いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
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「北の方角で王に反旗を翻すもの現る。応援を求む」
この報告がティアに入ったのはそれから一日経った時のこと。
独立から四〇〇年以上経とうとする今、この国にも『反乱』は起こる。少しずつ貴族は力を持ち始め、市民は不満を持つ。
「すぐに兵を送り鎮圧してください」
ティアの言葉に警備隊の隊長は「承知しました」と短く答える。まだ年若い、警備隊長になって一年しか経っていない隊長は確か数少ない上流騎士であり、アレクの同期だった。
いつも飄々としていて、騎士隊の中でも一番の変人だ。扱いにくい人材だが優秀で全てを任せても大丈夫だろうと判断した。
その警備隊長の人のよさそうな笑顔はなりを潜め、厳しい表情を作っていた。そして足早に部屋から出て行く。それと入れ違いにアレクが入ってきた。
「リシティア様、お話……」
「今日は何もないわ。わたし、忙しいの」
話しかけてくるアレクに冷たく言い放しながら、ティアは書類にペンを走らせ、捺印を押していく。
王は未だ病床についている。意識はあるものの政治を執り行うような力があるはずもない。その政務が全てティアにのしかかる。
「隣国のにらみ合っている今、反乱に騎士隊の中でも戦闘力重視の『紅の騎士団』を割くわけにはいかないの。だから王都(ライラ)の警備を主としている警備隊を出したんだけど……」
寒国(ロッラール)から独立した光国(リッシスク)を未だに狙う国は多く、特に寒国とは長年不仲だ。そんなときに、戦の先鋭である『紅の騎士団』を送ればたちまち寒国が攻めてくるだろう。
「だからアレク、悪いけれど話ならまた明日に……」
「軍や隊を割く余裕はないのでわたしが行こうかと……」
その言葉を聞いてティアは目を見開いたまま、しばらく固まった後小さく呟いた。
「どう言う……ことですか?」
いつのまにか口調が変わっていた。穏やかそうな声で、実はひどく冷たい声にアレクは表情を変えずに答える。
「はい。青の騎士団を残し、白の騎士団も連れて行こうかと思います。指揮は私が。もちろんリシティア様には別の護衛を呼びますし、警備隊の一軍を連れて行くので早く鎮圧できます。それに……」
白の騎士団は少々騎士隊の中でも浮いている騎士団だ。
中流貴族の息子はある一定の税を納めない限り、一年間だけ騎士隊に入らなければならない。しかし大抵の貴族は跡継ぎを万が一失ってはいけないと思い、税を支払うので騎士隊に入る人数は少ない。
それに一年間だけなのでほぼ役に立たない。そういう落ち零れの人間を集めた騎士団が『白の騎士団』だ。この白の騎士団はめったにこない国賓を迎える、仕事のない部署だ。
しかも、いざ国賓が来たとなると、警備隊や他の隊が任せられないと、仕事を持っていくので仕事はないに等しい。
反対に警備隊とは王都であるライラの公序良俗を守る、治安維持を目的とした隊だ。罪を犯した者の処罰もここの管轄であり、近衛隊の次に強い発言権を持つ。
一軍、二軍に分かれており、一軍は『蒼の騎士団』『紅の騎士団』に続く、優秀な騎士の集まりであり、『黒の騎士団』とも呼ばれる。
しかしティアにはそんなことは問題じゃなかった。
「どうして近衛騎士が反乱を鎮圧するため王宮を離れるのですか?」
感情を押さえ付けようとすればするほど声は冷たくなって……。冷静になろうとすればするほど口調は余所余所しくなった。
「あなたたちは王をお守りすることが誇りのはず……。なら何故近衛隊の隊長がここを離れる必要があるのです? 今の発言、職務放棄と取られてもおかしくないのですよ」
厳しく問いただすような口調になり、ティアは口を噤んだ。そして一度息を吸い込むと無理矢理笑顔を張り付けた。
「あなたたちが行く必要はありません、アレク。いつも通りの仕事をして下さい。兵については大臣たちと決めましょう」
諭すような口調と声。ティアはそれだけ言うと部屋を出て行こうとした。
「リシティア様、しかし」
「人手が足りないことは分かっています。分かっているから大丈夫です」
扉に手をかけ、振り向きもせずティアは答えた。呼び止めたアレクの表情をティアは知らない。ドアノブを握っているティアの表情をアレクは知らない。分からないから部屋から出るのだし、それを引き止めない。
だから、どちらの所為でもない。これから後悔しても、どちらが悪いわけでもない。
「仕方のないことです。リシティア姫。お諦めください」
「そんな……」
大臣たちは力なく首を振る。そしてそれ以上の話し合いは無駄だというように次々と席を立っていった。しかしそれはティアに反撃の糸口をつかめさせないためだった。
「我が国は戦力が少ないのです。レイティア様がそうお決めになったからです。あの方は争いを嫌ったと、その頃の書籍に書いています。ですから、兵は出せません。これ以上出せば寒国は必ずやってくるでしょう。ですから今回はアレク殿たちに任せましょう」
大臣の声が今も耳の奥で響いている。"何故?"と問うその声も大臣たちには届かない。
『王女』というその立場が、『次期女王』というその立場が、泣き叫ぶことも自分の意見を押し押すことも許さなかった。
ただ議会の間にティア一人がいた。
「守れないのは……どうして?」
