いつきが日々を綴ります。日々のぐだぐだを語ったりしてます。時々本の感想が紛れ込んでたりするかもです。
知り合いの方に言われて、更新しなければいけないことに気がついたダメっ子です。
本日二回目の登場になります。
『いつきさん、今日は更新しないんですね。残念』
「え、しましたよ。しょうもない話ですけど」
『え、いや。魔王サマ』
「……、あっ。忘れてました」
『オイ』
こんな会話でした。すみません、何か色々と。
今日のちょっと笑った話といえば、めちゃくちゃ賢い友人が『三日三晩』を『みっかさんばん』と読んだこと。
可愛い。
あ、前回、前々回のとき『山も落ちも……』と書いたら、これまた知り合いの方に『ちょっと誤解した(笑)』と笑われてしまいました。
本日二回目の登場になります。
『いつきさん、今日は更新しないんですね。残念』
「え、しましたよ。しょうもない話ですけど」
『え、いや。魔王サマ』
「……、あっ。忘れてました」
『オイ』
こんな会話でした。すみません、何か色々と。
今日のちょっと笑った話といえば、めちゃくちゃ賢い友人が『三日三晩』を『みっかさんばん』と読んだこと。
可愛い。
あ、前回、前々回のとき『山も落ちも……』と書いたら、これまた知り合いの方に『ちょっと誤解した(笑)』と笑われてしまいました。
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『魔王陛下の教育係』
「では本日から、魔王陛下の休憩時間であった午後二時半から三時半のお茶の時間を『教育時間』ということにさせていただきます」
秘書よろしくノアレスさんは手帳を持ち、予定を説明する。どんなに魔王らしくない魔王様でも、仕事は山のようにあるらしい。
……そんな忙しい中、『教育』する必要はあるんでしょうか。
「の、ノアレス……さん?」
敬称はコレでいいのか? と思いながら呼びかけると、ノアレスさんはぎっとこちらを睨んだ。
きれいなお顔なだけに、なかなかの迫力ですね、とは言えない。言ってしまえばさらに怖い顔で見られるのは必須だ。
「『ノア』でいいです。賢者様。敬称も結構です。私は魔王陛下の護衛であり、秘書ですから」
『魔王陛下の』のところに妙な力が入った気がしますが、気のせいですか。ノアさ……、ノア。
「わたしのことも、『雪乃』と呼んでもらっていいですか? わたし、五百年前の賢者そのものというわけではないし」
『賢者』になる決意をしたわたしは、慌ててこの世界について何も知らない理由を考えた。
この頭で大層なことが考えられるとは思わないが、考えないよりはましだろう。
いくらなんでも、五百年前のことを『全て忘れました』と言えるわけもない。
結果、苦し紛れに『賢者』の生まれ変わりということにした。何とか信じてもらえている。
こればかりは賢者の資料の少なさと、手を加えていないこの黒髪に感謝するしかない。
そうでなければ、今頃わたしは八つ裂きにされていそうだ。
「そうですか。ではユキノ。今日からよろしくお願いします」
パタンと手帳を閉じ、それから小さく礼をした。パサリと落ちるプラチナブロンドに見惚れてしまう。
どんなに性格がよろしくなさそうでも、外見には出てきませんもんね。そんなことおくびにも出さず『分かりました』と答えた。
まだ猫をかぶっているけれど、けっこう我侭が通ってしまうのでそのうち外れてしまいそうで怖い。
ノアが出て行った扉を見て、そっとため息をついた。疲れることこの上ないのだ。なにしろ、自分の命がかかっているのだから。
『魔王の教育』
それは勉強とか言うものではなく、『魔王様』を『魔王』らしくすることだそうだ。
魔王様はそれはそれは穏やかで優しくて、常に民(ここでいう民は魔族や悪魔さんたちのことらしい)に心を砕いていらっしゃるとか。
それはいいとしても、威厳の欠片も持ち合わせていないらしく、このままでは色々問題が起きるらしい。
たとえば、人間たちになめられて戦争が勃発してしまうとか。
かろうじで保たれている人間との不可侵条約が崩れるとか。人間と魔族は仲が悪いっているのはお約束だけど、なかなか複雑らしい。
