか分かりませんが。(無責任)

 短編の時間軸ですが、今のところ1→2→3です。
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でも本人は精一杯急いでいるつもりだったりします。
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