こんなにも、こんなにも悔しいのは大切だから。無くしたくないから。
この報告がティアに入ったのはそれから一日経った時のこと。
独立から四〇〇年以上経とうとする今、この国にも『反乱』は起こる。少しずつ貴族は力を持ち始め、市民は不満を持つ。
「すぐに兵を送り鎮圧してください」
ティアの言葉に警備隊の隊長は「承知しました」と短く答える。まだ年若い、警備隊長になって一年しか経っていない隊長は確か数少ない上流騎士であり、アレクの同期だった。
いつも飄々としていて、騎士隊の中でも一番の変人だ。扱いにくい人材だが優秀で全てを任せても大丈夫だろうと判断した。
その警備隊長の人のよさそうな笑顔はなりを潜め、厳しい表情を作っていた。そして足早に部屋から出て行く。それと入れ違いにアレクが入ってきた。
「リシティア様、お話……」
「今日は何もないわ。わたし、忙しいの」
話しかけてくるアレクに冷たく言い放しながら、ティアは書類にペンを走らせ、捺印を押していく。
王は未だ病床についている。意識はあるものの政治を執り行うような力があるはずもない。その政務が全てティアにのしかかる。
「隣国のにらみ合っている今、反乱に騎士隊の中でも戦闘力重視の『紅の騎士団』を割くわけにはいかないの。だから王都(ライラ)の警備を主としている警備隊を出したんだけど……」
寒国(ロッラール)から独立した光国(リッシスク)を未だに狙う国は多く、特に寒国とは長年不仲だ。そんなときに、戦の先鋭である『紅の騎士団』を送ればたちまち寒国が攻めてくるだろう。
「だからアレク、悪いけれど話ならまた明日に……」
「軍や隊を割く余裕はないのでわたしが行こうかと……」
その言葉を聞いてティアは目を見開いたまま、しばらく固まった後小さく呟いた。
「どう言う……ことですか?」
いつのまにか口調が変わっていた。穏やかそうな声で、実はひどく冷たい声にアレクは表情を変えずに答える。
「はい。青の騎士団を残し、白の騎士団も連れて行こうかと思います。指揮は私が。もちろんリシティア様には別の護衛を呼びますし、警備隊の一軍を連れて行くので早く鎮圧できます。それに……」
白の騎士団は少々騎士隊の中でも浮いている騎士団だ。
中流貴族の息子はある一定の税を納めない限り、一年間だけ騎士隊に入らなければならない。しかし大抵の貴族は跡継ぎを万が一失ってはいけないと思い、税を支払うので騎士隊に入る人数は少ない。
それに一年間だけなのでほぼ役に立たない。そういう落ち零れの人間を集めた騎士団が『白の騎士団』だ。この白の騎士団はめったにこない国賓を迎える、仕事のない部署だ。
しかも、いざ国賓が来たとなると、警備隊や他の隊が任せられないと、仕事を持っていくので仕事はないに等しい。
反対に警備隊とは王都であるライラの公序良俗を守る、治安維持を目的とした隊だ。罪を犯した者の処罰もここの管轄であり、近衛隊の次に強い発言権を持つ。
一軍、二軍に分かれており、一軍は『蒼の騎士団』『紅の騎士団』に続く、優秀な騎士の集まりであり、『黒の騎士団』とも呼ばれる。
しかしティアにはそんなことは問題じゃなかった。
「どうして近衛騎士が反乱を鎮圧するため王宮を離れるのですか?」
感情を押さえ付けようとすればするほど声は冷たくなって……。冷静になろうとすればするほど口調は余所余所しくなった。
「あなたたちは王をお守りすることが誇りのはず……。なら何故近衛隊の隊長がここを離れる必要があるのです? 今の発言、職務放棄と取られてもおかしくないのですよ」
厳しく問いただすような口調になり、ティアは口を噤んだ。そして一度息を吸い込むと無理矢理笑顔を張り付けた。
「あなたたちが行く必要はありません、アレク。いつも通りの仕事をして下さい。兵については大臣たちと決めましょう」
諭すような口調と声。ティアはそれだけ言うと部屋を出て行こうとした。
「リシティア様、しかし」
「人手が足りないことは分かっています。分かっているから大丈夫です」
扉に手をかけ、振り向きもせずティアは答えた。呼び止めたアレクの表情をティアは知らない。ドアノブを握っているティアの表情をアレクは知らない。分からないから部屋から出るのだし、それを引き止めない。
だから、どちらの所為でもない。これから後悔しても、どちらが悪いわけでもない。
「仕方のないことです。リシティア姫。お諦めください」
「そんな……」
大臣たちは力なく首を振る。そしてそれ以上の話し合いは無駄だというように次々と席を立っていった。しかしそれはティアに反撃の糸口をつかめさせないためだった。
「我が国は戦力が少ないのです。レイティア様がそうお決めになったからです。あの方は争いを嫌ったと、その頃の書籍に書いています。ですから、兵は出せません。これ以上出せば寒国は必ずやってくるでしょう。ですから今回はアレク殿たちに任せましょう」
大臣の声が今も耳の奥で響いている。"何故?"と問うその声も大臣たちには届かない。
『王女』というその立場が、『次期女王』というその立場が、泣き叫ぶことも自分の意見を押し押すことも許さなかった。
ただ議会の間にティア一人がいた。
「守れないのは……どうして?」
こんなにも、こんなにも悔しいのは大切だから。無くしたくないから。
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