普段のわたしなら、『どうでもいいわ、そんなもの』と思うけど、帰ることと自分の命がかかっているので、それなりに努力するつもりではいる。
ぼふん、とイスに座り、そこまで考えると手身近にあった羊皮紙(驚くことに、普通の紙は存在しない)にペンを走らせる(このペンもペン先にインクをしみこませるヤツ)。
『魔王様改造計画 ~完璧な魔王への道~』
幸い言葉も文字も読めるので(お約束に感謝)苦労は少ない。
せいぜいばれないように気をつけるくらいだが、少々おかしくても『生まれ変わり』だから、で言い訳は結構効くはず。
黒髪黒目は人間の方でも少ないらしく、わたしのような真っ黒な髪と瞳は人間側でも滅多に生まれないらしい――。
と知っているのは最近日課になりつつある図書館通いでの成果だ。
さすがに知らぬ存ぜぬではいけないと思い、目下勉強中だが、苦痛はない。帰る方法を見つけることができるかもしれないのだから。
「御機嫌よう、魔王陛下。本日から教育係となり……」
「おお賢者殿。ちょうどいいところに」
昨日のようなドレスでなく、機能的なスーツ(のようなもの)に身を包み、挨拶へと向かったわたしが見たものはエプロン姿の魔王様だった。
ちゃんと上品そうに見える服装と口調で人がわざわざ出向いたんですけど?
「何をなさっているんですか、魔お……」
「ジル」
呼びかける言葉は途中で切られ、ずいっと魔王様の整った顔が近づく。
美形さんのどアップってそれだけで心臓に悪いものなのだと痛感してしまう。多分、一生に何度も味わえない感覚だろう。
「俺の名前はジルベール。そう言ったろう? ジルと呼んでほしいとも。役職の名で呼ばれるのは好きではないんだ。
あなたもそうだと聞いたが? ユキノ」
いきなり名前で呼ばれてビクリと反応してしまう。深い声はそれだけでわたしの心臓を鷲掴みしてしまったようだった。
顔も声もそれなりが一番だと身をもって知る。無駄によすぎると変に緊張してしまってダメだ。
と、いうか、周りに迷惑がかかって仕方がない。
「ちなみにその敬語もやめてほしい。せっかくの客人だ。堅苦しい話などこんなときまでしたくない」
トン、と私の前にあるテーブルに茶器が置かれる。
魔王様――ジルはエプロンを素早く取り外すと、イスを引き視線だけでわたしに座るように促した。
ノアといい、ジルといい、口に出すなら出せ、と言いたくなるのをぐっと我慢し、黙ってイスに座る。
計画表という名の指導表を脇に置き、大人しく手をひざの上に置いた。
「さてユキノ、今後のことについて茶でも飲みながら話そうか」
ポットを持ってこちらへ向くジルは、とてもではないが魔王に見えなかった。
魔力の欠片も見せない、ただの顔がいい青年にしか見えない。……もちろん、角は異質なのだけれど。
穏やかで、深く濃い瞳をカップへと注ぎ、慎重にポットの中身をカップへ移すその手つきも優しげだった。
不意に『この手は誰かを傷つけることができるのだろうか』と考えても仕方のないことが浮かぶ。
そっと差し出されたカップの中身は鮮やかなピンクの液体だった。
桜を思わせるような色合いと、ふわりと香る甘い香りに手が出る。
紅茶のような香りだと思う。ゆっくりと手の中でカップを包めば、熱いというよりも温かかった。
紅茶みたいに、熱い湯では入れないんだ。
ジルがこちらを凝視しているのが分かり、口にカップを持っていく。予想以上にぬるいので、こくりとそのまま一口飲んだ。
「おいしい」
ひとりでに出ていた言葉を聞いて、ジルは顔をほころばせた。そんなに嬉しいんでしょうか? 魔王様。
「俺の淹れる茶の中ではコレが一番だからな」
自慢げにそういい置いてから、自分の分のカップへ口をつける。
それを見やって、わたしは手帳を自らのほうへと引き寄せた。お茶のためだけに来たのではない。いや、お茶が予想外だったのだ。
本来の目的を果たさなければ、『わたし』がノアに殺される。
「魔王さ」
「ジル」
口を開くとすぐさま非難がましい声で訂正される。でもいいんでしょうか。
人間のわたしが『仮』にも(ここ重要)『魔王』を名前で、しかも呼び捨てで呼んで。後で怒られない?
イヤですよ、わたし。ノアにあの笑顔ですごまれるとか。本当に勘弁してほしいんですけど。
そう思ったのが伝わったのか、ジルはふっと口角を上げた。
うん、やっぱりニコって笑うよりも、そっちのほうが似合う。魔王、って感じがする。
「ジル、と呼んでほしいんだ」
そしてまた、邪気のない(何度も言うが魔王に使っていい言葉かどうかは別として)笑顔が向けられる。
今気づいた。わたしはこの人の笑顔に弱い。――顔がいいってそれだけで得ですよね。あやかりたい。
そんなことを思いつつ、息を吸った。
人の名を口にするのは、こんなにも難しいことだっただろうか。こんなにも緊張するものだろうか。
「ジル」
小さく、まだ呼んでいいのか半信半疑のままその名を口に出す。するとジルは小さく眉を顰め『迷っているのか?』と聞いてきた。
「別に、迷ってません。今日からの計画について考えていただけです」
がたりと席を立ち、ジルの後ろまで歩いていくと、手帳にはさんであった紙を机に置いた。
「ユキノ」
「計画表です。これに従って、あなたを魔王らしく教育させてもらいます」
計画表を立てたのはノアです、とか、定期的に試験があります、とか――教師としてなら頑張りましょう、とか、言うべきことはたくさんあるんだけど。
でも心によぎった感覚に気を取られ、口を閉ざした。それは急に浮かんだ疑問。
『どうして、魔王様らしくしなければいけないんですか?』
ジルのその性格だって、優しげな瞳の色だって、態度だって『ジル』のはずなのに。
なのにどうして、その性格自体を否定するようなこと……しなくてはいけないんだろう。
どうして、賢者なんか(結果間違っていたけど)呼んでまで、教育する必要があるんだろう。
大体『魔王らしくない』からって、こんなことをする?
仕事はこなしているようだし、性格以外は『魔王』なのに。
『このセカイはおかしい』
自覚した途端、足元が揺らいだ。
自分が、何かとてつもなく大きなことに関わっているのだと今更気がついた。
しかし気づいたからどうこうできる様な問題ではない。もうわたしは関わってしまった。後戻りなんてできるはずがない。
やるしかない。その疑問を口に出したところでまともな解答が耳に入るわけでもないだろう。
『帰るため』にはやるしかないのだ。
たとえそれがどんなに『おかしい』ことであっても。いつものように、関係ないと割り切ってしまえばいい。
わたしには関係のないことだと、自分で知っていればそれでいい。
――それがわたしだから。
5話
「では本日から、魔王陛下の休憩時間であった午後二時半から三時半のお茶の時間を『教育時間』ということにさせていただきます」
秘書よろしくノアレスさんは手帳を持ち、予定を説明する。どんなに魔王らしくない魔王様でも、仕事は山のようにあるらしい。
……そんな忙しい中、『教育』する必要はあるんでしょうか。
「の、ノアレス……さん?」
敬称はコレでいいのか? と思いながら呼びかけると、ノアレスさんはぎっとこちらを睨んだ。
きれいなお顔なだけに、なかなかの迫力ですね、とは言えない。言ってしまえばさらに怖い顔で見られるのは必須だ。
「『ノア』でいいです。賢者様。敬称も結構です。私は魔王陛下の護衛であり、秘書ですから」
『魔王陛下の』のところに妙な力が入った気がしますが、気のせいですか。ノアさ……、ノア。
「わたしのことも、『雪乃』と呼んでもらっていいですか? わたし、五百年前の賢者そのものというわけではないし」
『賢者』になる決意をしたわたしは、慌ててこの世界について何も知らない理由を考えた。
この頭で大層なことが考えられるとは思わないが、考えないよりはましだろう。
いくらなんでも、五百年前のことを『全て忘れました』と言えるわけもない。
結果、苦し紛れに『賢者』の生まれ変わりということにした。何とか信じてもらえている。
こればかりは賢者の資料の少なさと、手を加えていないこの黒髪に感謝するしかない。
そうでなければ、今頃わたしは八つ裂きにされていそうだ。
「そうですか。ではユキノ。今日からよろしくお願いします」
パタンと手帳を閉じ、それから小さく礼をした。パサリと落ちるプラチナブロンドに見惚れてしまう。
どんなに性格がよろしくなさそうでも、外見には出てきませんもんね。そんなことおくびにも出さず『分かりました』と答えた。
まだ猫をかぶっているけれど、けっこう我侭が通ってしまうのでそのうち外れてしまいそうで怖い。
ノアが出て行った扉を見て、そっとため息をついた。疲れることこの上ないのだ。なにしろ、自分の命がかかっているのだから。
『魔王の教育』
それは勉強とか言うものではなく、『魔王様』を『魔王』らしくすることだそうだ。
魔王様はそれはそれは穏やかで優しくて、常に民(ここでいう民は魔族や悪魔さんたちのことらしい)に心を砕いていらっしゃるとか。
それはいいとしても、威厳の欠片も持ち合わせていないらしく、このままでは色々問題が起きるらしい。
たとえば、人間たちになめられて戦争が勃発してしまうとか。
かろうじで保たれている人間との不可侵条約が崩れるとか。人間と魔族は仲が悪いっているのはお約束だけど、なかなか複雑らしい。
普段のわたしなら、『どうでもいいわ、そんなもの』と思うけど、帰ることと自分の命がかかっているので、それなりに努力するつもりではいる。
ぼふん、とイスに座り、そこまで考えると手身近にあった羊皮紙(驚くことに、普通の紙は存在しない)にペンを走らせる(このペンもペン先にインクをしみこませるヤツ)。
『魔王様改造計画 ~完璧な魔王への道~』
幸い言葉も文字も読めるので(お約束に感謝)苦労は少ない。
せいぜいばれないように気をつけるくらいだが、少々おかしくても『生まれ変わり』だから、で言い訳は結構効くはず。
黒髪黒目は人間の方でも少ないらしく、わたしのような真っ黒な髪と瞳は人間側でも滅多に生まれないらしい――。
と知っているのは最近日課になりつつある図書館通いでの成果だ。
さすがに知らぬ存ぜぬではいけないと思い、目下勉強中だが、苦痛はない。帰る方法を見つけることができるかもしれないのだから。
「御機嫌よう、魔王陛下。本日から教育係となり……」
「おお賢者殿。ちょうどいいところに」
昨日のようなドレスでなく、機能的なスーツ(のようなもの)に身を包み、挨拶へと向かったわたしが見たものはエプロン姿の魔王様だった。
ちゃんと上品そうに見える服装と口調で人がわざわざ出向いたんですけど?
「何をなさっているんですか、魔お……」
「ジル」
呼びかける言葉は途中で切られ、ずいっと魔王様の整った顔が近づく。
美形さんのどアップってそれだけで心臓に悪いものなのだと痛感してしまう。多分、一生に何度も味わえない感覚だろう。
「俺の名前はジルベール。そう言ったろう? ジルと呼んでほしいとも。役職の名で呼ばれるのは好きではないんだ。
あなたもそうだと聞いたが? ユキノ」
いきなり名前で呼ばれてビクリと反応してしまう。深い声はそれだけでわたしの心臓を鷲掴みしてしまったようだった。
顔も声もそれなりが一番だと身をもって知る。無駄によすぎると変に緊張してしまってダメだ。
と、いうか、周りに迷惑がかかって仕方がない。
「ちなみにその敬語もやめてほしい。せっかくの客人だ。堅苦しい話などこんなときまでしたくない」
トン、と私の前にあるテーブルに茶器が置かれる。
魔王様――ジルはエプロンを素早く取り外すと、イスを引き視線だけでわたしに座るように促した。
ノアといい、ジルといい、口に出すなら出せ、と言いたくなるのをぐっと我慢し、黙ってイスに座る。
計画表という名の指導表を脇に置き、大人しく手をひざの上に置いた。
「さてユキノ、今後のことについて茶でも飲みながら話そうか」
ポットを持ってこちらへ向くジルは、とてもではないが魔王に見えなかった。
魔力の欠片も見せない、ただの顔がいい青年にしか見えない。……もちろん、角は異質なのだけれど。
穏やかで、深く濃い瞳をカップへと注ぎ、慎重にポットの中身をカップへ移すその手つきも優しげだった。
不意に『この手は誰かを傷つけることができるのだろうか』と考えても仕方のないことが浮かぶ。
そっと差し出されたカップの中身は鮮やかなピンクの液体だった。
桜を思わせるような色合いと、ふわりと香る甘い香りに手が出る。
紅茶のような香りだと思う。ゆっくりと手の中でカップを包めば、熱いというよりも温かかった。
紅茶みたいに、熱い湯では入れないんだ。
ジルがこちらを凝視しているのが分かり、口にカップを持っていく。予想以上にぬるいので、こくりとそのまま一口飲んだ。
「おいしい」
ひとりでに出ていた言葉を聞いて、ジルは顔をほころばせた。そんなに嬉しいんでしょうか? 魔王様。
「俺の淹れる茶の中ではコレが一番だからな」
自慢げにそういい置いてから、自分の分のカップへ口をつける。
それを見やって、わたしは手帳を自らのほうへと引き寄せた。お茶のためだけに来たのではない。いや、お茶が予想外だったのだ。
本来の目的を果たさなければ、『わたし』がノアに殺される。
「魔王さ」
「ジル」
口を開くとすぐさま非難がましい声で訂正される。でもいいんでしょうか。
人間のわたしが『仮』にも(ここ重要)『魔王』を名前で、しかも呼び捨てで呼んで。後で怒られない?
イヤですよ、わたし。ノアにあの笑顔ですごまれるとか。本当に勘弁してほしいんですけど。
そう思ったのが伝わったのか、ジルはふっと口角を上げた。
うん、やっぱりニコって笑うよりも、そっちのほうが似合う。魔王、って感じがする。
「ジル、と呼んでほしいんだ」
そしてまた、邪気のない(何度も言うが魔王に使っていい言葉かどうかは別として)笑顔が向けられる。
今気づいた。わたしはこの人の笑顔に弱い。――顔がいいってそれだけで得ですよね。あやかりたい。
そんなことを思いつつ、息を吸った。
人の名を口にするのは、こんなにも難しいことだっただろうか。こんなにも緊張するものだろうか。
「ジル」
小さく、まだ呼んでいいのか半信半疑のままその名を口に出す。するとジルは小さく眉を顰め『迷っているのか?』と聞いてきた。
「別に、迷ってません。今日からの計画について考えていただけです」
がたりと席を立ち、ジルの後ろまで歩いていくと、手帳にはさんであった紙を机に置いた。
「ユキノ」
「計画表です。これに従って、あなたを魔王らしく教育させてもらいます」
計画表を立てたのはノアです、とか、定期的に試験があります、とか――教師としてなら頑張りましょう、とか、言うべきことはたくさんあるんだけど。
でも心によぎった感覚に気を取られ、口を閉ざした。それは急に浮かんだ疑問。
『どうして、魔王様らしくしなければいけないんですか?』
ジルのその性格だって、優しげな瞳の色だって、態度だって『ジル』のはずなのに。
なのにどうして、その性格自体を否定するようなこと……しなくてはいけないんだろう。
どうして、賢者なんか(結果間違っていたけど)呼んでまで、教育する必要があるんだろう。
大体『魔王らしくない』からって、こんなことをする?
仕事はこなしているようだし、性格以外は『魔王』なのに。
『このセカイはおかしい』
自覚した途端、足元が揺らいだ。
自分が、何かとてつもなく大きなことに関わっているのだと今更気がついた。
しかし気づいたからどうこうできる様な問題ではない。もうわたしは関わってしまった。後戻りなんてできるはずがない。
やるしかない。その疑問を口に出したところでまともな解答が耳に入るわけでもないだろう。
『帰るため』にはやるしかないのだ。
たとえそれがどんなに『おかしい』ことであっても。いつものように、関係ないと割り切ってしまえばいい。
わたしには関係のないことだと、自分で知っていればそれでいい。
――それがわたしだから。
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